稼ぐ力とウェルビーイングから、真に「持続可能なまち」を考える場に――第7回未来まちづくりフォーラム座談会レポート
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持続可能なまちづくりに取り組む、企業、団体、研究者らで構成する未来まちづくりフォーラム実行委員会は、3月18・19日に東京・丸の内で「未来まちづくりフォーラム」を開催する。今回で第7回を迎え、「ポストSDGs時代の稼ぐ力と新たな価値創造:地方創生とWell-Being」をテーマに、日本が直面する地方創生の課題や取り組みに焦点を当てながら、企業のサステナビリティ・アクションや自治体との共創事例を共有、議論する。フォーラムに先駆けて12月10日に開催された座談会では、実行委員会のメンバーがそれぞれの取り組みの現在地やフォーラムに向けた視点を共有した。(横田伸治)
笹谷氏
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笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長
(
以下、笹谷
)
:SDGsはバッジを付けて2030年に終わりなのではなく、むしろこれからが本番です。2030年までにSDGs全ての達成は相当難しいので達成に向けて全力を尽くしつつ、2027年には国連での検討が本格化する「ポストSDGs」の「玉込め」を日本として実行していくことが今は重要です。
その前提で、今回のテーマは、企業のパワー、つまり「稼ぐ力」と、「ウェルビーイングによる地方活性化」の2つとしたいと考えています。ウェルビーイングやサステナビリティという言葉だけを使っていても駄目で、SDGsの17目標のみならず169ターゲットまでしっかりとまちづくりにビルトインすることが重要となります。SDGsの169のターゲットを当てはめるのはいわば「規定演技」です。そのうえで、今は、ポストSDGsに向けてこれを超えた「自由演技」の発信が求められます。そして、一人ひとりが「自分の仕事はどのターゲットを担うのか」を自分事化して進めることも不可欠です。これらの重要性とヒントを実感できるフォーラムにしたいと考えています。
自社の事業がどんな価値を生み出しているか、もっと発信を
小寺氏
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小寺 徹
・
一般社団法人
CSV
開発機構 専務理事:このフォーラムに参加されるのは大企業の方も多いと思いますが、日本の大企業でサステナビリティ・CSVを真に実践できている企業はほぼ無いというのが現状であり、私は危機感を抱いています。
企業が現事業を通して目の前の課題を解決することを否定するわけではありません。むしろ、自社の事業がどんな価値を生み出しているかを、企業はもっと高らかに発信しても良いと思います。しかし、企業活動の中で新たに生まれてくる課題に、いかに事業として取り組むかが、未来の社会で選ばれる企業であるために重要なのです。
私たちはこの点について、大企業の社員が自分事として実践できるよう、企業への研修活動を行っています。全ての事業部の全ての人が、同じ方向性を向いてサステナビリティに取り組むための制度や社内風土を作っていかないと、新たなCSV事業は生まれてこないと考えています。
遊佐氏
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遊佐希美子・株式会社オカムラ サステナビリティ推進部 部長:笹谷さんからはこれまでにもサステナビリティの「規定演技と自由演技」の考え方を教えていただいてきました。取り組みを進める中で、各種外部評価やガイドラインなどの基準を見ながら穴を埋めていくような、「規定演技」は達成しつつあると考えていますが、サステナビリティ・CSV実践という「自由演技」は難易度が高く、私たちの存在意義を内外に示すうえでも非常に重要であると考えています。
今回のフォーラムには、車椅子卓球の選手としてパラリンピックに出場した社員が登壇する予定です。身体障害の面だけでなく、仕事と競技のバランスも含めた彼の働き方が、今後社内外での重要な知見となると考えています。弊社としても彼の活躍をバックアップしながら、それをまた多様な働き方に対応できる空間構築・環境構築に生かしていきたいと思います。
笹谷:ありがとうございます。オカムラさんとも長いご縁になりますが、オフィス設計や働き方の提案をされている御社は、個人用のワークブースの推進や、立ったり座ったり姿勢を変えたり仮眠をとりながら働くスタイルをコロナの前から提唱していました。多様な働き方や社員の快適性に対応するという課題への感度を、関係者を巻き込んで養っていらっしゃるのだと感じましたが、まさにウェルビーイングに向けた取り組みが本格化しています。169のターゲットを当てはめるSDGsのいわば、「規定演技」を超えた「自由演技」を磨いている段階だと思います。
