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これからの時代に評価されるESGコミュニケーションのあり方とは――SB ESGシンポジウム online 第2回開催レポート

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左から川村雅彦 SBJ Lab統合思考プラクティショナー(Sinc所長・首席研究員)、山吹善彦 サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員、森澤正人 モーニングスター株式会社 取締役/ゴメス・コンサルティング事業部長

企業がウェブサイトで自社のビジョンや姿勢を示すことは一般的になりつつある。その発信は個人/機関に関わらず投資家に注目され、今や企業価値に直結している。これからの時代に評価されるESGコミュニケーションとはどのようなものだろうか。「統合思考経営」を全5回で解き明かすSB ESG シンポジウム online。9月18日に開催した第2回では、「ESGサイトランキング」を8月に発表したモーニングスター/ゴメス・コンサルティングの森澤正人事業部長をゲスト講師に迎え、優良事例を交えて解説した。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム「統合経営思考のWhy ,What & How」をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が統合思考経営を解説します。シンポジウム第2回目のテーマは「ESG情報開示に向けたコミュニケーションのあり方」。モーニングスター/ゴメス・コンサルティング事業部の森澤正人事業部長をゲスト講師に迎え、情報開示とその評価について、分析や潮流の解説が行われました。

SB ESGシンポジウム online 第1回セミナーレポートはこちら
SBJ Lab連載中コラム「統合経営思考のWhy ,What & How」はこちら

※SBJ Labではモーニングスター/ゴメス・コンサルティング事業部と協働し、ESGコミュニケーションにおけるWEB制作の支援を行っています。詳細・お問い合わせはこちら

情報開示ガイドラインと企業評価の全体像

企業は非財務情報をどう経営に結びつけるか――。2018年以降、特に関心が高まっている命題だ。「今年は主要なESG情報開示ガイドラインの改変が予定され、連携しての統一的な開示ガイドラインづくりへの流れが加速している。」と説明するのは山吹善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員。企業の情報開示における現在の情勢の全体像を解説した。

非財務情報への関心の高まりを背景に、GRI(Global Reporting Initiative)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、SASB(Sustainability Accounting Standards Board )、IR(INTEGRATED REPORTING)などさまざまなガイドラインが存在するが、それぞれの目的を尊重しつつも、それらを統合しようとする動きが始まっている。

CDP、GRI、IR、SASB、CDSB(Climate Disclosure Standards Board)の主要5団体は今年9月、包括的な企業報告実現に向けた声明を発表した。サステナビリティレポート、統合レポートの役割を明確化し、非財務情報がどのように財務情報へ影響を与えるのかを考慮しながら開示をしようという、体系的なフレームワークだ。

上記の声明の中で、「タクソノミーの使用」と「テクノロジーによる構造化」が特に重点として掲げられている。各種企業アンケートへ回答がオンラインへ移行しているように、テクノロジーを利用して情報の開示をより効率的に、かつ比較可能にしていく動きが加速すると見られる状況だ、と山吹氏は解説する。

主要5団体による声明の体系図を加工作成

このような現状を踏まえ、ウェブサイト上での情報開示の実例と潮流を具体的に示したのが、モーニングスターの森澤正人 ゴメス・コンサルティング事業部長だ。

現代を取り巻くデジタル環境の変化

モーニングスター/ゴメス・コンサルティング事業部では構成・設計視点で企業のウェブサイトへのコンサルティングや構築、運営を行う。さらに企業サイトを評価し、2005年からこれまでに13回、IRサイトランキングを発表している。今年8月には初めてESGサイトランキングを公表した

森澤氏は「昨今ではスマートフォンはもちろん、コロナ禍もあってタブレット端末が国内全世帯の37%に普及している」と環境の変化を述べる。企業サイトのマルチデバイス対応が一層求められているが、全上場企業のIRサイトのトップページを調査すると、約40%がスマートフォンにも最適化していないという。後述するように、サイトの「見やすさ」は評価に直結する。

