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ステークホルダー資本主義をどう実現するか 統合思考経営の実践を――SB ESGシンポジウム online 第6回開催レポート

「統合経営思考」の実践と、重要な4つのトランスフォーメーションについてゲスト講師を迎えながら議論、意見交換をしてきESGオンラインシンポジウム。最終回の「総括編」ではサンメッセ総合研究所(Sinc)の3人が視聴参加者からの質疑を取り上げて議論、振り返りを行い、将来の社会におけるビジネスのあり方を改めて語り合った。社会が求める企業の姿に向かって事業の転換(PX)を実現するために、経営層の価値観をどうやって変化させるのか。全体像を踏まえた実践的な考え方と現場の行動とは。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム『統合思考経営のWhy ,What & How』をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が「統合思考経営」を解説します。シンポジウム第6回目は最終回の総括編です。川村氏と山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員の講演、さらに田中 信康・サンメッセ総合研究所(Sinc)代表/SB国際会議 ESGプロデューサーを加えた3者討論を展開します。

SB ESGシンポジウム online 第1回セミナーレポートはこちら
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SBJ Lab 連載中コラム『統合思考経営のWhy ,What & How 』はこちら

「脱成長」の可能性も視野に

2020年、ダボス会議など国際的な議論の場で、資本主義のあり方は新自由主義からステークホルダー資本主義に変化すると言われ始めた。まさに「激動」と言うべき1年間と、「SB ESGシンポジウム online」を振り返ったのは、山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員だ。

コロナ禍が世界の経済に打撃与え、まだまだ影響を与え続ける中、国内の新聞では毎日のように気候変動に対応する社会の動向が1面で伝えられている。2030年までにガソリン車をなくす、水素社会を展開する、企業各社でもカーボンニュートラルに向かう戦略が策定されている。

従来「ミッション・ビジョン・バリューズ」という言葉で説明されていた企業の姿勢はパーパスに立脚した説明へ、「2020年を境目にして変化が起こっている」と山吹氏は解説した。そのときにネックになり得る議論が「資本主義の位置付け」だ。ステークホルダー資本主義は果たして実現ができるのか、まずはしっかりと検証し、どのように実現するかを考える大きな動きがみられる。一例を挙げればトゥルーコストの考え方だ。これまで使い放題と思われていた大気や水に大きな問題が起こった場合、それを価格に反映しなければ正規の価格にはならない。

一方で、個別のテーマでは、同時に「脱成長」という違う方向性のキーワードも登場している。「ステークホルダー資本主義」への変革は、従来と同じく経済的成長を基盤にしている。世代的にも若者たちは「成長では気候変動の問題や環境負荷の問題を解決することはできない」ということを実感している。これはひとつのポイントだ。

現状の多くの企業の姿勢としてはステークホルダー資本主義を目指している。山吹氏は「当然、これまでに比べて大きな進歩をする方向性であり、これからはこの方向性でなければある意味では企業活動が成り立たない、ということが大前提」とし、かなり将来のことまで意識をしながら次のようにシンポジウムを総括した。

「海外・国内問わず、先進的な大企業の中にはESGに関連する目標を会社の定款に盛り込んでいるところもある。つまりは覚悟だ。ステークホルダー資本主義を実現する上で、経営者、経営陣がどこまで覚悟を決めてどんな風に成長というものを捉え考えるのか。「循環」や「地域の自律的な活動」を意識できるように事業を行っていくのか」

覚悟を決めるためにどのようなプロセスを経るのか。それが「SB ESGシンポジウム online」で語られた「4つのトランスフォーメーション」の議論だ。参加者から寄せられた質疑へのかなり踏み込んだ回答も含め、サンメッセ総合研究所 Sinc所長/首席研究員の川村雅彦氏がその真髄を語った。

「統合思考経営」と「統合報告書」の捉え方とは

SB ESG シンポジウム onlineでは一貫して「統合思考経営」が必要だと提案し、テーマに掲げ議論をしてきた。そもそもなぜ統合思考経営が必要か、川村氏は改めて総括した。