課題や取り組みがつながる「自由演技」的な好循環
野坂氏
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野坂千博・株式会社熊谷組 経営戦略室 サステナビリティ推進部 部長:ウェルビーイングや人材確保といった話題では、弊社は能登半島地震の復旧作業において無人化施工システムを導入しています。日中の有人作業に加えて、夜間に現場から離れた操作室から一人のオペレーターがモニターを見ながら無線でバックホウ※1を操作し、自動運転のクローラーキャリア※2で土砂を運搬する無人化施工を行っており、現場負担を減らしながらも全体で約3割超の工期短縮が図れる計算になっています。
フォーラム当日には、野菜の水耕栽培と魚の養殖をかけ合わせた「アクアポニックス」にさらに「藻の培養」をかけ合わせた新たな生産システムを紹介したいと思います。野菜を育てて水を浄化し、魚を養殖し、魚の排泄物をバクテリアに分解させることで水耕栽培の養分となる、という循環に、当システムではアクアポニックス内の有機物や排水を使って別設備で藻類を育て、それにより得た培養液を野菜の肥料にしたり、藻そのものを養殖用の餌として与える循環を加えました。これにより、さらに節水や水質改善が図られるなど環境負荷を低減でき、加えて、栄養価が高く味が良い野菜や魚を作り出せるシステムとなっています。
藻類によるCO2固定も期待できます。現在佐賀市の清掃工場で発生するCO2を、パイプラインを通して藻類に吸収させることを考えているほか、本システムを利用した教育カリキュラムについて、佐賀県内の高校との協定も結んでいます。
※1 主に土砂等を掘削し、運搬車両に積み込む作業を行う建設重機
※2 走行装置がクローラー式(キャタピラー)の運搬車両
笹谷:数珠つなぎのように課題や取り組みがつながっていく、「自由演技」的な好循環ですね。総合建設業という枠を大きく超えて、佐賀県も含めた多くの関係者、事業が共創して作り上げた事例です。
本山氏
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本山 仁
・プライムライフテクノロジーズ株式会社 経営企画部 担当部長
(
兼
)
ブランド推進室 室長
(
兼
)
建設ソリューション事業統括部
PLT
ラボ運営室 室長
:プライムライフテクノロジーズグループはパナソニックとトヨタ自動車から生まれた会社で、まちづくりに取り組んでいます。
「持続可能なまち」とは、住んでいる人に加えて「ここに住みたいと思う人」が長い期間にわたりたくさんいるまちだと考えます。ではこれからは何が望まれるまちの要件かというと、今の人たちは社会的な責任に対する意識が高いこともあり「特定の世代に偏らない便利で豊かなくらしができる」という経済価値はもちろんのこと、「いかに社会課題の解決に取り組んでいるか」という社会価値が備わっていることがその要件となるでしょう。
最近は福島県伊達市をフィールドに、官民連携でまちづくりのプロジェクトを進めています。協議会には多くの企業が入りましたが、特に「このまちで事業をやるんだ」と自分事として考えてくださる地元の企業様が中心となって、一緒に魅力あるまちづくりを進めています。戸建て部分は販売中ですが、既に「地域住民主体のイベント」も開催されています。そうしたことがまちの魅力をつくっています。まちに関与する人が「まちをつくることは自分事」という姿勢も持続可能なまちをつくる上では重要であると考えます。
笹谷:オカムラさんの働く場所の話に続いて、人々の住む場所のお話、素晴らしいと思いました。今の事例をプレゼンするだけでも、フォーラムで大変反響を呼ぶのではないでしょうか。
価値創造は地方にこそ強みがある
田口氏
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田口真司・
エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会) コミュニティ研究所長:私たちは大手町・丸の内・有楽町エリアのまちづくりと、さまざまな国内地域との連携を図っています。都市部は消費する力やコーディネート機能、情報発信力など、プロデュースが得意ですが、価値創造という点では地方にこそ強みがあると考えています。
地方と組んで進めている事例としては、地震被害で観光全体がダメージを受けた石川県七尾市で、温泉旅館の再開に向けて取り組んでいるものがあります。同じく、かつての経済的求心力を失ったまちという点では、炭鉱で栄えた北海道美唄(びばい)市でも、寒冷地であることを生かした自然空冷型のデータセンターの設置などを進めています。