ランキングにあたってはさまざまなカテゴリ、基準から採点されるが、ESGサイトにおける動画コンテンツの活用も基準のひとつだ。ゴメス・コンサルティングのESGサイトランキングにノミネートされた118社のうち、ESG関連の動画を掲載しているのは24%、28社。例えば、小松製作所はCSR専用の動画ライブラリが用意されており、ジャンルごとに多くの動画が掲載されている。具体的な取り組みを動画配信することで、企業の目指す方向性や姿勢を強く訴求できる。

先進事例=小松製作所
先進事例=Autodesk 

では具体的に、どのように評価が行われているのか。過去にその企業が何をしてきたのか、現在どういう状況か、そして未来がどこに向かうのかをバランスよく配置し、かつ定量的なデータと、定性的な考え方をバランスよくまとめることがIRサイトの評価で重要視されるという。ESGサイトランキングでも同様だが、より将来に向けた情報発信が必要になる。

海外の事例に目を移すと、「Our Impact」や「Value」というラベリングを用いてウェブサイト上で自社の考え方を示すケースが増えている。同様に「Stories」という形式で取り組み内容がまとめられているケースが多い。欧米の先進的事例では会社ごとのメッセージ性の高いコンテンツが、動画やテキストを活用し豊富に掲載されている。

先進事例=Cisco

「ESGサイトランキング」評価基準は

ESGサイトランキングの調査は2020年4月~6月、IRサイト総合ランキングの上位362社をノミネートすることから始まったという。予備調査でそこから118社に絞り込み、5カテゴリ132項目の評価基準によってESGサイトをランキングした。10点満点中、総合6.00点以上の企業を優秀企業とする。

結果は以下の通り。1位に輝いたリコーは「バランスが取れ、情報量が多く、優れた見せ方をしている」と森澤氏は話す。「コロナ対策や働き方改革などが非常に詳しく掲載されており、何より、自社としての目標を明示し、それに対するレビューもしっかりと掲載されている」という。

Copyright (C) 2020 Morningstar Japan K.K. All rights reserved.

第2位の積水化学工業は「ESGに関するサイトマップが表示され、目的とする情報にすんなりとアクセスできる。社外からの評価やインデックスをロゴと併せて掲載している」(森澤氏)と評価された。伊藤忠商事ではCEO、COOだけでなく、サステナビリティの担当役員もメッセージを掲載し、顔の見えるウェブサイトづくりを実現していることが高評価につながった。また同社では、統合報告書もPDFだけでなくHTML化することで、PC、スマートフォンを問わず見やすいサイト作りをしている。

優秀企業88社はこちら

先進事例=リコー 
先進事例=積水化学工業 
先進事例=伊藤忠商事 

情報はあるだけでは意味がなく、利用者がそれに行き着きやすくなければならない。そのためサイト評価の体系においては、「ESG個別の情報」「ESG共通の情報」の全体の上に「ウェブサイトの使いやすさ」というカテゴリが位置付けられる。「使いやすさ」の評価には「メニューとナビゲーション」「デザインとアクセシビリティ」など8項目の基準が設けられている。

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「サイトのアクセシビリティ自体が企業の姿勢を示しており、海外では高齢者対応や障碍者対応をしていないウェブサイトの企業は自治体からの発注の対象外とされる場合もある」(森澤氏)

サイト内検索の視認性も重要になり、画面上に大きく表示される検索バーがグローバルのトレンドだ。

先進事例=Netflix

ESGサイトは「黎明期」これから求められる戦略は――

ゴメス・コンサルティングのIRサイトランキングとESGサイトランキングを見比べてみると、必ずしもIRサイトランキングの上位企業がESGサイトランキングの上位企業と一致しない。「まだまだ悩みながら発信されているという印象」と森澤氏は述べる。ESGランキングで総合得点の上位企業を見ても、高得点を獲得しているカテゴリにばらつきがあり、ESGサイトに関しては「まさに黎明期にあると感じている」という。

