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脱炭素特集

自治体に求められる“地域の脱炭素経営” ノルマではない前向きなカーボンニュートラルとは

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北村和也

Photo by Ji Seongkwang on Unsplash

「脱炭素経営」という言葉が定着してきた。

企業による、カーボンニュートラルを軸とした経営全体の見直しを指す。具体的には、経営層の強いコミットや温暖化ガスの排出量の算出と削減など経営自体の大きな変更を意味する。

一方、自治体を主体とする地域では、いまだに脱炭素に取り組むモチベーションが一律に高まっているという状況にはない。もちろん積極的な市町村もあるが、「これから勉強します」で済ませる地方公共団体も少なくない。政府が「地域主導の脱炭素」を掲げ、カーボンニュートラルの最大のツールである再生エネ資源が豊富であるのにもかかわらず、と言ってよい。

今回のコラムでは、自治体版の脱炭素経営、地域で求められるカーボンニュートラル施策について考えてみたい。

脱炭素化の動機を見つけられない地域

企業にとって、脱炭素は一朝一夕に実現できるものではない。これまでの事業の根本からチェックし直すことから始まる。例えば、売り上げ目標の達成を単純に追及するのではなく、製品やサービスが脱炭素のプロセスで作られているかも問われる。エネルギーの転換には外部要素が多く、複線的な取り組みが必須となる。

現状は、企業にカーボンニュートラルを迫る、金融を中心とした、いわば強力な“外圧”によって、脱炭素経営を進める企業が増えている。融資や社債の引き受け拒否や、カーボンニュートラルの製品でなければ売れなくなるという、恐怖心が企業を突き動かしている側面があるのである。

自治体の脱炭素の担当者などと話していると、脱炭素をやる意味から問われることがある。さらに「できない」「無理」とネガティブな声が続くことも多い。昔よくあった、再生エネは値段が高い、技術的にダメと導入できない理由から話すケースに似ている。

一方で、環境省が中心となって推し進める「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」を表明する自治体は、およそ750に激増した(6月30日現在)。42の都道府県が表明していることもあり、全人口の9割がゼロカーボンシティに住んでいることになる。

(「2050年二酸化炭素排出ゼロ表明自治体」 出典:環境省)

脱炭素先行地域に応募するなど脱炭素に熱心な自治体は少なくないが、一方で、取り組みに関心を示さなかったり頭から実現性がないと否定したりも珍しくない。この差を生むのは何であろうか。

実は、自治体は企業ほど“脱炭素に追い込まれる”ことがない。企業は事業存続の危機と脱炭素に取り組まないリスクを感じても、自治体自体は消滅しないと安心しているように見えることさえある。そういう市町村にとっては、脱炭素は、国や県などから降ってくる「ノルマ」としか見えない可能性がある。そこでは、脱炭素達成のモチベーションを見いだせず、自治体存続の危機感とも結び付けられずにいるのかもしれない。

地域にも必要な「経営感覚」

実際には、状況はそれほど楽観的ではいられない。

確かに、日本全体や一つの都道府県全部がいきなり消えることはないであろう(一部の県は、本気で心配しているが)。しかし、それぞれの自治体の将来は一律に存在するのでなく、必ず差が付く。それも今後、その差は広がる一方である。地方は、すでに出口の見えにくい長いサバイバル時代を突き進んでいる。生き残りに必要なのは、一定の知恵と実行力であり、サブタイトルにも入れた、企業でいう「経営感覚」と言ってもよい。そこでは、脱炭素を苦行のノルマではなく、利益を生むツールとしてもとらえる必要がある。

例えば、最近、進んだ少子化対策で話題となっている兵庫県明石市のことを思い浮かべる。

(出典:明石市のWEBサイトより)

細かくは説明しないが、こども医療費の無料化など独自の各種の子育て支援の取り組みを続けた結果、上図にある地元をこよなく愛する市民意識を生み、「全国戻りたい街ランキング2021で堂々の1位」(同WEBサイト)となったという。

注目されるのは経済的な効果である。泉房穂・明石市長が何度も語っているが、子育ての予算を増やしたことで財政が厳しくなるどころか、人口が増加し、出生率が増え、地域経済の活性化につながって、税収増から行政の財政健全化に結びついたというのである。もうひとつ、これらの施策は、世界のグローバルスタンダードで、日本のどの自治体でも可能だと強く訴えている。

脱炭素にも同様の視点が必要である。

必要な脱炭素実現のパートナー

ふと思い出したのが、脱炭素に積極的な自治体の担当者の多くが、カーボンニュートラルのメリットから語ることである。

地域に再生エネを増やして、流出するエネルギー費を減らしたいともよく聞くが、先日訪れたある県の担当者は、再生エネの供給できる工業団地を作って、脱炭素を進める企業を呼び寄せる計画を熱心に話してくれた。企業が、脱炭素実施を重荷とだけとらえるのではなく、新たなビジネスを生むチャンスと考えて行動するのとダブって移る。

自治体は、法的にも企業経営のような形態を取れず、一種の「公平性」にも縛られる。また、近年、財政が厳しく自ら大きな支出行動を取ることはできない。よって、必然的に地域内を中心とした民間企業を含む各種のステークホルダとコラボすることが現実的になる。

少し明石市の子育て支援に戻るが、泉市長も「人の育成、地域の協力も必要」と同様の話をしている。

下図は、政府が示す脱炭素実現のためのロードマップである。「地域において、行政・金融・中核企業等が主体的に参画した体制構築」が必要とはっきり記されている。

(脱炭素ロードマップの「地域の実施体制構築」 出典:国・地方脱炭素実現会議)

脱炭素という大仕事、さらにツールとしての再生エネが地域分散型であることなどから、政府は自治体が主導した地域内でのパートナーづくりを実現の必須条件としている。例えば、これまでこのコラムで紹介した、地域の新電力は、この「中核企業」の例の一つと考えてよい。

脱炭素のもたらす利点を具体的に考え、目標とすること、そして、地域に協力するパートナーを見出すこと、これが、カーボンニュートラル時代の“地域の脱炭素経営”の切り札となる。

次回のコラムでは、上図で自治体の次に挙げられ、各種プロジェクトを地域で実現するための要(かなめ)としての、地域金融機関と脱炭素の関係を取り上げる。具体例として、秋田県の地銀、北都銀行の地域のカーボンニュートラルと地域経済循環に向けた素晴らしい取り組みを紹介する。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。