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脱炭素特集

地域の未利用資源を活用、「脱炭素先行地域」に選定された5地域のアイデアとは

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牛のふん尿を資源とする北海道 上士幌町のバイオガスプラント

地域の強みを生かして脱炭素の実現を目指す「脱炭素先行地域」26カ所が政府により先月第1弾として選ばれた。この中には地域の未利用資源を使ってエネルギーを作り出そうとするアイデアが数多く並んだ。このうち北海道上士幌町は、家畜ふん尿処理の過程で発生するメタンガスを利用したバイオガス発電を、兵庫県淡路市は放置竹林を活用した竹ボイラーの導入を行う。秋田県大潟村ではもみ殻を活用したバイオマス熱供給事業を、秋田市は汚泥処理で発生した「消化ガス」で発電を行う。長年木質バイオマス発電を行ってきた岡山県真庭市は、新たに生ごみから生成したメタンガスによる発電や未利用の広葉樹林などを使用した木質バイオマス発電に挑戦する。どの計画もこれまで処理に苦慮していた廃棄物や未利用資源を有効活用しているのが大きな特色だ。(環境ライター 箕輪弥生)

未利用資源をうまく使って脱炭素と地域課題の解決の一石二鳥を

2030年までに脱炭素を実現することを目指す「脱炭素先行地域」の選定には、102の地方公共団体から79件の提案が提出され、19道府県の26カ所が選ばれた。国は今後3年ほどかけて100カ所以上を選ぶ方針だ。

選定は「脱炭素ドミノ」につながる先進性、モデル性と実現可能性があるかどうかが問われ、地域特性も踏まえた評価が行われた。選定された地域には最長5年間で最大50億円の費用が交付される。

選定を行った環境省・脱炭素先行地域評価委員会は「今回の提案では、単なる再エネ設備の導入にとどまることなく、地域経済の循環や地域課題の解決、住民の暮らしの質の向上につながることを意識した先進的な取り組みが数多く見られた」と評価する。

中でも選定された地域の計画で目立ったのは、これまで処理に苦慮していた廃棄物や未利用資源を有効活用してエネルギーや副産物を作り出し、地域で資源を循環させるという計画だ。太陽光や風力、地熱といった自然エネルギーに加えて、その地域ならではの未利用資源を余すところなく使うアイデアは、脱炭素の推進だけでなく地域課題の解決につながるケースが多い。

牛ふんから発電――北海道上士幌町

北海道上士幌町は、人口およそ5000人に対して4万頭以上の牛が飼われるなど酪農が盛んな地域だ。牛のふん尿の処理は酪農家の負担になるだけでなく、悪臭などの原因にもなっていた。

上士幌町は処理に困るふん尿を発酵させてメタンガスを作り出し、これを燃やすことで発電を行うバイオガス発電施設を5年前から整備している。

発電された電気は一度北海道電力に売電され、町やガス会社などで出資する地域の新電力「かみしほろ電力」が買い戻す形で、町内の施設や一般家庭に供給する。その発電量は町で使われる電力のおよそ3分の1を占めるという。

さらに発電後に残る消化液は、固体部分は牛の寝わらに、液体は液肥として牛のえさとなる畑などに再利用する。また、余剰のバイオガス熱を利用した果物のハウス栽培なども行われている。

このように資源が循環する酪農業を進める同町は「SDGs未来都市」にも選定され、町が進める先進的な取り組みもあり、移住者が増え、人口減少にも歯止めがかかる。

今後は、「町民への周知をはかるため、再エネ電力の切り替えや省エネ行動など環境に配慮した行動に応じて地域通貨のような形でポイント付与するなどして行動変容を後押ししていきたい」と同町企画財政課の井溪(いたに)雅晴さんは話す。

「地域の脱炭素の実現は、再エネ設備の導入だけでなく、省エネへの行動変容が大変重要だ」(井溪氏)と考えるからだ。

放置竹林が宝の山に――兵庫県淡路市

地域の放置竹林をエネルギーとして活用しようとしているのが兵庫県淡路市だ。竹林は淡路市の面積の約7.4%を占めるほど広がっている。放置された竹林は保水能力の低下や生態系への影響だけでなく、イノシシの隠れ場所になって農作物への被害にもつながっている。

