
ファストファッションの普及を背景に、ファッション産業では環境負荷や人権問題、衣類廃棄などさまざまな課題が顕在化している。しかし、その解決は企業だけでも消費者だけでも実現できない。一般社団法人unisteps(以下、ユニステップス)共同代表理事の鎌田安里紗氏は、多様な立場の人々が率直に語り合う「対話の場」や、生産現場に触れる「体験の機会」を通じて、サステナブルファッションへの理解と実践を広げる活動を続けている。教育や人材育成にも取り組み、業界横断組織の事務局も務める鎌田氏に、その活動の原点や、課題解決へのアプローチについて聞いた。(環境ジャーナリスト 箕輪弥生)
一般社団法人unisteps共同代表理事
2009年より、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。2020年に一般社団法人unistepsを共同設立。企業・行政・デザイナー・生活者など、多様なステークホルダーと共にファッション産業におけるサステナビリティに関する取り組みを推進する。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。著書に『わたしの服はどこからきてどこへいくの?──服と人とのサステナブルな関係を考える』共著(晶文社)
服の生産と消費、廃棄が加速している
――ユニステップスは、ファッション産業の変革を加速させるため、多岐にわたるプロジェクトを展開しています。2020年にユニステップスを立ち上げた背景や理由を教えてください。
設立の10年前くらいから、生活者の方に向けた情報発信や生産地を訪れるツアーなどを行っていたのですが、個人の意識に頼った啓発活動には限界を感じていたんですね。ファッション業界は、消費スピードの加速やリニアなものづくり、劣悪な労働環境、環境負荷の増大などさまざまな問題を抱えています。それらの課題は個別の問題ではなく、ある意味システムエラーだと思うので、そのシステム、構造そのものに介入することが必要だと考えたのです。
――ファッション業界が抱える課題の中で、鎌田さんが最大の問題点と捉えているのは何でしょうか。
服の生産と消費の量とスピードが増えて早くなっていることが、他の課題にも影響を及ぼしている最も大きな問題だと考えています。日本でも1990年から2019年にかけて、衣料品の供給量は約2倍になった一方で、平均単価は半額以下になりました。
「使い捨て」という表現は極端かもしれませんが、多くのエネルギーや資源を投じて作られた服が短い期間で手放されています。また、現在の技術では全てを循環させることは難しく、多量の衣料品が廃棄されています。
そして、服がどこでどんな風に作られて、手放した後どうなるのか、サプライチェーン全体の中で見えない部分が非常に多い。この透明性がないことも大きな課題です。

出典:2026年環境省「ファッションと環境の現状」
ケニアで見た古着問題の実態

――その深刻な実態を示す現場を知るために、2023年8月にケニアの視察に行かれたのですね。
はい。ファストファッションのビジネスモデルが日本で主流になったのは2010年前後です。その結果、多くの人が服をたくさん買って、家に不要な服がたまっていく状況ができてしまったのが2020年代で、それをどう手放すかが今まさに課題になっています。
世界各地から大量の古着がケニアやガーナ、チリなどにたくさん送られて、それが自然の中に打ち捨てられている。実際に現場で何が起きているのか、自分の目で確かめるために現地を訪れました。
――ケニアの古着問題を実際に見た時、日本で感じていた課題意識と、現地で見えた現実との間にギャップはありましたか。
現地では、古着販売で生計を立てる人々や、安価な古着流入で自国の繊維・縫製産業の衰退を懸念する事業者など、さまざまな立場の人から話を聞くことができました。売れない低品質の衣類は現地で投棄され、川や海へ流れ、石油由来の繊維がマイクロプラスチック問題を引き起こしています。輸出側の品質管理と、輸出した先でも活用できない可能性が高いものは輸出前にリサイクルに回すなどの仕組みが必要だと感じました。
業界横断で課題解決を目指すJSFA
――鎌田さんは、ファッション産業を変えるために、いま最も介入が必要なのは「企業」「制度」「消費者」のどこだと考えていますか。また、具体的にどんな介入が必要だと思いますか。
全部です。企業も行政も消費者も、他のステークホルダーの様子を慎重にうかがうことが多く、本音で議論する機会は決して多くありません。 だからこそ、多様なステークホルダーが同じ場に集まり、立場に根差す「ポジショントーク」を前提としながらも率直に語れるような対話の場が必要でした。そこから共通の問題点や構造的な課題を探り、それぞれが動くようにする、そういった場がこれまでなかったのです。
2020年に環境省が「ファッションと環境のタスクフォース」を設置し、川上から川下までの関係者が集まってサステナビリティについて話すという勉強会が開催されました。多様な業種が集まって議論する重要性を参加者の多くが実感し、翌2021年に民間主導で立ち上げられたのが「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」(JSFA)です。
2025年8月に一般社団法人化し、私たちの団体は事務局を務めています。参加企業は当初の11社から約74社(2026年6月時点)へと拡大し、繊維メーカー、商社、アパレル企業、リサイクル事業者、検査機関から物流事業者までサプライチェーンの多様な主体が参加する組織になっています。
――JSFAではどんな課題に取り組んでいるのでしょうか。
「カーボンニュートラル」と「ファッションロスゼロ」という2つの大きな目標を掲げています。カーボンニュートラルについては、温室効果ガス排出量の簡易算定のガイドラインを策定するなどの取り組みを経て、削減の前提となる算定についての取り組みがこの数年で大きく進みました。
会員企業のスコープ3算定率は約70%まで向上しましたが、リユースやリサイクルなどの静脈産業や副資材などの業種は、排出量をどのように算定するかが依然として難しい課題です。
算定が進んだことで、サプライチェーンの中でどこに排出量のホットスポットがあるのかが見えるようになり、必要な対策も明確になってきました。ただ同時に、その対策コストを誰が負担するのかという新たな課題も浮上しています。
――「ファッションロスゼロ」についてはいかがでしょう。
服をごみにしないため、全国の回収拠点をまとめたマップを作成し、もうすぐ公表される予定です。
また、これはJSFAの取り組みではないですが、これまで技術的な課題が大きかった混合繊維の分離や再生についても、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) の8年間の研究プロジェクト(2025年度〜2032年度)の中で研究が進められ、繊維メーカー5社(帝人フロンティア、倉敷紡績、東レ、日清紡テキスタイル、日本毛織)が連携し、繊維を再資源化する技術の開発が進められています。中東情勢の影響によってポリエステルなどの石油由来素材の価格も上昇していますし、資源循環の重要性はますます高まっています。
社会的責任を考えるデザイナー教育

