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脱炭素特集

ドイツが示す脱炭素への覚悟と地域主導の強さ

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北村和也

ヴェッテジンゲン・エネルギー協同組合のメンバー

なぜ、ドイツは再生可能エネルギー先進国の地位を確立し、脱炭素でも世界をリードできるのだろうか。

エネルギーシフト=エネルギー革命を掲げ、政府がドイツ版FIT制度で再生エネ拡大施策を推し進め、ビジネスにたけた民間企業や分厚い研究機関が下支えする。前回、本コラムで示した中央の構造に加え、もうひとつ地域での強力な実行部隊の存在がある。

分散型エネルギーである再生エネは、地域でこそ実施される。自治体、シュタットヴェルケ(都市公社)、地域の民間エネルギー会社、そして市民が支える地に足の着いた息の長い活動こそ、ドイツの本当の強さである。今回は、この地域での再生エネ拡大=脱炭素の主役に光を当てる。

市民の手にあるドイツの再生エネ

まず、以下の図から。

「市民の手にある再生エネ」2020年12月 出典:トレンドリサーチ

ドイツ語のままで申し訳ないが、タイトルにあるように、ドイツの再生エネ発電の大きいパートが市民の力で成り立っていることを示している。中心の数字118.3GWは2019年時点でのドイツの再生エネ発電施設の発電能力の合計である。円グラフはその施設を誰が所有しているかを示している。

最も割合が大きいのが30.2%を占める「個人Privatpersonen」である。さらに、「農家Landwirtinen」の10.2%を足すと、全体の4割を一般的な市民が持っているといってよい。ちなみに、それ以外で割合が大きいのはともに14%を超える「事業家Projekteirer」「ファンド/銀行Fonds/Banken」である。

実は、数年前までは市民の割合が5割を超えていた。FIT制度からFIP制度への変更、入札制度の導入などで、ドイツでも残念ながら個人が施設を持ちにくい状況になってきていることを付け加えておく。

自治体が行うエネルギー供給

ドイツでは、自治体が主体的にエネルギー供給などにかかわることが伝統として続いている。

その象徴としてよく知られるのが、シュタットヴェルケである。多くが自治体100%か過半数以上の出資の元、電力だけでなく、ガスや熱などの供給を手掛けている。また、公共交通や図書館、プールなどの市民サービスも担っている。日本では都市公社などと訳されることもある。小規模自治体でのゲマインデヴェルケなども含めると1000を超える数が存在する。中にはシュタットヴェルケ・ミュンヘンのように、売上1兆円に迫る巨大企業もあるが、職員数十人のこじんまりしたものも珍しくない。

仕事柄ドイツの二けたのシュタットヴェルケを訪問する機会があったが、再生エネの導入に積極的であり、自らが発電所を所有するケースが多い。風力や太陽光発電だけでなく、地域の資源を使った木質バイオマス発電なども行っている。特に熱利用は重要視していて、最近は熱供給の方が利益を上げることもあるという。

人口千人単位の小さな町や村では、シュタットヴェルケを持つことができないが、逆にそういう自治体が小回りの利いた再生エネの拡大に積極的に取り組んでいる。

ドイツ南部のバイエルン州の南はずれにあるWildpoldsried(ヴィルトポルズリート)は、人口わずか2500の自治体であるが、再生エネの利用でドイツはもとより欧州でも知られる存在である。

ヴィルトポルズリートの市民風車と前に立つ前町長

いくつか数字を挙げておこう。この町で生み出される再生エネ電力の総量は、消費する電力の8倍以上である。中心は市民出資による風力発電である。9基の発電能力の合計は17MWで投資総額は30数億円になる。一方で出資のリターンは8%程度が確保されていて、町の人たちはたっぷりと利益を享受している。

電力だけでなく再生エネの熱にも注力している。太陽熱利用(のべ2千数百㎡)はもちろん、バイオガスプラントのコジェネ(コージェネレーションシステム)による地域熱供給システムを年々拡大させている。

重要なポイントがある。すべての再生エネ施設を住民または自治体が所有しているということである。これは、形式的なことではない。つまり、先ほど挙げた風力発電のように、生まれる利益はすべて地元に帰するということである。これこそが、地産地消であり地域の経済循環である。そして、これを意図してすべての計画が進められている。だから持続可能で継続している。

地域の力を集める仕組み

地域の民間企業も積極的に取り組みを進めている。南ドイツで20年以上地域エネルギーに関わっているソーラーコンプレックス社を紹介しておく。目的は明確で、地域での再生エネ拡大と経済循環を目指している。もともと市民出資で始まった同社だが、現在1000以上の市民や地域企業が出資し、総額は8億円を超えている。

主なプロジェクトとして、太陽光発電が5MW、風力発電2.3MW、木質バイオマス発電12MW、バイオガス250kWなどとバラエティに富んでいる。バイオマス関連はコジェネを行っている。また、複数の自治体で地域熱供給システムを合計80kmにわたって張り巡らせている。

ソーラーコンプレックス社は、設立当初からエネルギーの地産地消によるエネルギー費の流出削減を訴えており、何度も来日しているミュラー社長から直接話を聞いたことがある人も少なくないだろう。

もう一つ特に取り上げておきたい仕組みがある。

エネルギー協同組合(Energiegenossenschaft)といって、主に再生エネの利用を住民が主体となって進める組合である。

組合員が一定の金額を出し合い、金融からの融資を受けて自らが再生エネ施設を建設運営する仕組みである。税制面などに優遇措置があり、再生エネの地産地消が進んだ2000年以降に急激に増加し、現在900程度の組合がドイツ全国に存在している。

日本の協同組合法とは制度がかなり違うため、残念ながら日本では同様のメリットを受ける組合を作ることはできない。
 
ドイツ中部の小さな町、ヴェッテジンゲンに木質チップボイラーで地域熱供給を行っているエネルギー協同組合がある。2009年に住民有志が発案し協同組合の結成も含めてわずか2年でプラントを完成し、各戸への温水供給をスタートさせた。現在は2百数十戸への供給を行っているという。

ヴェッテジンゲン・エネルギー協同組合所有の地域熱供給プラント

協同組合への出資金は一戸当たり数万円(脱退時返還)で熱供給が接続された時点で40数万円の費用がかかる。プラント建設はおよそ2億円、配管工事はおよそ5億円である。プラントは自動化されているが、メンテナンスなどに会員の6名が当たる。これはボランティアで人件費は計上されていない。

面白いのは、配管工事を地元の業者のみに発注すること。域外にお金が流出するのを避けるために、わざと工期を伸ばし地元業者でできる範囲で進めている。

ここに取り上げた地域での具体例は特別なものではない。ドイツのどこにでも似た取り組みが存在している。また、地域を大事にする理念は共通しているが、採算を度外視したりすることは決してない。きちんとリターンを計算し、得られる利益を確実にしたうえで事業としている。だからこそ、広がりがあるといえる。

ドイツでは、国が覚悟を決め、方針を打ち出す。研究所や大手の企業が研究や調査プロジェクトを進めて中央を固めている。しかし、これだけでは動かない。今回示したように、それぞれの地域での具体的な活動が全体の推進力となってことを忘れてはならない。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。