このため市は、市内の工場で市民から持ち込まれた竹をチップ化し、デンマーク製の竹チップ熱供給ボイラーを活用して、温浴施設や病院への熱供給を計画する。竹チップの消費を年間500トンにすることを目標として、竹の燃料活用と放置竹林の課題解決につなげたい意向だ。

米のもみ殻で熱供給――秋田県大潟村

八郎潟を干拓して作られた人口約3100人の村、大潟村。ここでは稲作が主要な産業であり、全国でもトップ10に入る米の生産量がある。そのため、稲わら、もみ殻などが多量に出る。

特にもみ殻は推定年間1万2000トンの量にのぼり、その3分の1は水田の水はけを改良するために土壌にすき込むなどして利用しているが、残り8000トンの有効利用が大きな課題となっていた。

これを暖房、給湯などの熱源として活用しようというのが大潟村のアイデアだ。もみ殻を燃焼させると残る結晶化したシリカが問題になるが、デンマーク製の麦わらボイラーを利用することで限りなくシリカの発生を抑えられることを実証実験で確かめた。

もみ殻を使ったバイオマスボイラーにより、まずは村内のホテルや秋田県立大学の学生寮に熱供給し、将来的には一般家庭も含む地域熱供給や農業用ハウスの加温にも活用したい意向だ。

さらに、残ったもみ殻の炭(燻炭)は土壌改良剤として水田や畑に戻すことで循環型の農業を目指す。

下水道施設をエネルギー供給基地に――秋田県秋田市

地域の人口減少は下水道事業の経営悪化にもつながる。秋田県と秋田市は下水道で発生する汚泥を有効利用し、下水道事業の経営改善や脱炭素化を狙う。

具体的には、秋田市向浜地区にある県の秋田臨海処理センターで、汚泥をメタン発酵させて作った消化ガスで発電(発電容量800 kW)する。作られた電力は、自営線でつないで近隣の秋田県立野球場「こまちスタジアム」や秋田県立総合プールなど9つの公共施設に供給する。

汚泥はメタン発酵することで処理量も圧縮され処理費が抑制できると共に、肥料化することで資源の地域循環を行う。

この他、同処理センターと市の汚泥再生処理センターでは、太陽光発電や風力発電設備を導入し、蓄電池や水素製造も合わせて行い、下水道処理場を「エネルギー供給拠点」として整備していく計画だ。

広葉樹や生ごみも見逃さないバイオマスタウン――岡山県真庭市

木質バイオマス分野の取り組みで実績のある真庭市は、すでに間伐材や製材くずなどを使った木質バイオマス発電所(1万kW)を稼働させている。市内にはバイオマス集積所があり、通常は廃棄されたり、放置される木材の枝葉や樹皮なども買い取り、流通させる仕組みを作ってきた。

これに加えて、今回は広葉樹林など未利用の資源を活用し、耕作放棄地にも早世樹を植林して2基目の木質バイオマス発電所を稼働させる計画を提案した。

広葉樹林は曲がった材が多いため積載量が少なく輸送コストがかかることから敬遠されてきたが、市の担当者は現場でチップ化する機械などを導入して対応したいと話す。

さらに、柳やセンダン、ユリノキなど5年から10年で育つ生育の早い早世樹を選んで、耕作放棄地などに植林し、伐って育てるというサイクルを作り、燃料の安定供給を実現したい意向だ。

これに加えて、市は生ごみやし尿、汚泥をメタン発酵させてつくったバイオガスによる発電を計画しており、現在バイオガスプラント(150kW)を建設中で令和6年度中に完成予定だ。

バイオガスプラントで発電された電気は場内で利用し、熱もメタン発酵時の保温に、残った消化液はバイオ液肥として稲作に利用する。現在実証実験のため稼働しているバイオガスプラントも順調に稼働し、バイオ液肥は市民に好評だという。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/