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脱炭素特集

企業に迫る国際的な脱炭素圧力と弱い政府の支援――求められるエネルギー構造改革の道筋②

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北村和也

Discover Japan

ウクライナ侵略が巻き起こした強烈なパラダイム転換の中でも、脱炭素の動きは全く変わっていない。逆に、再生可能エネルギー(以下、再生エネ)導入拡大の要請は、量とスピード両面で増しているといってよい。

再生エネや脱炭素のコンサルティングを生業とする筆者が、最近特に感じることがある。

それは、企業や自治体のCN(カーボンニュートラル)実現に向けての不安感である。もちろん、個別の地域や会社の意識の差は激しく、何から始めてよいか、そこから悩んでいる話も多く聞く。ただし、本格的に取り組んでいるところからの声は、往々にして、再生エネのボリュームの不足であったり、政府など公共的な支援の見えなさであったりする。

嵐のように迫る、特に国際的な脱炭素の要請と日本政府の対応について、今回のコラムではまとめてみたい。

エネルギー費高騰に悲鳴を上げる企業

先日、デジタル産業の業界団体「電子情報技術産業協会(JEITA)」の半導体部会が、業界支援を求める提言書を経産省に出した。産業の切り札である半導体事業への支援が他国と比べて低すぎると訴えているのである。

提言を読むと、電気の消費量が多い半導体工場を抱える企業としての悲鳴が聞こえてくる。日本は電気料金が高く、他国と比べてコスト負担が大きいとし、他国並みの料金削減や負担の軽減策を求めている。また、半導体産業の弱体化は、日本のDXを遅らせ、カーボンニュートラル実現に影響を及ぼすとし、官民連携の強化を要請している。

半導体分野の国内強化は、政府も最重要項目のひとつに掲げている。中国や欧米など主要国の大規模な政府支援に比べて貧弱だという主張を見過ごせば、エネルギー費高騰に円安が重なる中、負担の差は拡大し競争力を失いかねない。

欧州などの、ウクライナ危機対策の柱は2つある。

まず、エネルギーをどこに求めるかで、つまり、脱ロシア依存と再生エネの拡大である。もうひとつは、エネルギー高騰の影響緩和策で、その中には、低所得者層への支援や企業への補助など、電力値上がりへの対応も含まれる。

一方、日本の対策は、ガソリン代の補填、一本やりである。電力供給契約の更新で何割上昇ではなく何倍という単位の値上げを浴びた企業の中、中小企業で廃業するところも出ている。

欧州の電気代の上昇と日本の値上がりを比べて気づくのは、場合によっては、ロシアの影響がより強いはずの欧州の国より日本の電気代上昇が上回ることである。電力卸売市場など制度上の課題もあるが、そこには急激に進んだ円安の影響がはっきり見える。円安の功罪は各種の議論があるが、日本は、脱炭素の急進行、ウクライナ危機に加えて、独歩的に進む円安、の三重苦の渦中にいることは間違いない。

不足する再生エネと見えない積極拡大策

岸田政権は、今後のGX(グリーントランスフォーメーション)推進のためのクリーンエネルギー戦略を6月にまとめ、CN化の目玉とする戦略である。その中間まとめが、5月中旬に示された。

その冒頭には、「ウクライナ危機などを踏まえた安定供給の重要性の再確認とエネルギー政策の今後の方向性」が配置され、目の前の大きな課題解決を目指す姿勢を見せている。

エネルギーコストの上昇については、「意識せざるを得ない可能性」とあり、高騰が避けられない認識を示した。一方、対策は、「再エネ、原子力などエネルギー安保及び脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用」で4月の岸田首相の引用となっている。

ただし、個別に実現性を見ると、今国会に提出されないはずだった建築物省エネ法が成立の方向になったことが新しいくらいで、脱ガソリン車の目標年の前倒しや電力の系統整備の実施など、ウクライナ侵略を機とした変更や新設の再生エネ導入策はない。また、ガソリン代補填の一方、欧州では対策に含まれる企業や低所得者への電気代に関する支援は特に示されていない。

前述のJEITAの提言書には言及はないが、大量の電力を消費する工場などを抱える企業は、どこも再生エネの確保に苦慮している。値段のこともあるが、何より量がないのである。一方で、アップル社など再生エネ電力100%での部品や製品を求める圧力は増すばかりで、企業の不安の根源となっている。

政府支援の弱さと民間頼りの脱炭素

実際に、脱炭素要求の猛風に晒された企業が、政府にすがる動きが前段の提言書につながっている。

ところが、政府の脱炭素の実現策は「民間頼み」が強く透けている。

例えば、脱炭素の切り札の一つ、カーボンプライシングを取り上げてみよう。欧米では、排出量取引は国が主導することが多い。日本では議論はされるが、政府は前を向いていない。実際に、設立されたばかりの肝いりのGXリーグ(440社の民間企業が参加)が排出権取引を自主的取り組みで行うというスキームが決まった。

また、先日、今後10年間の脱炭素投資を総額150兆円と発表したが、そのうち政府支援は20兆円に過ぎない。残りはGX経済移行債で調達する、民間任せどっぷりとなっている。

政府の示す脱炭素投資イメージ 出典:資源エネルギー庁

負けを続けるか、逆転を目指すか

構造改革とは、まんべんなく現在の企業を残すということではない。

元国営石油・ガス会社DONG Energyが、洋上風力事業への大胆な転換を果たしたデンマークの例はそのシンボルといってもよい(社名もØrstedに変更)。

デンマーク、オーステッド社の事業転換 出典:マッキンゼーアンドカンパニー

官民それぞれに違った重要な役割があり、国家的な脱炭素実現という大事業にはその協力が欠かせない。そこに異論はない。

しかし、カーボンニュートラルを国際的なビジネスの争いの観点から見た時、その前半戦で日本は負け続けている。再生エネ発電では、太陽光パネルはともかく、風力発電事業に日本企業はパーツでしか残っていない。蓄電池やEVではかなり形勢が悪く、主要な武器となる半導体はシェアを落とし続けている。

ここで、企業の脱炭素化が進まないと、日本経済が丸ごと見捨てられる危険さえある。

脱炭素の負けは、官民関係なく日本の敗北と没落であることを忘れてはならない。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。