倉庫型のウェブサイトから情報発信をするウェブサイトへとESGサイトは変わりつつある。そこからさらにデジタル技術を活用して、利用者との「双方向型」の発信に向かっていくのがESGサイトのこれからのあり方ではないか、と森澤氏は締めくくった。

森澤氏の解説を受け、サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員、川村雅彦氏は以下のように感想を述べた。

「ESG情報は開示しなければいけないが、企業側の視点では、なぜ情報開示が必要か、つまりWhyを自ら納得して、毀損防止も含めた中長期的な価値創造を再度考え直すことが求められていくのではないか。また、今後はサプライチェーンも含め、バリューチェーンへのインパクトも考える必要があり、価値創造の考え方が拡大する。投融資家もそこまで見るようになるだろう」

かつて海洋開発に携わっていた川村氏は、次のように締めくくった。「潮流はあるとき突然発生し、大きくなることがある。流れに抗っても翻弄されたあげく、結局は流れに飲み込まれていく。生き残るためには、少なくとも流れに乗ってみることが必要だ」

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統合思考経営と情報開示コミュニケーション

完全オンライン開催の今シンポジウムでは、多数の質疑応答と講師、参加者による対話が行われる。講師陣から参加者へのリアルタイムアンケートでは、例えば次のような設問が設定された。

アンケート:ESGコミュニケーションを通じて、グローバルに自社の評価を受ける際に、指標やラインキング、表彰の中で重要視している上位3つを選択してください(10項目)。

結果は、回答数が多い順に以下のとおり。

CDP
MSCI World ESG Leaders Index  ※GPIF ESG指数連動
FTSE4Good Index Series ※GPIF ESG指数連動
DJSI world/Asia Pacific Index(Robeco SAM調査)
STOXX Global ESG Leaders Index(Sustainalytics調査)
Global 100 Index(ダボス会議)
ETHIBEL Sustainability Index
CRRA:CR Reporting Awards(コーポレート・レジスター)
World’s Most Admired Companies(Fortune)
oekom Corporate Rating

会場から講師陣には、次のような質問が寄せられた。

質問:ESG開示に関して「開示していたら、内容の良し悪しに関わらず評価される」という点について指標の未熟さを感じますが、今後どのように変わっていくとお考えでしょうか?

「ESGサイトは黎明期。まずは掲載することが大事だとは考えている。その次に周囲からの評価が現れるという流れになっている」と森澤氏は答えた。川村氏は「従来の環境・CSR報告書はデータブックになりつつある」とした上で、「正しいESG情報を開示しながらも、データのひとつ上の文脈が本文になっていくのでは」と回答した。

質問:ESGランキングにエントリーされる最初の段階で「IR総合ランキング上位362社」に入るにはどうすればいいか?

ゴメス・コンサルティングの評価では、IRコーポレートサイトとしての価値を高めることが第一段階となる。「ロゴを隠したらどの企業のサイトかわからない」というような通り一遍の情報開示では「残念ながら難しい」(森澤氏)という。

大きな枠組みの「IR・ESGサイト」の評価からESGの部分を詳細化したものがESGサイトランキングだ。少なくとも投資家視点では統合して考えるべきだと森澤氏は言う。川村氏は「価値創造と毀損防止をコーポレート・ガバナンスとしてどう見ていくのか、という統合思考経営の考え方と同じだ」と指摘した。

SB ESGシンポジウム online 第3回は10月7日 16:30-18:00にオンラインで開催します。川村氏の講演テーマは「『GX』としてのEUタクソノミーのインパクト ~欧州グリーンディールを背景に~」。「統合思考経営」の基本要素である気候変動への長期的戦略の考え方を解説します。

SBJ Labではモーニングスター/ゴメス・コンサルティング事業部と協働し、ESGコミュニケーションにおけるWEB制作の支援を行っています。詳細は lab[at]sustainablebrands.jp ([at]を@に置き換え)までお問い合わせください。