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脱炭素特集

ドイツが「エネルギーシフト」で示す脱炭素への覚悟

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北村和也

Etienne Girardet

再生可能エネルギーの先進国とされるドイツは、今、脱炭素へと邁進している。次々と繰り出される政府の施策は、世界の再生エネへの転換の象徴ともなったエネルギーシフト(ドイツ語でEnergiewende)を基本に、各種の研究機関の下支えを受け、民間企業が技術などの実装を担当する。

一方で、分散型のエネルギーである再生エネの実際の展開は、自治体やシュタットヴェルケ(都市公社)、地域のエネルギー会社、市民が中心となって実行されている。まさに、この中央と地域、2つの力が両輪となって進められている。ここにドイツの強さの一端がある。

今回のコラムでは、ドイツ全体の指針、エネルギーシフトとその実際をお話ししたい。

エネルギーシフトはエネルギー革命

日本でも使われるようになったエネルギーシフトは、もともとドイツの再生エネ拡大政策である「Energiewende(発音は、エナギーヴェンデが最も近い)」の日本語訳である。Energie はエネルギーであるが、Wendeはシフトよりもっと強い「革命」という意味に近い。

例えば、東西ドイツの統一は単純にWendeと呼ばれている。また、脱炭素に欠かせない熱や交通のシフトでは、それぞれWaermewende(熱革命)、Verkehrwende(交通革命)と呼ばれることも多い。

電力では、Energiewendeの中心となった法律、EEG(ドイツ版の再生エネ拡大のための法律)によって、この20年間で再生エネ電源は急拡大し、昨年の実績で全発電量の半分にまで達した。先日5月22日には、一日の発電量全体の78%を再生エネでカバーしている。

「ドイツの発電量(2021年5月22日)」 出典:Energy-Charts (Fraunhofer ISE)

脱炭素への取り組みは、ドイツ政府による2030年までの「気候変動プログラム」にまとめられている。

他の先進国より先行している発電では、2030年に全体の65%という目標設定を掲げた。また、20GWという大幅な洋上風力発電の拡大やこれまで設定されていた太陽光発電の上限52GWも撤廃されている。

研究機関の果たす大きな役割

ドイツではエネルギーに関して各種の研究機関によってリポートが毎年豊富に発表されている。

世界的にも有名なフラウンホーファー研究所や再生エネ専門のアゴラ・エナギーヴェンデ、ドイツ宇宙研究所(DLR)など枚挙にいとまがない。発表リポートは現状のデータとしてだけでなく、将来のエネルギーを見通す検討材料としても非常に有用である。リポートに目を通すときにいつも驚くのは、多くが他の研究施設の出したデータを比較として示していることである。自らの研究結果への自信とともに、利用する他の研究者や企業などに対してのていねいな対応に感心する。

単年度予算で各省庁がバラバラに発注する、似たような、そして、中途半端な日本での報告書との差はあまりに大きい。

ひとつわかりやすい研究と分析の例を取り上げてみたい。

フラウンホーファー研究所のうち、太陽光発電と再生エネ電力全体の調査を行っているFraunhofer ISEの作ったグラフである。

「ドイツの太陽光と風力発電の理想的な比率」出典:フラウンホーファー研究所ISE

これは、前項にあげた政府の太陽光発電施設導入の上限撤廃とリンクしている。

簡単にいうと、太陽光発電と風力発電の理想的な割合を示しているものである。太陽光発電は夜には発電せず、また曇りがちな冬は太陽が出る時間が短い。一方で、風力発電は夜も発電し、冬に強い風が吹いて最も発電量が多い。この異なった性質の2種類の発電をうまく組み合わせることで、人為的なコントロール(出力制限や蓄電、電力融通など)をしないでも一定の電力需要を効率的にカバーできる。ドイツでの理想的な比率を研究し、提案しているのである。

グラフの縦軸は風力発電、横軸は太陽光発電施設の発電能力となっている。図の真ん中や下から右上に緩いカーブを描いている紫色の線が「太陽光と風力の理想的な割合」を示している。その左側に年号入りで左の軸から上辺に至っている赤線が「実際の比率」である。結果は、太陽光発電施設がまだ不足していることがわかる。政府はこういうデータを参考にしながらエネルギーの政策を決めている。

急激に拡大するEV

再生エネ電力以外のドイツの2030年までの気候変動プログラムの特徴は、EVへの肩入れである。

以下のような具体的な施策を挙げる野心的なものとなっている。

・100万カ所のEV公共充電地点を設置(現状2.5万)
・EVを700~1000万台普及(現状8.3万台)

ドイツは、ご存知のようにガソリン車天国である。速度制限のないアウトバーンを軽く200キロを超えるスピードで飛ばすことに快感を覚えるドライバーは少なくない。バスが100数十キロを出して走るのに驚いたことが何度もある。

実際の再生エネ化率を見ると、電気が5割に達した一方で、熱は10数%、交通では5%前後を長くうろうろするばかりであった。

そのドイツが、EV化に力を入れると聞いても、これまでは、はてなマークばかりが頭をよぎっていた。走行距離の短いEVの出る幕はなさそうに見えた。

ところが、驚く勢いでドイツでのEV販売が伸びている。

「2021年3月の国別EVシェア」 出典:EVsmart

上図はEVと認められるBEV(純粋なEV)とPHEVの新車の販売合計を欧州の主要国で見ている。今年の3月の実績では、何とドイツは2割を超え、22%となった。圧倒的に先を行く北欧のノルウェー、スウェーデンは別にして、イギリス、フランスを上回る実績を作っている。

政府の手厚い補助金も強いサポートであるが、この数字はドイツ人の行動変容を示しているといってよいであろう。

そして、メーカーであるVW(フォルクスワーゲン社)が、今年の3月にEV化への大きな方針を発表している。2030年までに欧州に6つのバッテリー生産のギガファクトリーをつくるというもので、その本気度が示されている。VWは、長い間、燃料電池自動車を含めて、将来の方向性に関して優柔不断な態度を続けていたが、ここで旗幟を鮮明にした。これは、脱炭素への貢献、つまり倫理というより、EVでなければ売れないと考えたビジネス感覚の転換である。

ドイツ政府が、エネルギー革命を掲げて法的な方針と覚悟を示し、研究機関はこぞって“まともな研究”を人とお金をかけて行う。民間企業はそれに合わせて実装を進める。ドイツの脱炭素は、適切な組み合わせと役割分担で着実に動き始めている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。