資源で栄えたまちが完全に元通りになることはなく、今まで以上に「競争ではなく共創」に社会が移っていくために、人間が知恵を使わないといけないのだと思います。世界で見れば、中東も近い将来に同じ道を辿るでしょう。未来まちづくりフォーラムも7年目になりますが、新たに参加された企業も含め、チャレンジしたことの成功も失敗も伝えていくのが大切だと考えています。
石川氏
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石川智康・
一般社団法人全国地ビール醸造者協議会
(JBA)
理事・事務局長
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農都交流プロジェクト プロデューサー
:私たちは地ビールをフィールドにしています。最近はクラフトビールと呼ばれることも多く、にぎわっているように見える地ビールですが、経済的な持続が課題です。1994年の法改正以降に醸造所が全国で増えた一方で、公的資金を投入した第3セクターをはじめ、マーケティングがうまくいかずにつぶれたところもたくさんありました。
地域を豊かにするために素晴らしいものを提示しても、結局は経済的に自立して持続することが必要だと日々痛感しています。やはり、地域でスモールビジネスをやる際にも、「顧客を見定めて満足度をしっかり高める」というマーケティングの基礎をしっかりやるべきだということを考えています。
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鈴木氏
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鈴木紳介・
未来まちづくりフォーラム事務局長
:私からは、2024年に経験したエピソードを共有しておきたいと思います。
サステナブル・ブランド(SB)で運営している若者コミュニティ「nest」のメンバーたちと、東京都檜原村の関係人口・交流人口創出に向けた提案をしてきました。檜原村は島しょ部を除いて東京都で唯一の村で、消滅可能性都市にも指定された自治体なのですが、若者と一緒に提案をしていく中で、まちが持続可能になるために必要なことを改めていくつか感じました。
ひとつは、住民自身が地域の魅力をもっと自覚すること。そして、他地域や企業団体との連携を本気で考えること。最後に、若者にも届くような情報発信の強化です。今日お集まりの皆さんのような企業がプロジェクトを打ち出しても、自治体側が本気で受け止めて、予算を付けて住民を巻き込まないと持続しません。そのようなことを考えながら、皆さんのお話をお聞きしていました。
笹谷:素晴らしい体験ですね。未来まちづくりフォーラムはSB国際会議と同時開催で、オーディエンスも相互に乗り入れることになりますので、「みらまち」には大企業の経営に近い層からの反響も得られることが大きなメリットになります。
「VUCAの時代」と言われるように、現代はさまざまなリスクと不確実性の時代であり、それに対応するスマートシティやスーパーシティというものが立ち上げ段階を終えて、「稼働」するというフェーズに入っています。住み続けられるまちと、そこに暮らす人の幸せをどう考えるかが重要になっています。地方と都会の二項対立ではなく、人口の多いところも少ないところも、それぞれの地域活性化と持続可能性を探る必要があります。
今回目指すのは、稼ぐ力とウェルビーイングという明確なテーマ立ての下で、皆さんからいただいたキーワードをもとに、「みらまち」らしい角度から実践と交流を深める場にしたいと思っています。
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<第7回未来まちづくりフォーラム 開催概要>
https://sb-tokyo.com/2025/program/miramachi/
◆開催テーマ「ポストSDGs時代の稼ぐ力と新たな価値創造:地方創生とWell-Being」
◆会 期:2025年3月18日(火)・19日(水) ※セッションコンテンツは3月19日のみ
◆会 場:東京国際フォーラム
◆主 催:未来まちづくりフォーラム実行委員会
◆特別協力:サステナブル・ブランド国際会議(株式会社 博展)
◆後 援:内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、全国知事会、全国市長会、全国町村会、一般社団法人CSV開発機構、一般社団法人全国地ビール醸造者協会(JBA)、一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク、エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)、千葉商科大学 サステナビリティ研究所、一般社団法人チームまちづくり