サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
脱炭素特集

洋上風力を新たな産業にーー三菱商事グループが地域共生、国内サプライチェーンの構築に注力

  • Twitter
  • Facebook
オランダ沖で2008年に三菱商事が開発、建設、操業した「プリンセス・アマリア」 ウインドファーム

日本で初めてとなる本格的な洋上ウインドファーム(集合型風力発電所)のプロジェクトが日本沿岸の3海域で動き始めた。再エネ海域利用法の入札に基づく秋田県沖と千葉県沖の3つのプロジェクトは、いずれも三菱商事エナジーソリューションズを中心としたコンソーシアムが昨年末、事業者として選定された。風車はいずれも米ゼネラル・エレクトリック(GE)製の大型機だが、同グループは数多い部品を国産に切り替え、建設、保守などにも地域の企業を採用するなど、国内のサプライチェーンの構築やそれを担う人材育成に力を入れる。さらにアマゾンやNTTアノードエナジーなど協力企業と共に漁協者や自治体のメリットを重視し、地域との共生や活性化を図っていく意向だ。(環境ライター 箕輪弥生)

欧州洋上風力で得た知見を生かす

三菱商事は欧州で7案件、3.5GWの開発実績がある。オランダEneco社も子会社化した

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの主力電源化の切り札として洋上風力発電が期待されている。日本は海岸線が長く、海に囲まれていることからポテンシャルも大きい。

国は洋上風力発電について、2030 年までに 10GW、2040年までに30~45GWにまで拡大するという野心的な目標を設定した。これは第6次エネルギー基本計画にも反映している。

その目標を達成するために、国はいくつかの洋上風力の国内の促進地域や有望地域を設定し、昨年、3つの促進区域「秋田県由利本荘市沖(発電出力820MW)」、「秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖(同480 MW)」、「千葉県銚子市沖(同390 MW)」における事業者の公募を行った。

その3つの事業者として選ばれたのが三菱商事グループ(三菱商事エナジーソリューションズ、三菱商事、シーテック、ウェンティ・ジャパン)だ。

最も大きな規模の秋田県由利本荘市沖ウインドファームでは米GE社の着床式洋上風車が65基並ぶことになる。日本で初めての本格的ウインドファームだ。

今回の入札では三菱グループが提示した11.99円/kWh(秋田県由利本荘市沖の案件)という価格が驚きをもって受け入れられた。

三菱商事は2013年と早い時期から欧州の洋上風力発電事業に参画し、2020年には欧州で再エネ事業を行うEneco社(オランダ)を買収した。「リスクを減らす技術的な知見をEneco社との連携により得てきた」と同社広報部は話す。

三菱商事エナジーソリューションズの岩﨑芳博社長は「欧州で経験を積んだことで競争力のある価格を実現した。洋上風力発電によって企業のための再エネも拡大していきたい」と話す。

地元企業を洋上風力発電のサプライヤーに

国内の洋上風力発電の本格的な導入は欧米に比べて大きく遅れており、風車を作る企業が一旦は撤退するなど、今回の事業については国内のサプライチェーンが全くない状態での再スタートとなった。

そのため、三菱商事グループは新たに国内・地域のサプライチェーンを構築することを当面の重要な課題ととらえている。具体的には2万点ともいわれる風車の部品をできるだけ国産に切り替え、組み立て工場も東芝などの国内企業が協力する。

秋田の案件では、秋田県に主力生産拠点を置く電子部品大手TDKが風車の発電機に利用する磁気製品の製造を、県内製造業者が架台などを手掛けるなど、地域でのサプライチェーンの構築を急ぐ。

地元企業との協業を進めるためウェンティ・ジャパン(秋田市)がグループに名を連ねる。

今後も風車メーカーや海上・陸上工事、運転・維持管理の分野でそれぞれに地元企業とのマッチングイベントを実施していく計画だ。

洋上風力発電を担っていく人材育成にも力を入れる。秋田市にある国際教養大学では寄付講座を開設した。今後は大学や高専との産学連携や地元協力企業の人材育成も支援し、秋田を洋上風力発電の人材育成拠点としていきたい意向だ。

岩﨑社長は「ハードからソフトまで、国内・地域のサプライチェーンを築いて新しい産業を作っていきたい」と話す。

洋上風力で地元が潤うか 企業も参入

新たな洋上風力の建設では地域にどれだけ経済的な寄与があるかも重要な視点だ。特に洋上風力の海面利用の場合、漁業者との利害関係が発生するため、漁業関連者との協議や合意形成が必須である。

秋田の案件では、発電された電力はすべてFITで買い取られるが、地域への還元については、20年間の売電収入見込み額の0.5%を基金として積み立て、漁業や地域との共生に使うことで合意した。銚子市沖では、総額118億円の拠出を発電事業者に求めることが示されており、漁業振興などに使われる。

一方で、企業による漁業などの地域産業支援も活発になりそうだ。秋田のプロジェクトでは、協力会社としてアマゾン、NTTアノードエナジー、キリンホールディングスなどの名前が挙がる。

NTTは主にICTを活用した漁場調査、漁礁や藻場を形成するための支援を、アマゾンには秋田県産の魚など特産品の販路拡大、キリンには人材育成の支援などに期待していると三菱商事広報部は話す。欧州の洋上風力発電施設では、実際に風車基礎部の漁礁化が見られることから、新たな漁場の創出も可能だ。

三菱商事広報部は「協力会社や総合商社ならではの強みを生かして地域コミュニティとの共生を図りたい」と強調する。

欧州では英国ハル市のように、長年英国の最貧都市とされてきたが、洋上風力発電の建設を契機に港湾が整備され、関連企業が集まりサプライチェーンが構築され、雇用が生まれ、地域が大きく発展を遂げた事例などもある。

洋上風力発電をフックとして地元で経済が循環するか。3つのプロジェクトはその試金石にもなりそうだ。

  • Twitter
  • Facebook
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/