「問題意識は2つの危機。気候変動と感染症だ。人類の生存に関わる問題として直面しており、これらが起こった背景には利益追求型のグローバル化も一因にあるのだろう。気候変動による生態系の変化が叫ばれている。見方によっては、気候変動と感染症の問題は同根なのではないかとも言える」(川村氏)

つまり、仕組みやシステムの問題ではないか。従来の資本主義システムは平時の経済合理性、効率を追求したものだが、想定外の事象には非常に弱い仕組みであろうと言えるからだ。そうすると、全体的な思考(Holistic Thinking)あるいは枠組みそのものが必要では、と川村氏は話す。企業の視点での今後の生き残り方策として4つのXとその実践を提案してきたというわけだ。企業がメガトレンドを背景に長期戦略的視点に立つとき、「統合思考経」の実践である「4つのX」が不可欠だ。

参加者アンケート、質疑応答から見えてきた「4つのX」の論点(当日資料より)

前回までの5回の間にシンポジウム参加者からは多くの質疑、意見が寄せられた。企業の現場、最前線でESG課題に向き合う立場にある参加者も多く、実感のこもった内容だ。その中からいくつかと、川村氏の応答を掲載する。

日本企業の考え方を変えることには限界があり、むしろ特有の良さを生かすべきだ。

川村:「日本企業の良さ」とは何かを議論したい。20世紀、高度成長期を支えた年功序列や終身雇用というシステムは「特徴」だが「良さ」ではない。当時の成功は欧米流のハウツーを理解し、導入実践してきたという手段主導によるものだが、そもそも何を目指すかという目的主導型ではない。日本的な企業の特徴だ。

日本企業では「ガラパゴス的生き方」が最適解な場合もあるのでは。

川村:構造的にそれが可能なのか、疑問だ。

「石炭火力は悪」を前提に議論しないでほしい。

川村:善悪でなく「責任と経営戦略」の問題だ。石炭火力をいつまで続けるつもりなのか。日本企業は21世紀に、何で食っていくのか。20世紀の遺産を食いつぶしてやっていけるのか。とは言え当面は現本業で稼ぎつつ、戦略的投資を行うという、両睨み経営が有効だ。フォアキャストとバックキャストは対立するものではない。

統合報告書は「統合思考経営」を報告するもの

価値創造のプロセスは「オクトパスモデル」図に集約されているが「この図を作成することが目的ではない」と川村氏は釘を刺す(当日資料より)

現在、国内の約500の上場企業が「統合報告書」を発行していると言われる。英オックスフォード大学のエクレス教授らが2018年3月に公表した「統合報告書の10カ国比較分析」では、日本企業の発行する統合報告書の情報品質は下から3番目という結果だった。

川村氏は「統合報告書は、現在の取り組みを評価する自己評価や通信簿ではない。メガトレンドへの理解の中で企業が価値創造をどう捉えているのかを社長、もしくは経営層が語るものである」と指摘する。

統合報告書とは財務資本の提供者(投資家など)へ基礎的情報を提供するものだ。それのみによって投資判断されることはないだろうが、これを土台としてさまざまなエンゲージメント築くツールとなる。つまり、狭い意味での環境・CSR部門が担当するものではないのだ。PXを担当する部署がつくるべきものである。

また川村氏は「IIRC(The International Integrated Reporting Council:国際統合報告委員会)の内容要素が不可欠にも拘わらず、日本企業にはまだ理解が浸透していない」とも分析する。
統合思考に基づき「将来への戦略的な、経営上のマテリアリティとは何か」という点が記載されるべき内容だが、従来の「環境報告書」や「サステナビリティレポート」のようにCSR的なマテリアリティを掲載している会社も見られるという。

成長と発展、意識改革、評価のあり方――

これまで川村氏のコラム、本シンポジウムで「統合思考経営」と「4つのX」を深堀してきた。シンポジウムの締めくくりとなるサンメッセ総合研究所(Sinc)の三者による討論ではまず、「成長」と「発展」の捉え方が語られた。社会の状況、地球環境の状況を顧みて企業を含め私たちの活動を見直すとき、そもそも根本にある人類的な動機付けをしっかりと再定義する必要があるのだろう。

