
サステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティ「nest」第5期は、日本製紙連合会との共創プログラム「めぐる紙から、つづく暮らしを考える」を5月と7月に実施した。Day1では東京都北区の「紙の博物館」を訪ね、Day2では愛知県春日井市の王子製紙春日井工場と王子ネピア名古屋工場で「紙の循環」を体感。「炭素の循環を活(い)かす、新しい紙製品」をテーマにしたワークショップでは、次世代らしい斬新なアイデアが次々に飛び出した。紙に対して漠然と「環境に良くないのでは」と感じていたメンバーは、プログラムを経てどう変わったのか。参加した3人に話を聞いた。
神戸市外国語大学4年
高崎経済大学3年
かえつ有明高等学校3年
――このプログラムに参加する前、「紙」や「製紙業界」に対してどんな印象を持っていましたか?
蟻川宙生さん(以下、蟻川) 紙からデジタル化への流れで、製紙業界は落ち込んできているという印象がありました。紙が木から作られていることは知っていたので、大量に伐採して作られる、大量生産・大量消費のイメージが強く、温室効果ガスをたくさん出しているのではないかと思っていました。

飯塚好初さん(以下、飯塚) 学校でプリントが配られるので、紙を使う機会は多いんです。でも、その場で使い切ってしまう感覚があって、自分がリサイクルしているという意識もありませんでした。個人的には「新聞離れ」も気になっています。実は今年から新聞を取り始めたのですが、読んでいるとターゲット層が自分より随分上の世代だと感じます。
北村あずみさん(以下、北村) 私は雑誌が好きで、特に紙で読むのが好きです。ただ、世間では紙からデジタルに移行したり、雑誌が休・廃刊する動きもあったりして、製紙業界には逆風が吹いているなと思っていました。
――「紙を使うことは環境に良くない」と感じたことはありましたか?
北村 高校では「紙を使いすぎるのは良くない」という意識があって、裏紙を使ったりリサイクルしたりしようという動きがありました。当時は、古紙がリサイクルされて循環しているところまでは知らなかったので、紙を使うことはあまり良くないのかなと漠然と考えていました。

飯塚 これまでプリントをたくさん配っていた先生も急に変わって、「ペーパーレス」という言葉が広がるとともに、なんとなく紙をあまり使わない方がいいという意識につながっていたと思います。
現場で感じた「紙の循環」
――紙の博物館を見学して、特に印象に残ったことは何ですか?
蟻川 古紙回収率が約80%で、実際に再利用されているのが約66%だと初めて知りました。100%の回収は難しい中で、この数字は、製紙業界がかなり努力されているのだと思いました。

飯塚 木を植えて伐採するまでの年数に従って植林し、循環させているという展示を見て、木を切ること自体が環境に悪いのではなく、消費の仕方が問題なのだと気付きました。自分が偏った認識を持っていたことに気付かされました。
――王子製紙春日井工場と王子ネピア名古屋工場に足を踏み入れて、最も印象に残ったことは?
北村 工場の中がとても暑かったのが印象的でした。紙は、薄くて手に持てる小さなものというイメージだったのに、作る過程では大きな重機を使う圧倒的なスケール感で、工場自体の広さにもびっくりしました。機械だけでなく工場全体が大きく、木を植えたり周りの騒音に配慮したりと工夫されていて、脱炭素だけでなく外側の環境も意識されているのがすごいなと思いました。
飯塚 バスの中から見た、古紙が積まれている「古紙ヤード」が一番印象に残っています。古紙の量が減っていると聞いていたのですが、減っているとは思えないほどの量があって驚きました。工場の中は、紙のロールが思っていた3倍くらい大きくて、シンプルにびっくりしました。

