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脱炭素特集

日本の脱炭素化に欠けているもの――DXの重要性を問う

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北村和也

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日本の脱炭素の中間目標(NDC)である「2030年46%削減」に向けて、このところ施策などが続けて示されている。例えば、温対法(地球温暖化対策推進法)が改正されて再生可能エネルギー資源を有する地域が推進基盤となることや再生エネ電力の割合目標36%~38%などで、再生エネは数字の上でも主力電源と認定された。一方、10年に満たない年月でこれだけの拡大が可能かどうか、疑問を呈する向きもあり、議論を呼んでいる。

今回のコラムでは、日本のカーボンニュートラル実現に掉(さお)さすものは何か、ドイツの例を含めてDX(デジタルトランスフォーメーション)に焦点を当ててお話ししたい。

デジタル化は、再生エネ利用拡大の一丁目一番地

エネルギーの再生エネ転換の基本は3つのDとされる。

目標としての、「脱炭素化=Decarbonization」、主力となる再生エネの特徴である、「分散化=Decentralization」、そして、最重要な方法論、「デジタル化=Digitalization」が必須となっている。

脱炭素のカギは、電気だけでなく最終エネルギーの4分の3を占める熱や交通の再生エネ化にある。交通部門はEVの拡大が決定的な解決策であり、また熱についても化石燃料から電力ベースに切り替えることでやりくりしようとしている。つまり「電化」が切り札と考えられている。

熱や交通を電化しても、そこで使われる電気が再生エネ由来でなければ意味がない。そのためには、大量の再生エネ電力を生み出したうえで、無駄なく効率的に融通したり、変換して交通、熱エネルギーに当てはめたりすることが肝要である。

逆に、再生エネ電力の効率的な融通、変換ができなければ、脱炭素化に十分な再生エネ電力を作り出すことができない。例えば、九州地方で現実に頻繁に起きている、太陽光発電の出力制御というもったいない現実は、電力の効率的な運用ができていないからである。

効率的な融通や変換を実現するために必須なもの、それがDX=デジタルトランスフォーメーションである。「DXなくして脱炭素なし」、誇張の余地はなく、基本となる視点である。

DXとセクターカップリング

次の図は、REN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)のリポート「GSR2021(自然エネルギー世界白書2021)」に載ったセクターカップリングの図である。

ここでは、電気、交通、熱という最終エネルギー利用のセクター間で、余剰分などを相互に変換しながら利用するシステムを図解している。再生エネの貯蔵や需要側の柔軟性、グリーン水素なども媒介して自由に融通しあい、再生エネの究極的な利活用を高める目的がそこにある。この矢印のすべてにITの技術、デジタル化が欠かせない。最も適切な時間に、必要なだけの量の電力を、地域を超えて融通し、熱などの他のセクターに無駄なく変換して利用することが求められる。これを「柔軟性」と呼ぶが、手作業でできるはずがないのは誰でもわかる。

VPPの先進地域、ドイツに見るデジタルビジネス

デジタル化がベースとなるビジネスモデルにVPP(Virtual Power Plant:バーチャル発電所)がある。ドイツのベンチャー企業ネクストクラフトヴェルケは、昨年東芝と連携し、日本でVPPビジネスを始めた。

ドイツ、ケルンで12年前に創業したネクストクラフトヴェルケは、VPP企業としてドイツ国内で8GWの大規模な発電所群をコントロールしている。各地の発電施設は「NEXTPOOL」と呼ばれ、それぞれの施設に設置した「NEXTBOX」で発電のタイミングなどを制御している。需要が高まり、電気が最も高く売れる時を見計らって発電側に指令を出して市場などに電力を供給することなどで、利益を上げている。主たる収益は、発電事業者からの手数料と送配電事業者などへの予備力の提供である。発電側に置くNEXTBOXと全体コントロールのアプリケーションの二つを武器にした、まさしくDXビジネスである。

日本でも、多くのソフト会社がVPPに取り組んでいるが、圧倒的に上がってくる声は「ペイしない」である。一方、ドイツでは、すでにVPPは過当競争となり、手数料の値下げ合戦が起きている。その差は、どこにあるのだろうか。

DXが大幅に遅れる日本

表は、スイスの国際経営開発研究所IMDがまとめた、世界の「デジタル競争力ランキング」の国別ベスト10(2020年版)である。

すでに期待する向きもないであろうが、日本は入っていない。北欧諸国が目立つが、アジアからもシンガポール、香港、韓国がランクインしている。日本は、次の表のように27位で2019年からさらに4つランクを落とした。ドイツは18位でだいぶ上位だが、素晴らしいとまでは言えず、国内でもDXの遅れが総選挙を前にして政策論議となっている。

デジタル化はエネルギーに関することだけでなく、国の社会、経済の基盤である。新型コロナの対応の中で、患者数がFAXで伝えられていたり、スマホの追跡アプリが半年以上も動いていなかったり、自治体相互の情報が分断されていたり、と日本のデジタル後進性が露呈したことは記憶に新しい。

DXの実態もそうだが、先に挙げた2030年のエネルギーミックスや電源別のコストを巡っても、日本ではアナログ的な議論が目立つ。再生エネ電力、中でもVRE(Variable Renewable Energy:変動性再生可能エネルギー)と呼ばれる風力と太陽光発電が今後の電力の主役となるが、VREを拡大させるため持ち出される策は、いつも単純な蓄電池の大量導入である。再生エネ電力の利活用の切り札「柔軟性」は、先ほども書いたように蓄電池だけでない。長い間の経済停滞で、日本は発想自体もDXから取り残されてしまったのかもしれない。

ダメだ、ダメだと繰り返すことは生産的でない。

今は、前を見るしかない。かりそめにもデジタル庁も立ち上がる。もう一度、謙虚に現状を見直し、人とお金というリソースをかけることが必要である。広く薄いアリバイ的なものではなく、既存の利権と切り離した資源の集中が求められている。日本の脱炭素実現の成否は、DXにかかっている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。