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脱炭素特集

AI普及、脱炭素に対応した再エネ100%のデータセンターが道内に急拡大

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ソフトバンクは日本最大の再エネ100%データセンターを苫小牧に建設中だ

生成AIの普及によって、データ処理に必要な電力需要の拡大が見込まれると言われる中、北海道に再生可能エネルギーを100%利用する大型のデータセンター(以下DC)の建設が相次いでいる。2024年10月、ソフトバンクは苫小牧市に、東急不動産は石狩市に再エネを100%利用する大規模なDCを着工、京セラコミュニケーションシステム(京都市)は石狩市に再エネ利用のDCを開所した。どのDCも、洋上風力、太陽光、水力など地域の再エネを使う。この動きに先んじているのが、2011年から石狩市でDCを稼働させるさくらインターネット(大阪市)だ。エネルギー効率の向上を図りつつ、2023年6月から再エネ電源にすべて変更した。第7次エネルギー基本計画の議論では、DCの電力需要の増加が原発新設などの根拠となっているが、ここでは再エネが豊富な場所にDCが拡大する現象が顕著だ。(環境ライター 箕輪弥生)

豊富な再エネ資源と省エネに直結する気候がデータセンターを呼ぶ

昨年12月に政府が発表した第7次エネルギー基本計画の案は、「データセンターや半導体工場などの増加により、大幅な効率改善を見込んだとしても、将来の電力需要については増加する可能性が高い」と表記し、このことは、原発の新設・建て替え(リプレース)を進めるひとつの根拠となっている。しかし実際には、今後需要家のクリーンな脱炭素電源へのニーズが高まる予想から、再エネを使った大型DCの建設ラッシュが北海道で始まっている。

ソフトバンクは苫小牧市に再エネ100%利用の300MWを超える日本最大のAIデータセンターを建設中だ。2026年開業予定のこのDCは、急増するAI処理に対応するため、データ処理と電力消費を全国に分散するインフラ構想の要として建設するものだ。

現在、DCの約8割は東京圏や大阪圏などに集中しているが、レジリエンス強化や電力負荷の分散などの課題に対応するため、同社は新たなDCの拠点として豊富な再エネのある北海道の苫小牧市を選んだ。

北海道は太陽光、風力、水力のポテンシャルが全国で最も多いのに加え、DCの運営には大量の熱が発生することから、気温の低さはそのまま省エネに直結する。さらに北極海ルートで海底ケーブルを敷設する構想など、複数の国際海底ケーブル計画が進行中ということも後押しした。

ソフトバンクが、日本最大のAIデータセンターを苫小牧市に建設する理由について示した図表(出典:ソフトバンクニュース)

一方、東急不動産は石狩市に2026年4月からの稼働を計画する15 MWの「石狩再エネデータセンター第1号」を建設中だ。同社は主に太陽光発電のオンサイトPPA事業により、DCへ自営線で再エネ電力を直接供給する。不足分の電力は外から購入するほか、非化石証書を組み合わせる。同社は石狩市と脱炭素先行地域でのまちづくりについても協力する方針だ。

AIと蓄電池で、時間単位で需給調整――京セラコミュニケーションシステム

京セラコミュニケーションシステム「ゼロエミッション・データセンター 石狩」の電源構成

京セラコミュニケーションシステムは、石狩市に再エネ100%で運営する「ゼロエミッション・データセンター 石狩」(2~3MW)を2024年10月に開所した。

ここでは、DCの近隣にある石狩湾新港洋上風力発電所と同社の太陽光発電所の「生グリーン電力」を組み合わせ、AI技術と蓄電池を活用して時間単位で需給を調整する。DCとしての安定性を担保するため、非化石証書を使った電力も用意するが、最大限依存は減らす。スタートして約2カ月経つが、現状は再エネだけで稼働しているという。

また、年間を通して冷涼な外気が確保できるため、外気冷熱を活用しサーバー室を冷却したり、サーバー室の排熱を床下空調などに利用し、エネルギー効率を高めている。

同社ICT事業本部 デジタルソリューション事業部 ゼロエミッション・データセンターの尾方 哲部長は「道内にDCが集積してきたことにより他社とも連携して、地域の課題解決や政策提案を行っていきたい」と話す。

水力発電を中心とした再エネ電源100%に切り替え――さくらインターネット

クラウドコンピューティングに最適化したさくらインターネット石狩データセンター

これらの大型DCの道内進出の先達となったのが、2011年、業界大手のさくらインターネットの石狩湾新港地域への進出だ。同社の石狩データセンターは、これまでも省エネに向けた取り組みを積み重ねてきた。2013年に変換ロスを抑えることができる「直流給電システム」を開始し、2015年から太陽光発電所を開所、2023年6月からDCの電力を、水力発電を中心とした再エネ由来へ変更し、実質CO2排出量ゼロを実現した。

同社の前田章博取締役は「水力発電は気候条件などに左右されず安定的に確保できるエネルギーなので、再エネ100%であっても安定性は保たれている」と話す。

さらに「年間の平均気温が8度前後の冷涼な石狩の空気をサーバールーム内に取り込むことで、一般的な都市型DCと比べて消費電力をおよそ4割削減している」と省エネの効果を分析する。

「データセンターの電力需要拡大に原発が必要」は実態を無視

各社とも、北海道の冷涼な外気を省エネに活用し、蓄電池や安定した水力発電などを活用することで再エネ100%でありながら、安定性も担保している。

エネルギー基本計画での議論のひとつとなっているDCによる電力需要については、「短期的には生成AIの需要拡大などにより増加傾向になりそうだが、技術革新により抑えていけるようになるのでは」と京セラコミュニケーションシステム尾方部長は推測する。

さらに、エネルギー政策に詳しい東北大学の明日香壽川(あすか・じゅせん)教授は、DCの需要拡大をエネルギー政策の根拠とした第7次エネルギー基本計画についてこう指摘する。

「日本において、DCやAIなどの需要拡大によって電力需要量が急増するために日本全体が電力供給不足になり、それを回避するために原発が不可欠というような議論は、間違った三段論法で、実態を無視したミスリーディングな言説だ」

実際、道内での再エネによるデータセンターの拡大は、明日香教授の言葉を裏付けている。まずは省エネと再エネを最大限活用したDCが先決であり、日本はその技術とポテンシャルを持ち合わせていることを忘れてはならない。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/