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脱炭素特集

エネルギー価格高騰への対応は短期、中長期の総合対策で――求められるエネルギー構造改革の道筋①

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北村和也

Photo by Dan Meyers on Unsplash

ロシアのウクライナ侵略で混迷を深める世界のエネルギー事情だが、戦争の行方と同様、高騰の出口も見通せない状況が続いている。農産物を中心とした生活物価の上昇も市民を直撃しており、各国政府は各種の対策を押し進めている。

今回のコラムでは、世界の対応をエネルギー費に主眼を置いて見ることにする。浮かび上がるのは、日本政府の場当たり的な施策である。欧州を中心にエネルギー構造の転換とスピードアップが図られる一方で、総合的な視点を欠いたその場しのぎの動きしか見えてこない。各方面からの批判もあり、すでに対応の変更も始まっている。

新型コロナの嵐は、日本のデジタル化の欠落を表出させたが、ウクライナ侵略は、エネルギー対策の貧困さを私たちに突き付けているのかもしれない。

ウクライナ侵略が拍車をかけるエネルギー高騰

次図は、2022年に入ってからのドイツのエネルギー費の推移を示している。

戦争開始の2月下旬を100として、前後2カ月弱の推移を見ることができる(ドイツのクオリティペーパー「Die ZEIT(ディー・ツァイト)」のオンラインで日々更新した数字が示されている)。

ドイツのエネルギー費の推移(侵略開始=100) 出典:Verivox, tankerkoenig.de, ZEIT ONLINE

エネルギー費の高騰は、天然ガスを主として昨年の後半から始まり12月下旬に一度ピークを迎えた。その後、いったん落ち着いていたが、ロシアのウクライナ侵略開始で急激な上昇局面となった。3月中旬には、天然ガスが開始時点の1.7倍を超え、ガソリン(Diesel、Super)が2.5割から4割も上昇する。また、電気代も3割高に近づいた。

グラフで分かるように、開戦のショックからしばらく経って、すべての価格はやや落ち着いてきている。ロシアからの化石燃料をどう扱うか、一定の方向性が示されたことが要因の一つである。ロシアがウクライナ東部での戦闘に力点を移したことで逆に停戦が見えなくなっており、エネルギー費の高騰は高止まりで続くと考えるのが常識とされる。

世界は、上昇した新しい価格でのエネルギー時代を迎えることになった。

相次ぐ各国政府の高騰対応

欧米を中心とした高騰対応は短期と中長期の2つに分かれる。当面の高騰への対処と脱炭素を基本とした広範囲のエネルギー政策の転換である。

短期的には、値上げの緩和策と高騰によるダメージに対する支援となる。前者は、エネルギーへの課税引き下げなどで、イギリスの燃料税の一時的な減税やアメリカのガソリン税の免除の動きがそれに当たる。また、高騰ダメージへの支援策は、低所得者層やエネルギー集約型の企業への補助などがみられる。イギリスやスペイン、イタリアなどですでに導入されている。

一方、目の前の対策以外に、中長期も欠かせない。多くの国で再生エネルギー拡大への注力が進んでいる。つまり、原産地の偏りや生産量の変動、戦争を含むカントリーリスクなどから免れることのできない化石燃料からの脱却(=エネルギー転換)を加速させるものである。時期も内容も温暖化防止のための脱炭素化と重なり、大義もある。

家庭での太陽光パネル設置の補助から送電線整備、EVの拡大などさまざまである。ドイツの「イースターパッケージ」は、2035年の電力カーボンニュートラル化など、これまでの脱炭素政策を野心的に前倒しした例となる。

○欧米のエネルギー高騰への対応
◆短期
・高騰の緩和策:課税の引き下げ、免除など
・ダメージへの支援:家庭や企業への補助など
◆中長期
・再生エネ拡大加速:再生エネへの投資減税など再生エネ比率の拡大、
送電線整備、EVや蓄電池の普及、水素エネルギーの実用化など

お粗末な“ガソリン補助金”の一本足

日本の対策で目立つのは、ガソリンの補助金の拡充のみである。

なぜか、石油関連ばかりで、50年前の石油ショックへの対応のリピートにしか見えない。 さらに、ガソリン高騰への補助もしょせん対処療法でしかなく、しかもこれだけで一か月最大2500億円かかるという(日経新聞調べ)。また、エネルギー価格を無理やり抑えるだけでは、市場原理による需要の低減(=化石燃料からの脱却)につながらない。

また、円安のために欧米以上に進む電力の極端な値上がりでは、主力の天然ガスの確保は叫ばれるが、高騰の対応策(短期、中長期)は特段示されていない。発電のための原料高騰は現実のものであり、現状では小売電気事業者が逆ザヤ(調達価格が販売価格を上回る状態)を飲み込んでいるがそんなものは長く続かない。これは新電力であろうと、旧一般電気事業者であろうと同じである。さらなる値上げが必須であるが、困る家庭や企業に対してどうするのか、何も聞こえてこない。

石油の4%、天然ガスの8%をロシアから輸入する日本のロシア依存からの脱却についても中途半端である。LNGの安定供給のためサハリン2から撤退しないという岸田首相の方針表明は、それはそれで現状では仕方がないかもしれない。しかし、今後、中長期にどう脱ロシアを進め、ウクライナ侵略後の総合的なエネルギーの構造転換を図るのか、道筋が全く見えてこない。

国内から沸き立つ批判と提言

日経新聞の4月15日版の記事では、「物価高対策、補助金頼み、エネルギー構造転換、手付かず」と厳しいタイトルが躍った。ガソリン補助金のみの政策を正面から批判している。物価対策+エネルギー構造転換の両面で進める欧米の対応との落差に対し、「中長期の政策転換の視点が乏しい」と手厳しい。

総合的とは、短期と中長期、さらに長期でも、電力、熱、交通、全般にわたる脱炭素への構造転換を意味する。例えば、最終エネルギーで最も多く使われる熱をどうするかは、まさに喫緊の課題である。政府が、のんびりと今国会では見送ると決めていた「建築物省エネ法の改正案」は、建築業界などからの批判を受け、一転、今国会への提出の方向となった。

旧一般電気事業者(大手電力会社)が資金を出して運営する、電力に関する研究機関「電力中央研究所(電中研)」は、4月中旬「ロシアによるウクライナ侵略を踏まえた西側諸国のエネルギーを巡る対応」という緊急レポートを発表した。

ロシアのウクライナ侵攻を、侵略と断定したうえで、各国のエネルギー高騰対応などを分析し、日本政府に対して「エネルギー政策への示唆」という形で提言を行っている。

そこでは、各種の調査と分析に基づき、法の支配に基づく国際秩序の維持のためのエネルギー禁輸・脱ロシア依存を薦めている。ただし、単純な削減ではなく、「時間軸に沿って、ロシア依存低減を進めていく必要」と欧米のような短期、中長期の両面策を掲げる。

つまり、短期的な「石油やガスインフラへの投資拡大が必要」であるが、「長期的には化石燃料利用を固定化するリスクがあり、それを避けるには水素等への転用可能性の担保が重要となる」と示す。また、「再エネ・原子力への切り替えや省エネによる需要削減であれば、脱炭素化とのシナジー」が期待できるとまとめている。

エネルギー高騰は、国民生活や企業活動をじわじわと蝕んでいる。現場の危機感は政府のそれより確実に高い。急激に進む円安も含めて、欧米並みの対応が今、強く求められている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。