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脱炭素特集

地域金融機関が目指す、脱炭素と経済循環の両立 秋田・北都銀行の取り組み

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北村和也

Image Credit:nattya3714

脱炭素社会に向けて、先進企業は国際的な競争から取り残される危機感に迫られ、「脱炭素経営」に大きく舵を切り始めている。一方で、前回お伝えしたように、地方自治体の中には脱炭素へのモチベーションが高まらず、何から始めるかさえ迷っているところも珍しくない。

突破口の一つは、政府が示す「地域脱炭素ロードマップ」にある。地域内の金融機関や中核企業など自治体と連携する地域内での実施体制が鍵となる。

脱炭素ロードマップの「地域の実施体制構築」 出典:国・地方脱炭素実現会議

今回のコラムでは、秋田県の地銀である北都銀行の地域のカーボンニュートラルと経済循環に向けた取り組みをご紹介する。これこそ、地域でのソリューションの有効な実例である。

県人口が100万人を割る危機感と再生エネのポテンシャルへの期待

北都銀行は、130年近い歴史を持つ秋田市の地銀である。預金等残高、貸出金残高共に県内比率が9割を超え、まさしく地域に寄り添う金融機関である。

秋田県を巡る各種の統計は、急激に悪化している。2020年に人口100万人を割り込み、逆に高齢化率は40%に迫る。県内の事業所数は、21世紀に入り3割程度も減っている。地域経済の縮小はそのまま地域金融機関の衰退につながると、北都銀行地方創生室の責任者は、危機感を持って語る。この根源的な地域課題の解決には、地域で持続可能な新しい産業の創出を行うことが必要だと確信したという。同行では、秋田県の持つ優位性の一つである再生可能エネルギーのポテンシャルにその思いを託した。

その結果、北都銀行の再生エネ事業へのプロジェクトファイナンスはこの10年で大きく増加し、融資残高の比率は全国の地銀の中でも突出して高い14%である。

再生エネのプロジェクトファイナンスと融資残高:北都銀行資料

発電事業会社「ウェンティ・ジャパン」の設立と成果

特徴的なのは、自らが出資をして、風力発電の事業会社を立ち上げたことである。10年前の2012年9月に、同社のグループと地元の設備関連の企業などと一緒に、風力発電事業会社「株式会社ウェンティ・ジャパン」を立ち上げた。日本海側の優れた風を利用して、風力発電の開発、運営、管理などを行うことを目的としている。地域資源の有効利用と地域内での経済循環を起こすことが、人口が急減する秋田県の地方銀行としての重要な役割であるとの強い考えが風力発電事業会社に行き着いたのである。

ウェンティ・ジャパンがメイン参加する「秋田潟上ウインドファーム」 撮影:筆者

事業は順調に進んでいる。秋田県内の36基を含む、風力発電38基をすでに稼働させ、合計の発電能力は100MWを超えた。中でも秋田市から潟上市にかけての風力発電プロジェクト「秋田潟上ウインドファーム」では、合計22基が海岸沿いに並び、66MWの発電能力を誇っている。事業主体のSPC(特別目的会社)への出資比率は、ウェンティ・ジャパンが51%、残りは三菱商事の関連会社などとなっている。

このほか、先日、三菱商事が中心となって落札した洋上風力プロジェクトの一つ、秋田県由利本荘市沖の事業主体にも参加し、別に市民出資による風力発電事業も積極的に進めている。

重要なポイントがある。

脱炭素の達成には再生エネの拡大が必須であるが、事業の仕組みによっては、地域経済への効果が高まらない可能性がある。再生エネ事業を行うプレーヤー(事業者、建設、ファイナンスなど)の大半が地域外であれば、多くのお金は地域に落ちない。

こんな例の挙げ方で申し訳ないが、青森県の風力発電で説明しよう。青森県の風力発電の導入や発電実績は確かに、日本1、2位であるが、事業者の97%は県外のため、地域への経済効果は大きくない。

北都銀行が進める秋田県での風力発電のプロジェクトの参加者の多くが地元で、もともとの目的「地域で持続可能な新しい産業の創出」に合致したものであるのと対照的である。

また、北都銀行は、一民間企業として銀行自身の脱炭素にもたいへん熱心に取り組んでいる。2021年1月には、地方銀行で初めて、また、秋田県でも初となる『再エネ100宣言 RE Action』に参画し、2050年までの再生エネ電源への転換を表明している。

次々立ち上がる、地方銀行による再生エネ発電会社

この春から、再生エネ発電を行う事業者になぜか地方銀行の子会社が次々と加わっている。この背景には、昨年に銀行法が改正されて、銀行の業務範囲が大きく変わったことがある。

5月以降、島根県の山陰合同銀行、茨城県の常陽銀行、長野県の八十二銀行が小会社として発電事業会社の設立を発表するなどし、先日は群馬銀行が地元の再生エネ事業者などと共同出資での設立を終えた。

今後、脱炭素ロードマップにあるような、国も求める、地域主導の再生エネプロジェクトは、ますます増えることになるであろう。脱炭素と地域活性化の二兎を追うことは、決して珍しいものではなく、地域での主流になることを期待したい。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。