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脱炭素特集

ドイツ、脱炭素への厳しい道のり【1】 再生エネ拡大のチャレンジは成功するか

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北村和也

Photo by Raja Sen on Unsplash

再生可能エネルギー先進国の先頭を走り、長いメルケル政権から新政権へバトンタッチしたばかりのドイツが、脱炭素で厳しい局面を迎えている。まず昨年、温室効果ガスの排出量が大幅に増えてしまった。直接的な原因は、再生エネ発電量の減少と石炭火力発電の増加であることがはっきりしている。再生エネ拡大でカーボンニュートラルを達成しようと邁進するドイツに何が起きているのか。今回のコラムはそこにフォーカスする。

再生エネ電力の割合が大きく後退

ドイツで最大の研究機関、フラウンホーファー研究所ISEの「ドイツの発電実績」(注:自家消費を含まず)のデータから見てみよう。

それによると、2020年に50%にまで拡大していた再生エネ電力の割合が、昨年は45.7%と大きく低下した。ドイツのFIT制度(EEG)が導入されて以来、ほぼ一本調子で増えていた再生エネ電源の割合が初めて大きく減ったことになる。

(ドイツの再生エネ電力の割合の推移 出典:Öffentliche Nettostromerzeugung in Deutschland im Jahr 2021 Fraunhofer ISE)

風力発電の不振と石炭火力発電による代替

割合だけでなく、発電量も再生エネは減らしている。最大の原因は、風力発電の不振であった。昨年は、欧州全体として風況が悪く、近隣国でも予想外の風力発電の低下が見られている。

以下のグラフで、ドイツの電源別の発電量の前年比の増減をみることができる。

(対2020年比の電源別発電量の増減 出典:同じ)

左から3番目のグレーの棒が風力発電の実績である。16TWh以上も大きく減らしている。他の再生エネが前年とほぼ同じであるのに対して、唯一下げている。

電力需要全体で、2020年は新型コロナの影響で30TWhも減った。そして、昨年は経済の回復などで逆に10TWh以上の回復となった。需要の増加に再生エネ発電は対応することができなかったのである。

これを石炭火力発電でカバーするしかなかった。褐炭(茶色)と良質な石炭(黒の棒グラフ)による発電の伸びで、風力発電の減少分に加えて全体の需要増をも埋め合わせている。このようにドイツは、停電を防ぐために、風力の不振を石炭で代替させるというぎりぎりの選択を取らざるを得なくなり、結果として温室効果ガスの排出を増やし、脱炭素に逆行することになったのである。

EUタクソノミーが選ぶ原発の復帰とドイツの方針

年明け早々の元日に、欧州の脱炭素に関する大きなニュースが舞い込んできた。EUで進められていた脱炭素に向けてのタクソノミー(分類)で原発を「グリーン」とする案が決まったのである。これは、年末までにすべての原発を停止させるというドイツの脱原発政策に真っ向から対立するものである。

すべての国がカーボンニュートラルの実現に苦心する中、石炭火力など化石燃料発電への投資減少などによって昨年後半からエネルギー費高騰が続いている。そこで再生エネのつなぎ役として原子力発電に頼る考えが強くなり、原発をグリーンとする声を大きくした。

しかし、ドイツは隣国のオーストリア、スペインなどとともに強い反対の姿勢を示している。実際に一時的でも原発回帰を選択することはなく、東日本大震災直後の春に決めた「脱原発のゴール」の変更はありえない。

解決策は、「あふれるほどの再生エネの拡大」

ドイツの方針は明快で、答えは、再生エネのさらなる拡大である。

脱炭素達成へのツールやエネルギー高騰への対応策は合わせて検討されている。その結果、脱原発を先延ばしすることなどによるリスクとコストを計算したうえで、再生エネのさらなる拡大が最適との結論に達している。

あるグラフを示しておこう。ドイツの再生エネ電源の拡大目標である。BEE(連邦再生エネ協会)によれば、以下のような莫大な数字である。

(太陽光発電=黄色、洋上風力=濃緑、陸上風力=薄緑、バイオマス=青、他)

(ドイツ、10年ごとの再生エネ発電施設の導入目標 出典:BEE)

発電能力で、2030年におよそ330GW、2040年で550GW、2050年には700GW超えという、まさに、あふれるような再生エネ電源である。現状で日常的に必要な電源能力は80GWといわれているので、最終的に10倍近い容量を再生エネ電源だけで達成しようとしている。

熱や交通などの電化などで今後電力の需要は増えるのは確実であるが、当然のように大きな余剰が生まれる。余った電気をどうするのか、と心配するのが普通であろう。それに対しては、EVの蓄電池利用やVPPなどいわゆる柔軟性(Flexibility)が回答として用意されている。

最も重要視するのは水素利用と考えられている。ドイツの国全体で技術開発とコストダウンの取り組みを進めている。水素活用の方法のメインは、大量で長期間のエネルギー貯蔵である。

この目標が達成されれば、脱炭素はもちろん、エネルギーの原料費がほぼかからなくなるので、今回のような高騰とは無縁になる。

ただし、課題は山積みである。何より、本当にこれだけ大量の再生エネ発電施設をインストールできるのかという疑問が解消されていない。

ドイツでは今、風力発電施設の追加が停滞している。現状の年間目標は7.2GWなのに、2021年の風力発電の導入実績はわずか1.7GW、期待が集まる洋上風力発電に至っては導入ゼロだったのである。太陽光発電も3分の1程度の実績で、目標との落差が大きい。

それでも、ドイツは今年の12月31日までにすべての原発を止める。

再生エネ先進国でさえ苦しむ、ドイツの脱炭素に向けてのチャレンジはまだ始まったばかりと言えるのかもしれない。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。