蟻川 機械音が大きくて、工場の方の説明が聞こえないほどの迫力でした。王子ネピア名古屋工場では、見学に来る人向けにFSC認証の説明などの展示があって、紙が環境に配慮されたものであることを発信していこうという心意気を感じました。
――こうした「紙の循環」を現場で目の当たりにして、どう感じましたか?
蟻川 これまでは、紙は意味のあることに使わないといけない、という「気負い」がありました。でも、紙が適切にリサイクルされているプロセスを見て、もっと気軽に使っていいツールなんだなと感じました。使うハードルが下がりました。
北村 それまでは消費者目線で、紙を買って、使って、捨てるだけでした。でも、その背景を見ることで、リサイクルにつなげないとダメだと思うようになりました。紙が循環できる良いものだと知ったからこそ、リサイクルの機会があれば自分から積極的に活用していくことが大事だな、と。
飯塚 工場に行ってからは、紙自体が循環しているということもあって、かっこいいなと思うようになりました。以前はプリントもデジタルの方が便利で良いというイメージがあったのですが、フィールドワーク後は日記も電子から紙のノートに切り替えました。
「炭素の循環」という深い理解
――「紙の循環」と「炭素の循環」の違いも学びましたね。
飯塚 化石燃料は地下から資源を持ってくると、それが排出されて戻すことができないので循環しません。一方、木や紙は伐採してもまた植林し、紙もリサイクルされて循環していく。全体で見たときに炭素としても循環しているという、2つの循環が重なっているのがかっこいいなと思いました。

北村 目には見えないですが、紙を作る工程で、紙が形を変えながらその中で炭素も循環しているというイメージになりました。木から紙になり、古紙になっていくという循環の中で、炭素も同じように循環している。紙に包まれているような感じで理解しました。
蟻川 紙は物質として目に見えますが、炭素は見えません。違いを一言で表すなら、見えるか見えないか。だからこそ、例えば古紙をどれだけ回収したかによって、お店で還元されるポイントが変わるといった形で、炭素の循環への貢献を実感できる仕組みが大事だと思います。
――「紙が脱炭素に貢献できる」という話を聞いて、率直にどう思いましたか?
飯塚 言葉だけを聞いてすぐ理解できたわけではないのですが、実際に工場に行って、紙がリサイクルされていることや炭素の循環という背景を知った上で聞くと、納得できました。製紙業界全体が炭素削減のために動いてくれているとわかったので、それを理解した上で、紙を使うことが脱炭素につながるのだと実感しました。
蟻川 例えばFSC認証を持った紙製品を選ぶことに、意味を見出せるようになりました。それまでは「なんとなくいいんだろうな」と思って選んでいたのが、具体的に紙がどうリサイクルされているかを知ったことで、より意味が見えるようになった感じです。

北村 目に見えないものは自分で想像することが難しいですし、聞いただけで一度で理解できるわけではありません。ただ、実際に働いている人や工夫している人から話を聞き、見学することで、全体像が見えてきました。
「デフォルトを変える」発想
――ワークショップでは脱炭素への3つのアプローチ、つまり「固定する」「置き換える」「貯めておく」をヒントに、各チームが「新しい紙製品」を考えました。自分たちのチームのアイデアで特にこだわったポイントは?
蟻川 「置き換える」のアプローチで、ガチャガチャのカプセルを紙製にするアイデアを考えました。大学で経済学を学んでいて、「人はデフォルトに弱い」という説を知りました。プラスチックが当たり前になっているものを紙に替え、かつ、ペリペリ剥がす動作にすることで、剥がしたら捨てるものだという認識にしてもらう。デフォルトを変えるという発想がポイントです。

北村 お菓子の袋のプラスチックを紙に「置き換え」、そこにトレンドや遊び心を入れる製品を考えました。捨てるときに自分たちで紙とプラスチックを分別する、古紙として紙の循環に回すという行動を意識してもらう設計にしました。若者や子どもが知らないうちにいいことをしていた、というきっかけになるように工夫しました。
飯塚 プラスチック製ハンディファンの羽根を紙に「置き換える」、「めぐるぐるファン」というアイデアです。紙が循環しているということが、今回全員が一番実感した部分だったので、それを製品名にも込めました。工場の方から紙でいろいろな製品を作ろうとしている話を聞いて、紙の汎用性の高さを知り、それをデザインのカスタマイズという形で生かしました。
――日本製紙連合会や王子製紙からのフィードバックで、印象に残った言葉はありますか?

