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脱炭素特集

脱炭素先行地域が目指すもの~カーボンニュートラル実現に必須な連携

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北村和也

11月1日に、政府によって第二回目の脱炭素先行地域20カ所が選定された。
2030年に向け一定地域の電力を100%脱炭素化する自治体中心の提案が、最終的に全国で100カ所超選ばれる。先行地域には再エネ交付金が上限50億円支援され、熱心な取り組みを進める市町村は少なくない。政府の進めるカーボンニュートラル実現への目玉政策であり、今後の日本の脱炭素実現の鍵ともなる仕組みと言ってよい。今回のコラムではそこで求められる連携を企業など需要家の立場も含めて考えてみる。

脱炭素先行地域に込められたモデルとしての役割

脱炭素先行地域は、政府が決めた脱炭素ロードマップに組み込まれたモデル地域のことである。今年4月に発表された一回目は26地域が選ばれており、合計46提案となった。

脱炭素先行地域の選定状況 第1回+第2回 (出典:環境省)

全国1741自治体に比すればほんの一部であるが、札幌市や横浜市、川崎市、名古屋市などの大都市が水素利用などの先進技術を掲げて選ばれる一方で、山村や離島などの選定もある。
他の地域への波及モデルと考えれば、バリエーションは重要となるが、単に技術などの先進性だけを意味しない。

地域経済循環、地域活性化への貢献が選定の必須条件

脱炭素先行地域は、調査や実証ではなく実施事業であり、実現可能性が最も求められる。ただし明確な条件がある。選定作業を行った評価委員会は、第二回総評の評価基準で「地域経済循環への貢献」が選定条件のひとつだとはっきりと示している。

再生エネは分散型であり、広く地域に存在している。その資源は原則として地元に帰属する。しかし、2012年に始まったFIT制度では中央からの企業が資本力に乗って地域の再生エネ適地を押さえるケースが圧倒的であった。ところが近年は、大規模開発による災害などのリスクが表出し、地域での反対の動きが盛んになってきた。
四国や東北地方で、地域外の事業者による大規模な風力発電計画がとん挫し、地方のメガソーラーが強い住民の反対に合うケースが急増している。特に、地元事業者が入らず、地域に利益をもたらさない“よそ者のプロジェクト”は嫌われる。

脱炭素先行地域が条件として強調する地域経済循環は、そんな地元の意識の変化に対応しているといえる。脱炭素は、どの場所でも必ず実現されなくてはならず、莫大な費用もかかる。やらなければならないという義務が「ムチ」なら、先行地域で得られる補助や支援は「アメ」であろう。また、地域が主体となって再生エネ事業が進めば、さらなる経済効果が地元に見込めることになる。
その実施の仕組みは、地域主導をうたう政府の脱炭素ロードマップ(下図参照)の中にある。

脱炭素ロードマップが示す地域の実施体制構築 (出典:環境省)

このように地方自治体・金融機関、中核企業等が主体的に参画し、地域の各種ステークホルダーと連携する実施体制が推奨されているのである。さらに、そのような仕組みでなければ、地域で支持されず、再生エネ拡大につながらないと考えられている。

先行地域で生まれる再生エネ拡大の基盤

これは、実際の選定結果にも表れている。
提案は自治体が主体であるが、地元企業などの共同提案が認められる。第一回、二回を通して顕著だったのは、地域新電力などの地域エネルギー会社と地域金融機関との共同提案である。
地域エネルギー会社のケースは、合計10提案、12社あった。また共同提案ではないが、提案書での協力などの記載まで含めると全体の6割の27社となる。地方金融機関は、合計6提案に載った、山陰合同銀行、中国銀行、岩手銀行、滋賀銀行、大和信用金庫、山口銀行である。こちらも表には出ていないが、実際に協力している地銀を複数確認している。

山陰合同銀行の発電事業子会社「ごうぎんエナジー」のスキーム(出典:山陰合同銀行)

上記の図は、今年5月に設立された山陰合同銀行の発電子会社のスキーム図である。昨年の銀行法改正によって、地銀などのつくる子会社の事業範囲が飛躍的に広がり、成長分野である再生エネ発電事業に進出する地銀が増えている。
これは、第一回の脱炭素先行地域に選定された鳥取県の米子市、境港市が示した提案とほぼ重なる。図で連携相手とされる市町村(米子市、境港市)、地域新電力(ローカルエナジー)と親会社の山陰合同銀行は共同提案者となっている。

排除ではなく、連携の広がりこそが必要

地域脱炭素もそうであるが、地域主導の再生エネ拡大とは、地域外を排除することではない。地元を無視し、地元が参画しない事業や資本が嫌われているのである。地域には外から進出している企業も多い。雇用が生まれている現実があり、彼らは脱炭素を達成するための仲間でもある。
また、再生エネをより多く導入するために必要な各種の技術などを地域内だけでカバーするというのは現実的でない。
例えば、国内最大規模のバイオマス由来の熱供給施設を使って大型のシイタケ温室栽培を行っている岩手県久慈市の地域熱供給会社、久慈バイオマスエネルギーは、技術を保有する東芝の関連会社が資本参加している。ちなみに、久慈市は自治体新電力の久慈地域エネルギーと岩手銀行と組んで、第二回の脱炭素先行地域に選定されていて、この熱供給システムもその中に組み込まれている。
また多くの地方銀行が、脱炭素化に必要なCO2排出量把握のためのアプリケーションを融資先の中小企業などに紹介しているが、提供するいくつかのベンチャー会社は必ずしも地元の会社ではない。
さらに、先行地域で共同提案する地域エネルギー会社にサポート役として地域外の資本が入っていることも珍しくない。

重要なのは、再生エネ拡大と地域経済循環の基盤が、地域にあるかどうかである。地域外の企業などすべて含めて、脱炭素は日本全体で達成しなければならない。そこでは排除の思想ではなく、いかに地域に基盤を作り外部も含めて協力していけるかの連携の思想が必要となる。
地域の再生エネ資源の取り合いが各地で見られる。これからは争って自分だけが獲得するのではなく、いかに協力して再生エネを増やしていくかというパイの拡大が需要になる。脱炭素先行地域は、そのためのよきサンプルでもある。再生エネ資源不足に頭を悩ませる需要家が多いこともよく知っている。地域を支援することこそが、結果として再生エネ獲得の近道であると感じ取ってもらいたい。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。