
世界気象機関(WMO)は5月28日、最新の世界的な気候予測を発表した。今後5年間の世界平均気温が「産業革命前+1.5℃」を上回る可能性が75%と推定されるなど、世界的に温暖化が進行していることが改めて示された。エルニーニョ現象も影響し、2024年に観測された産業革命前+1.55℃の記録を今後5年以内に更新する可能性も高いという。特に大きな気温上昇幅が見込まれるのは北極圏で、さらなる海氷の減少も危惧されている。降水パターンの変化も予想され、異常気象への警戒感が強まる。こうした中、WMOは気象予報の基盤整備を加速するため、新たな資金調達の枠組みを立ち上げた。加盟国や多国間機関、民間セクターなどに幅広く資金協力を求めている。
このほど公表された報告書「Global Annual to Decadal Climate Update(世界の1~10年間の気候に関する最新情報)」は、WMOが年1回発表しているものだ。報告書の作成を担当したのは英国気象庁(Met Office)で、世界13機関の予測を統合したという。主な内容をピックアップして紹介する。
2030年までの5年間平均、+1.5℃超の確率は75%
報告書によれば、2026年から2030年までの5年間、地表付近の世界平均気温は、産業革命前(1850~1900年)の平均を1.3~1.9℃上回る範囲で推移する見込み。5年間の平均がパリ協定における目標値である+1.5℃を超える可能性は75%という予測だ。さらに、+1.5℃を超える年が少なくとも1年ある可能性は91%に上る。2024年の平均気温は産業革命前と比べて+1.55℃と観測史上最高を更新したが、2030年までのいずれかの年で、この記録を更新する可能性は86%と高い。
とはいえ、絶望するにはまだ早いかもしれない。2030年までに、産業革命前+1.5℃よりさらに深刻な影響が見込まれる+2℃の水準を上回る年がある可能性は、1%未満と極めて低い予測だ。また、報告書はこうも指摘している。パリ協定における+1.5℃の基準は、通常20年程度の長期平均で評価されるものであり、単年の平均気温がこの基準を上回ったからといって、パリ協定の目標達成が不可能ということにはならない。ただし、これらの基準を超える年の増加が、長期的な温暖化が危険な水準に近付いていることを意味するのは確かだ。
エルニーニョもあり、2027年には記録更新か
報告書の筆頭著者であるレオン・ハーマンソン博士は「2026年末にエルニーニョ現象の発生が予測されている。これにより2027年が、再び記録を更新する年となる可能性が高まっている」と指摘する。また、予測精度はそれほど高くないものの、2027年末から2028年の初めにかけても同様にエルニーニョ傾向を示す予測があるという。エルニーニョの発生は世界平均気温の上昇につながるとともに、干ばつや豪雨といった異常気象の原因にもなる。
北極圏の温暖化が特に急速に進む
今後5年間、北半球の冬季(11月~3月)における北極の気温は、1991~2020年の平均を2.8℃上回ると予測されている。この気温偏差(平年値との差)は、同期間の世界平均気温の偏差の3.5倍超に相当する。また今後10年の予測では、バレンツ海、ベーリング海、オホーツク海の海氷がさらに減少する見込みだ。
温暖化で降水パターンも変化
今後5年間、北半球の冬季(11月~3月)には、北半球の高緯度地域で降水量が平年を上回る可能性が高い。1991~2020年の平均と比べても、熱帯地域と高緯度地域では降水量が増加し、反対に亜熱帯地域、特に南半球では降水量が減少する見込みだ。これは、地球温暖化の影響で予測される変化のパターンと整合している。
一方、夏季(5月~9月)にはサヘル地域、北ヨーロッパ、アラスカ、シベリアで平年より降水量が多くなる可能性が高く、アマゾン地域では少なくなると予測されている。
気象予報強化に向けた資金調達の新枠組み
気候変動による気象の変化は、すでにばく大な経済的損失としても現れている。スイスに本拠地を置く大手再保険会社であるスイス・リーによれば、気候・気象関連の災害による損失は、2024年だけでも世界で3180億ドルに上ったという。世界経済フォーラムも、今後10年間で最も大きい長期リスクとして、極端な気象現象を挙げている。
このようにリスクが増大する中、気象予報が行われなかったり、精度が不十分だったりすれば、多大な非効率につながる。その経済的な損失は、穀物生産で年間最大2300億ドル、エネルギー分野で200億ドル、防災分野で90億ドルにも上ると推計されている。
実際、開発途上国の気象・水文機関には、信頼性の高い予報や警報を出すだけの機能が備わっていないことが多いという。世界の気象予報システムでは、各国の観測所、衛星、海洋ブイ、ラジオゾンデなどからデータを集めて処理しているため、一部の国の観測の不備は全世界に影響を及ぼす。国境を超えたデータ活用を調整し国際協力を推進しているWMOは、こうした世界的なシステムの重要性を強調するとともに、資金不足に警鐘を鳴らす。
世界の気候・気象観測と予報の基盤を強化するため、WMOはこのほど、新たな資金調達メカニズム「気象・気候・水インテリジェンス・コモンズ(WMOコモンズ)」を立ち上げた。今後5年間で1億ドル以上の調達を目指しており、世界の気象・気候・水に関する観測や予測、サービス提供システムに資金を供給するという。設立資金はアラブ首長国連邦(UAE)が拠出した。WMOコモンズは、加盟国に資金提供を求めるとともに、多国間機関、慈善財団、企業にも協力を求めている。
WMOコモンズは、世界の気象観測・予測システムを支えるための「集団保険」のような役割を果たすことを目指しているという。あらゆる国や企業が恩恵を受けるシステムに十分な資金が投入されていない状況を変えるため、幅広く資金を集める。
「気候リスクへの対応はデータから始まる」。WMOコモンズ発足のリリースにはこう書かれている。気候変動が進む中で適切な対策を講じるため、精度の高い観測と予測がますます求められていくだろう。
| 【参照サイト】 World Meteorological Organization https://wmo.int/ The WMO Commons https://commons.wmo.int/ Global Annual to Decadal Climate Update 2026-2035 https://wmo.int/resources/publication-series/wmo-global-annual-decadal-climate-update/global-annual-decadal-climate-update-2026-2035 |
茂木 澄花 (もぎ・すみか)
フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。