北村 「紙っていいんだよ」とシンプルに聞けたことが大きかったです。これまで学校では「紙はあまり良くない」というような、背景も知らずに先入観として持っていた部分がありました。それが、働いている人、工夫している人からの言葉として届いたことで、自分の中で価値観として落とし込まれました。
飯塚 ワーク自体が、実現可能性を一旦脇に置いて考えた案だとおっしゃっていました。実現可能性まで考える価値ももちろんありますが、あえてそこを考えずに新しい発想を想像するからこそ思いつく案もある。両方が大事だなと思いました。
これからの紙との付き合い方
――プログラムを通して、「紙」や「製紙業界」に対する印象はどう変わりましたか?
飯塚 ペーパーレスと言うと純粋に環境にいい印象を持っていましたが、今回、紙自体の価値をすごく感じたので、その良さが広まってほしいです。
北村 王子製紙の方がおっしゃっていた「紙っていいんだよ」という部分を改めて知ることができました。紙は適正に管理して使うことで脱炭素に貢献できる、循環もするということを知れて良かったです。
蟻川 最近観た映画『トイ・ストーリー5』は「デジタルとアナログの共存」が大きなテーマでした。紙とデジタル、それぞれにメリットがあり、適材適所で共存できると思っています。
――プログラムでの経験を踏まえて、日常の中で紙や環境のことを「あ、これは…」とふと考えることはありますか?
飯塚 新聞を取るようになり、日記も電子から紙のノートに切り替えました。受験期なので、パソコンで志望理由書を書くことが多いのですが、パソコンだと言葉が出てこなくて、ノートに手で書いてみたらすごく出てくるということがありました。

北村 ガチャガチャの機械そのものもプラスチックのかたまりです。トレンドになっていくものの中に紙がうまく入り込めれば、未来を支えていく層に浸透していくかもしれないと思いました。
蟻川 コンビニでアルバイトをしているのですが、レシートは特定の樹脂が使われていてリサイクルできないことが多い。そのまま捨ててしまっている紙製品をリサイクルできる仕組みがもっとあればいいな、と思うようになりました。
――気候変動がますます厳しくなる時代に、紙とどう付き合っていくのが良いと思いますか?
飯塚 フィールドワークで紙の可能性を実感できたからこそ、紙が環境にいいということが広まり、紙でできている製品がもっと増えたらいいなと思います。日常の中で何に紙を生かせそうかを考えてみる視点が、紙に限らず環境を考える上でも大事だと思いました。
北村 気候変動などで環境が変わっていく中でも、自分が好きなもの、大切にしたいものを長く使い続けられるような循環の仕組みがもっと広がればいいなと感じました。紙の循環という新しい視点を通じて、大切なものを未来につなげていけたらと思います。
蟻川 大学のサークル活動でも、自分が環境にいい選択をしていくと、それを参考にしてくれる友達や後輩がいます。まずは自分自身が変わって行動で示していく、紙の商品を選んでいくといったことを通じて、「紙って環境にいいんだよ」「脱炭素に貢献できるんだよ」という話をさりげなく伝えていくことが大事だと思います。
共創プログラムを終えて
日本製紙連合会 理事長付特別補佐 秋山民夫
今回、サステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティ「nest」のメンバーの皆さまとプログラムを初めて実施させていただきました。
紙・板紙製品は私たち生活者の周りに多く存在していますが、紙・板紙という素材を製造するプロセスや環境問題への対応等の姿は一般の方々には浸透していない現状があります。
また、インタビューにもありましたが、「人はデフォルトに弱い」との行動経済学での理論で言えば、「ペーパーレスは環境に良い」とのいわば初期設定が多くの場で謳(うた)われ、そのまま浸透しています。
ペーパーレスの効果や製造過程における環境への負荷を全面的に否定するものではありません。紙づくりにおける環境問題への取り組み、特に再生できる木材資源を原料とする環境との関係、古紙のリサイクルを通じた炭素循環の構造等を正確に理解し、サステナブルな社会を構築していくために、何が本当に良いのかを考えてもらうことが今回のプログラムの目的でした。
Day1での「紙の博物館」見学、Day2での王子製紙株式会社春日井工場・王子ネピア株式会社名古屋工場見学の実地研修では真剣に目と耳を傾け、何かを得ようとの目的意識にあふれた姿勢に大変感銘を受けました。
また、その後の質疑応答を通じ、皆さまの紙づくりや製紙業界へのイメージに変化が生まれていることを感じ取ることができ、私どもも大変うれしく思っています。
2030年のSDGs目標年はすぐそこに迫っています。混迷する世界情勢の中、未来のサステナブルな社会を考え、その実現に向けて活躍するのは若い世代であるメンバーの皆さまです。今回のプロジェクトに参加して得たものが少しでもお役に立てれば何よりです。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。










