• 公開日:2026.04.15
地域とつくる日本型洋上風力 五島沖で動き出した“浮体式”の現実解
  • 環境ライター・箕輪 弥生
浮体式洋上風力として国内で初めて大規模な商用運転を行っている「五島洋上ウィンドファーム」
写真提供:戸田建設(以下同)

再生可能エネルギーの主力電源化が求められる中、洋上風力発電は日本のエネルギー戦略における重要な選択肢となっている。とりわけ、水深が急激に深くなる海域が多い日本では、海底に固定しない「浮体式」の実用化が鍵を握る。

長崎県五島市沖で2026年、商用運転を開始した浮体式の「五島洋上ウィンドファーム」は、その可能性を具体的に示している。戸田建設が開発した工法により施工の制約を大きく緩和し、建造ヤードを地元に設け、資材調達や施工の多くを地域内で完結させることで、雇用創出や産業への波及を生み出している。さらに躯体(くたい)が漁場機能を持つなど、漁業との共存も進みつつある。事業主体である戸田建設の取り組みから、その現在地と今後の課題を探る。

日本の海洋環境に適した浮体式洋上風力を開発

左:ハイブリッドスパー型風車の構造 右:海上で浮体内部に海水を注入してタワーを建て起こす

日本は海に囲まれた島国であり、排他的経済水域(EEZ)は世界で6位の広さを誇るなど洋上風力のポテンシャルは大きい。政府の第7次エネルギー基本計画でも、洋上風力は「再エネの主力電源化に向けた切り札」とされ、官民協議会が策定した「洋上風力産業ビジョン」では2030年に10ギガワット、2040年に30~45ギガワットの案件形成を目指している。

その目標達成には、海底に支柱を立てて風車を設置する「着床式」だけでなく、水深の深い場所にも設置できる、海底に固定しない「浮体式」の普及が欠かせない。

その第一歩となるプロジェクトが長崎県五島市沖で商用運転を開始した「五島洋上ウィンドファーム」(2.1メガワット×8基)である。戸田建設が京都大学などと開発した「ハイブリッドスパー型」は、コンクリート製と鋼製を組み合わせた浮体構造部に、ブレード、ナセルなどで構成される風車を搭載し、3本のチェーンで海底に係留する。コンクリートを使用することでコストを抑制し、低重心による安定性を確保している。

浮体構造部を海上へ運搬する方法にも、独自技術が使われている。「FLOAT RAISER(フロートレイザー)」と呼ばれる台船に浮体構造部を載せて沖合まで運び、台船のバラストタンク内に海水を注入して沈めることで浮体構造部を浮かせて、台船上から引き出す(フロートオフ)。続いて浮体内部に海水を注入して重心を下げ、横になった状態から立ち上げる。最後に大型のクレーン船でナセルとブレードを設置して風車を完成させる。つまり、浮力を活用した海上での組み立てを実現しているのだ。

陸上で浮体や風車を完全に組み立ててから設置海域に曳航(えいこう)する方法では、大規模かつ高強度の岸壁が必要だが、この工法では比較的小規模な港でも施工できる。五島列島のような大規模港湾がない地域でも、建造ヤードを設けて対応できたのはこのためだ。

昨今の風車大型化に伴い、洋上風力の普及拡大には「風況」だけでなく「適した港湾の有無」もより重要となってくる。戸田建設の担当者である土木営業第3部営業企画課の北風亮課長は「この手法なら、特殊な港でなくても施工できるメリットがある」と話す。

完成した設備は海に浮いた状態となり、強風や高波で傾いても、重心のバランスによって「起き上がり小法師」のように自然に元の状態に戻る。また、躯体を倒して最も効率よく風を受けられる状態でブレードを回すなど、日本の気象、海象条件に合わせた工夫が随所に施されている。

「魚が集まる風車」が変えた、漁師たちのまなざし

五島市の建設会社が参画して設置された浮体建造ヤード

洋上風力は事業規模が大きく、膨大な部材が必要で産業の裾野も広いことから、サプライチェーンの国際連携も必要となるが、最も重要なのは地域との連携だ。

同プロジェクトでは当初、別の場所で躯体を製造して運搬する案もあった。だが「地域から五島で浮体を作ってほしいとの声があり、市内に建造ヤードを整備した。資材調達や建設工程の多くを地元で完結させ、地域経済への貢献を目指した」(北風課長)。

躯体のコンクリートも五島産を使用し、溶接作業なども地元で行った。最盛期には同社関連の社員を含め150人超が従事するなど、多くの雇用を創出した。さらに、作業員の宿泊や飲食による消費、年間1000人を超える視察者の来訪が、観光業など第3次産業にも波及効果をもたらしている。

2013年から稼働する実証機「はえんかぜ」の海中浮体部は、魚が集まる魚礁に

さらに、躯体の海中部分が魚礁の役割を果たし、魚が集まる効果が2013年に設置した実証機で確認されている。このため、「当初は懐疑的だった漁業関係者もいたが、今は多くの方々が事業を応援してくれている」(北風課長)。

欧州では、造船業や漁業が振るわず衰退した港が、洋上風力の一大拠点として、企業や労働者が集まる港湾都市として再生した例にもみられるように、洋上風力には地域を活性化させる大きな力が秘められている。

山積する洋上風力拡大への課題

ポテンシャルは大きな洋上風力だが、課題も少なくない。五島のプロジェクトでは日立製作所製の風車を採用し、国内調達率は85%と高い。しかし同社は風車事業からすでに撤退しており、現在、浮体に搭載できるような商用機を扱う国内風車メーカーはほぼ存在しないため、今後は海外からの調達が不可避となる。

北風課長は「普及の最大の課題はコストダウンであり、風車の大型化や量産化が必要。大型化に対応した躯体や施工技術の開発も急務となっている」と指摘する。さらに、「欧州を参考に、事業者が参入しやすいよう、長距離の海底送電ケーブルなどを国が公共インフラとして整備すべきだ」と提案する。

日本の洋上風力は近年、資材高騰や円安、インフラ不足、入札制度の課題などで採算性が揺らいでいることも事実だ。しかし、カーボンニュートラルを実現し、エネルギー自給率を上げるためにも、ポテンシャルの大きな洋上風力を活用しないという方策はない。

大型風車にも対応する技術開発と、政策の整備による量産化への道筋が早急に求められている。

written by

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。

東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/

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