• 公開日:2025.06.10
  • 最終更新日: 2025.06.10
「規格外スイカ使って」農家からのメールで実現した「氷結 mottainai」 
  • 横田 伸治

キリンビールは2025年6月、缶チューハイ「キリン 氷結 mottainai」シリーズの第3弾として、「キリン 氷結 mottainai 尾花沢すいか」を期間限定で発売することを発表した。本シリーズは、形や色など規格の問題でやむなく廃棄されてしまう規格外果実を「モッタイナイ果実」と位置付け、活用する取り組みだ。 

第1弾の横浜市特産「浜なし」、第2弾の高知県産「ポンカン」に続き、第3弾で扱うのは山形県を代表するブランドスイカの「尾花沢すいか」。今回はシリーズで初めて、生産者側からの働きかけによって商品化が実現した「逆提案」のケースとなる。発売に先駆けて実施された商品発表会では、生産者が抱える課題や気候変動の影響、そして「もったいない」を「おいしい」に変えるまでの開発ストーリーが語られた。 

シリーズ累計55トンのフードロス削減を達成

「氷結 mottainai」は、キリングループがCSVパーパスに掲げる「コミュニティ」「環境」領域への取り組みの一環として、2024年5月に始動したプロジェクトだ。規格外果実を適正な価格で買い取り、チューハイとして全国の消費者に届けることで、消費者は気軽にお酒を楽しみながら、フードロス削減や農家支援に貢献できる仕組みを構築した。 

商品発表会に出席した(左から)キリンビールの佐藤良子氏、山岡加菜氏、JAみちのく村山の志村秀弥氏、大山功氏 

プロジェクトは消費者の共感を集め、2024年に発売した第1弾、第2弾はともに販売目標を大きく上回り、それぞれ約27万ケースを販売。これにより、合計55トンのフードロス削減と、売上1本につき1円の寄付により総額約1170万円の農家支援が実現した。この活動は、消費者庁・環境省主催の「食品ロス削減推進表彰」で「審査委員長賞」を受賞するなど、社会的な評価も得ている。 

「逆提案」のきっかけはコンビニでの偶然から 

尾花沢すいかを使用した第3弾発売のきっかけは、山形県北村山エリアのJAみちのく村山の志村秀弥・営農販売担当部長が、コンビニで偶然、シリーズ第1弾の「氷結 mottainai 浜なし」を見つけたことだった。 

「『mottainai』とは何だろうと調べて、プロジェクトの趣旨に感動した」と語る志村氏。地元特産の尾花沢すいかも、規格外を理由に毎年何十トンもの量が廃棄されている現状があった。「どうにかこの取り組みに尾花沢すいかも活用できないか」。その思いから、2024年6月、志村氏はキリンビールにメールで連絡を入れた。 

生産者側からの直接の提案は、キリンビールにとって初めての経験だった。本シリーズでも、第1弾の浜なしは、生産地の横浜市が同社発祥の地であることが採用のきっかけであり、第2弾のポンカンも、味のバランスなどからキリンビール側が企画した。

今回の逆提案に対し、同社マーケティング部の山岡加菜・アシスタントブランドマネージャーは「大変驚いたと同時に、このプロジェクトが本当に生産者の方に必要とされている活動なのだと実感し、やりがいを改めて感じた」と振り返る。メールを受け取ったその日のうちにJAみちのく村山に電話し、スピーディーに開発がスタートしたという。 

年間300トン以上が規格外 

尾花沢すいかは、盆地特有の寒暖差と水はけの良い土壌に育まれ、高い糖度とシャリっとした食感が特徴の全国的なブランドスイカだ。しかし、JAみちのく村山管内だけでも毎年、生産全体の約3%に当たる300~400トンが規格外となり、このうち一部はジュースやゼリーとして加工されるものの、相当な量を廃棄せざるを得ない状況が続いている。  

尾花沢すいかの選別・仕分けの様子(キリンビール提供) 

主な原因は、「ウルミ果」と「空洞化」だ。「ウルミ果」は、果実が熟しすぎてしまうことで果肉が水っぽくなり、スイカ特有の食感が失われる現象。一方「空洞化」は、皮と果肉の成長バランスが崩れることで内部に空洞ができてしまうものだ。どちらも味は甘くておいしいにもかかわらず、食感や見た目を理由に、生果としての流通はできない。 

JAみちのく村山の大山功・すいか生産部会長は「近年の気候変動による猛暑や線状降水帯の影響で、スイカの株が収穫までもたないなどの被害も出ている。大切に育てた果実を廃棄するのは本当に悲しい」と胸の内を明かす。廃棄にもコストがかかり、その負担も生産者に重くのしかかっていた。 

農家との二人三脚で「尾花沢すいからしさ」試行錯誤 

開発を担当したキリンビールマーケティング部商品開発研究所中味開発グループの佐藤良子氏は、スイカフレーバーの開発は「通常より時間がかかった」と語る。最大の課題は、ともすれば「きゅうりやメロンのようなウリっぽい味」になってしまうスイカ特有の香味の再現だった。 

開発チームは、生産者たちの協力も得ながら試作を重ねた。志村氏や大山氏も開発途中の試作品を飲み、アドバイスを送った。こうした農家との二人三脚を経て、「尾花沢すいからしい、みずみずしい甘さとシャリっとした爽やかさ」を両立した味わいが完成した。 

キリンビールの開発者らは農園や選別工場への訪問も実施(キリンビール提供) 

大山氏は商品発表会で、完成した商品を手に「自分が大切に育てたスイカがチューハイになるなんて、本当に感動的だ」と笑顔を見せた。志村氏も、「尾花沢すいかを育てるのと同じように、一生懸命このチューハイを作ってもらったのだと思う。この商品を通して尾花沢すいかの魅力や、フードロスの実態を知ってほしい」と訴えた。 

2027年に年間250トンの削減へ 

キリンビールは今回の「氷結 mottainai 尾花沢すいか」で、16トンのフードロス削減、21万ケースの販売、そして約480万円の寄付を目指す。さらに今後は、チューハイ以外にも規格外果実を使用した商品を開発していくほか、通販会社や宅配食品業者などと連携した商品展開も予定。プロジェクト全体の長期目標として2027年に「規格外果実年間250トンの削減」「1200万人のユーザー」「生産者100軒との共創」を掲げる。 

キリンビールの山岡氏は「『モッタイナイ!を、おいしい!に。』を合言葉に、生産者の皆さんや同じ志を持つ企業や団体の皆さまと共創を広げていきたい」と語る。生産者の課題に寄り添い、そこから生まれた「逆提案」を形にした今回の取り組みは、企業と産地が連携して社会課題解決と価値創造を両立する、CSVの新たなモデルケースとなりそうだ。 

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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