――鎌田さんはデザイナー支援や教育プログラムにも力を入れています。
デザイナーは素材や製品設計の意思決定を行うため、ファッション産業のシステム全体の中で重要な役割を担っています。だからこそ、美しさと社会的責任の両方を備えたファッションを評価する場が必要であると考え、ファッションデザイナーの中里唯馬さんや、VOGUE JAPAN、環境省らと共同でアワード兼エデュケーションの場である「ファッション・フロンティア・プログラム」を立ち上げ、今年で6年目になります。
ファイナリストに選ばれると、さまざまな講義を受けられるほか、参加者同士の交流機会もあります。その後、作品制作を経て受賞者が決まる仕組みです。私たちは、賞をとったらそこで終わりではなく、エデュケーションプログラムやネットワークが得られることに重点を置いています。
これまで15カ国から応募があり、国際色豊かなプログラムとなっています。多様なバックグラウンドを持つ人たちが集まるため、とても刺激的な場になっています。
消費者の「受け取り力」を育む
――鎌田さんは最近、共著書『わたしの服はどこからきてどこへいくの?』(晶文社)を出版されました。多くの生活者は、服を「商品」としては見ても、「背景のある存在」としては見ていないように思います。人々の意識は、どこから変わる必要があると感じていますか。
私自身も以前は服を売る現場にいながら、服が作られる現場を見る機会がほとんどなかったので、コーディネートを次々に変えることがファッションを楽しむことだと思っていました。でも一度その生産現場を見ると、「こんな風に服が作られるんだ」というのがすごく面白かったんです。そうすると完成した服を見た時も、入ってくる情報量がまったく違ってきます。この「受け取り力」を高めると、服をたくさん買わなくても、一着の服から得られる喜びが増えていきます。
――消費者向けのフィールドツアーや「服のたね」プロジェクトを行っているのもそういう背景からなのですね。
そうですね。生産現場を見にいくと、たとえ大量生産でも想像以上に多くの工程が手作業で支えられていることに、みなさんびっくりされる。「この価格では安すぎるのでは」という声もよく聞かれます。
「服のたね」プロジェクトは、オーガニックコットンの種から実際に苗を育てて綿花を収穫し、それを製品化するまでのプロセスを体験してもらいます。実際に体験するとまず時間軸がすごく長い。それに気候や害虫によってもリスクがあることがわかり、「オーガニック」という言葉の意味も体感として理解できます。参加者の方から「服って本当に植物だったのですね」と言われたことがあります。
その人の中の想像力や受け取り力がないと、いくら外から「これが問題で、こっちが正しいんです」と言っても絶対に伝わらないと、私自身の経験から思います。さまざまな体験の機会をみんなで共有できたらいいなと思っています。
博士研究と現在の活動の接点

――サステナブルファッションについて多彩な活動をされる一方で、2025年に大学院で博士号を取得されたと伺いました。博士課程ではどのような研究をされていたのでしょうか。
博士課程では、「パターン・ランゲージ」という手法を用いて、生物多様性・自然資本の保全管理の仕組みづくりについての実践知を言語化する研究をしていました。
パターン・ランゲージは、ある分野で成果を上げている人には、個人の特性や能力だけではなく、その人が獲得してきた問題解決のパターンが備わっていて、それを言語化することで、他の人も学び活用できるようにしようという方法論です。福祉や教育などさまざまな分野で活用されていますが、私はこの手法を用いて、生物多様性や自然資本の保全に取り組む地域の実践者へインタビューを行い、どのように仕組みを構築しているのかを研究しました。
――研究と仕事の両立は大変だったのではないかと思いますが、その研究は現在の活動とどのようにつながっていますか。
本当に大変で、実際何度も大学院をやめようかと思いました。でもこの研究は多様なステークホルダーの価値がどこで重なり合うのかを見つけ、多くの人が同意し、一緒に行動できる仕組みを設計するということなので、今の活動にも通じるところが多いのです。この重なる領域を探り、協働できる方法を見つけていくという考え方はあらゆる分野で生かせる考え方ではないかと感じています。
――今後はどんなことに力を入れていきたいですか。
手を動かして作ってみることにもすごく興味があって、芭蕉布*づくりや葛布**(くずふ)づくりを体験しました。地域で採れる素材に手を加え、自分が着るものや食べるもの、住まいに関わるものを生み出していく営みは、とても創造的で魅力的だと感じています。そうした取り組みを国内外のさまざまな地域で見てみたいと思っています。次回予定しているインドネシアでのフィールドツアーでも、そのような現場を訪れる予定です。
*芭蕉布:沖縄本島北部の大宜味 (おおぎみ) 村で守り続けられている、糸芭蕉から織られる布
**葛布:植物の「葛(くず)」の繊維からできる静岡県掛川市の伝統工芸
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)
環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/













