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脱炭素特集

エネルギー地産地消の「実質」を見極める――地域に根差す経済循環型の再エネ利用とは

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北村和也

Black Knights

「待ったなしの脱炭素社会」が合言葉のようにマスコミなどをにぎわせている。目標達成の基本が再生エネであることに異論を唱える人は、日本でもほぼいなくなった。しかし、分散型の再生エネ利用拡大は、地域が主体的に取り組まないと前進しない。また、それが地域にも利益をもたらすと政府は声を高くする。いわゆるエネルギーの地産地消による地元への経済効果が念頭にある。

一方で、地域の再生エネ資源を狙う外部からのアプローチが目立ってきた。中央資本によるメガソーラーが地域を侵食し、地元にほとんど利益をもたらさなかった過去を繰り返すのか、それとも地域での経済循環が成功するのか、今、瀬戸際にあるかもしれない。

このコラムでは、これまでにドイツでの地元主導の再生エネ拡大例などを紹介した。ドイツは良くて日本はダメ、のような単純な紹介やお手本論は意味がないと考える。日本でも新しい動きが始まっている。今回は、エネルギー地産地消をリアルに地域活性化に結び付けるある活動を紹介したい。

政府が進める地域主導の脱炭素と侵食される地域

新年度に入り、政府は2030年に向けての再生エネ拡大策を次々と打ち出した。温対法の改正や地域脱炭素ロードマップがその柱である。最も重要な具体策は自家消費型の太陽光発電で、その実現手法はPPA(第三者所有型の電力購入契約)とした。いまや欧米でもGAFAなどの巨大企業の主たる再生エネ化手段になっている。

そこで政府が示すキーワードは、「地域主導」と「地域活性化」である。地域にある資源を効率的に、かつスピード感を持って活用するには、自治体など地元を本気にさせることだと考えているようだ。そのために、「先行地域」を選んだり、初年度で200億円の「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を新設したりというアメの施策も用意した。

一方、需要家の密度が高く、物理的に再生エネが不足する都市部から、地方の再生エネ資源を狙う事業者が再び動きを加速させている。再びと書いたのは、FIT制度導入後に起きたメガソーラーブームを思い出すからである。同様のことが起きれば、地域主導も地域活性化も絵に描いた餅になりかねない。

地域での再生エネ開発にかかる大きな資金や、今後は、再生エネをより多く入れるための「柔軟性」(例えば、DR=ディマンドリスポンスやVPP=バーチャルパワープラントなどの技術、ノウハウ)が必要になることも自明で、決して地方vs中央のような善悪の対決ではない。しかし、少なくない外部業者は、地域へのメリット還元を掲げ、PPAでも「エネルギー地産地消」を謳うが、実際には利益の大半が外部に流れ出るケースは珍しくない。

地域に利益をもたらすエネルギーの地産地消とは

なぜ、そんなことが起きてしまうのか。地域外からの侵入に対抗するある良例を見てもらうのが早いであろう。

福岡県のお茶どころ八女市での取り組みが大変面白い。枠組みは、すでに紹介した太陽光発電のPPAであるが、ここでは地域循環型という冠(かんむり)がついている。システム名は「LED’S(Local Energy Direct Supply)」で、地域でのエネルギー直接供給の略である。地元の再生エネ発電施工業者のアズマと地域新電力のやめエネルギーが1年ほど前に始めた。アズマは、長く地元で太陽光パネルの設置を行ってきており、4年前に地域の民間企業70社以上とともにやめエネルギーを立ち上げ、電気の小売りを行っている。

地域全体の再生エネ化、脱炭素化とエネルギー地産地消による地域活性化を目指して、発電事業に進出したのがこのLED’Sである。
 
そこには確固たるポリシーがある。

LED’Sに関わるプレーヤーを基本的に地域内に限定することである。地域の経済循環に結び付かないと意味がないとアズマの中島(なかしま)社長は強く訴える。一般的なPPAは、太陽光パネルの所有者やファイナンス、場合によっては施工やメンテナンスまで地域外のことがある。形式上は、地元で発電した電気を屋根などの設置場所で使用するため、エネルギーの地産地消になる。しかし、これではほとんど地元が潤わない。このため中島社長は、PPAという言葉を極力使いたくないと語り、LED’Sと命名した。

実際に、パネルの所有はアズマで、施工とメンテナンスを担当する。やめエネルギーは電力供給の契約を行い不足電源の手当ても行う。また、金融も地元が原則である。前述したPPAに比べて、地元に落ちるお金が飛躍的に増える。同じ地産地消を標榜しても、中身が全く違うことを理解してもらえたらと思う。

LED’S(Local Energy Direct Supply)の基本的な仕組み

すでに八女市内の民間事業所(屋根上に10kW程度)を中心に100を超える契約を取り、施工ののち自家消費が進んでいる。

特徴は、緊急時に使える蓄電池がセットになっている点である。

災害など緊急時には近隣の住民の携帯電話の充電に開放することが設置場所との契約条件で、八女市とは防災協定も結んだ。地元の西日本新聞やNHK、民放テレビのニュースがこぞって取り上げ、昨年度の環境省の「第8回グッドライフアワード実行委員会特別賞」にも選出された。

進化する地域循環型と全国への展開

コストの関係で、現状のパネル量は10kW強で余剰電力はFIT売電が基本である。しかし、脱炭素の要請に合わせて、今後は、大型で非FIT再生エネ電力としての利用を視野に入れている。

LED’S設置場所(ここでは八女市内の仏具屋さん)に渡された小型蓄電池。写真左の手前がアズマの中島社長

LED’Sの取り組みは、全国にも広がろうとしている。「LED’S推進グループ」を7月に発足させ、30ほどの各地の企業や団体、自治体に広がっている。重要なのは、これはアズマややめエネルギーの全国展開ではないということである。それぞれの地域で、それぞれの施工業者や地域新電力、金融機関が自らでLED’Sを行う。ノウハウは無料で提供され、参加料やコミッションはもちろんない。LED’Sが目指すのは、各地域が地域内で経済循環する仕組みが広がることである。ドイツの協同組合の目指すものとオーバーラップする懐の深ささえ感じる。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。