川村氏は「個人的には必ずしもGDPを伸ばせばいいとは思っていない」としながら、「社会はどうしても経済的な成長を望むと思われる」とし、「発展」とは量的な拡大のみを意味せず、質や内容にウェイトを置く、と自身の考えを述べた。

田中氏は年間300人以上の企業の経営に関わる人物と対話する中で、自己変革の必要性を愚直に訴えているという。近年では民間企業だけでなく、行政が学校・教育機関、それも大学のみならず高校・中学校も巻き込んで地域の社会課題の解決と価値創造について議論している。

「地域の社会課題をリアルに体験し、向き合うことは並大抵の意欲ではできず、心の折れる作業でもあるとは思う。幅広いステークホルダー間の座組をしっかり構築し、ディスカッションだけでなく現実的な解決に向かいたい」(田中氏)

山吹氏は「問題提起はされているが、現実の解決の形を示して行かないと、次につながらないという時期に来ている。具体的な事例は2月のサステナブル・ブランド国際会議2021横浜でもさまざまなセッションで紹介されるだろう。情報共有し、関心をもってもらいたい」と話した。

討論会に寄せられた参加者からのリアルタイムの質疑応答

1950年から2020年までに世界の人口は26億から78億人へと3倍に拡大、経済活動(世界総生産)は15倍に拡大している。2050年には人口は90億人を超えると推定されているが、一方で国際的な軋轢も増大しそうに思う。このような時に、日本が世界の中でイニシアチブを取るという認識が不足しているように感じている。日本企業、経営者の意識を変えていくために求められることは。

Sincでは、トップ層、経営層とフランクに話す時間をつくるという手法を取っている。川村氏は「経営層の方々に気づいていただく仕組みが必要。トップの意識が変わった会社は、何かのきっかけがあった。経営陣が世界的なカンファレンスや先進的議論をしている場に出席すると、啓示を受けるという事例は数多くある」と提言。「社長室に引きこもっていてはだめだ」ということだ。周囲の人間やESG担当者は、トップ層やそれに準じる社内の人物を、公で議論する場に連れ出すことが必要だ、と檄を飛ばした。

田中氏は国内企業の経営層の意識はコロナの影響で変わってきた実感があると話した。

「2020年に多かったのは、『経営とサステナビリティの統合・融合』の話をもう一度聞きたいという声だ。中長期、ロングポジションで経営を考えることに着眼された経営者も多く、中長期でしっかり企業を評価してほしいというニーズは高まっている。こういった声は来年、再来年にかけてより大きくなってくるのでは。傾向としては良い方向に向かっていることを肌で感じている」(田中氏)

SB ESG シンポジウム online は6回にわたり、企業が社会課題を認識しながらステークホルダーにとっての事業活動を実践していけるのか、それを実践していくために何をどう変える必要があるのか、総論から幅広い各論までを網羅的に議論した。当然明確なひとつの回答があるわけではない。2030年、2050年、さらにその先を見据えて議論を続け、観察と理解、対応を続けることが重要だ。

田中氏は締めくくりに次のように述べた。

「ESG経営の特にEとSへの取り組みが、企業価値に対してコストを上回るベネフィットを生み出すのかという経営層の疑念はまだ強いと感じている。一方で、投資家から見れば企業がどういう効果を期待してESGに取り組むのかがまだまだ明らかではなく、そのギャップは相変わらずある。

機関によって変わるESG評価アンケートに企業が疲弊しているという一面もあるのではと考えている。評価プロセスの透明性の向上や、評価機関からのフィードバックを企業側に適切に届けるということも求められているのでは。ESG評価の課題が企業の取り組みに水を差さないよう、その点にも解決策が必要だ」

SB ESGシンポジウム online はご好評のうちに全6回を終了いたしました。2月24日-25日に開催する「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」内のブレイクアウト・セッション「価値創造戦略としての統合思考に基づく4X(4つの変革)」では、川村雅彦氏ファシリテーターを務め、4X(環境、デジタルや技術、そしてビジネスモデルや事業ポートフォリオ、コーポレートガバナンスの変革)の観点から、先進企業事例'(エネルギー、重工業、電機など)の成功要因を探ります。ぜひご参加ください。