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コロナ後に問われる企業の変革 「統合思考経営」を実践するための「4つのX」とは――SB ESGシンポジウム online 第1回開催レポート

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講師の川村雅彦氏

「統合思考経営」とは財務情報だけでなく、人や環境、社会といった企業を取り巻くさまざまな状況や要素を組み込む経営戦略だ。それがなぜ必要で、何を、どうすれば実行できるのか。「SB ESGシンポジウム」は、サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員、川村雅彦氏が「統合思考経営」を全5回でわかりやすく解説する。9月4日に開催した第1回目ではコロナ禍からの復興という今の時代、状況の中での思考の枠組みを川村氏が提示し、参加者・講演者が双方向の質疑応答を行った。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「SB ESGシンポジウム online」はSBJ Labコラム「統合経営思考のWhy ,What and How」をベースに川村雅彦氏が統合思考経営を解説します。シンポジウム第1回目のテーマはコラム内容の総論、俯瞰した全体像と枠組みです。

SBJ Lab連載中コラム「統合経営思考のWhy ,What & How」はこちら

気候危機を背景に、コロナ禍からのグリーンな復興の機運が高まっている。人の移動が制限され、需要は急減し、経済が大きく落ち込んで各国で「経済の立て直し」が図られている。当面の復旧が必要な一方で、川村氏は「復旧と復興は異なり、大事なことは長期視点の『復興』である」と強調する。経済や社会の構造を変えなければ、課題を持った元の経済に戻り、課題が復活してしまう。これが根本的な問題意識だ。

「今ある仕組みというのは恐らく、20世紀後半の平時に確立し、外部環境が安定した状況で経済をはじめとした効率を高めるようにできている。社会にショックがあったときの強靭性、耐性が考えられていないのではないか。賛否はあるとしても、レジリエンスやサステナビリティを考えてつくり変えなければ、50年、100年と同じことを繰り返してしまうのではないか」(川村氏)

EUは強靭で耐性のある持続可能な経済・社会システムへ転換する「グリーンリカバリー」を成長戦略の要と位置付け、通常予算とは別に7500億ユーロ(約90兆円)の「復興基金(次世代のEU)」をつくり、加盟国に財政補助や融資をすると発表した 。

リーマンショック後、経済の復旧は成功したが環境負荷(温暖化ガス排出量)は増加し、グリーンな「復興」は失敗した。コロナ禍からのリカバリーの行方は――(当日資料より公開)

さらにグリーンリカバリーという方向性が決定したとしても、その解決策に対する考え方が問題になる。欧米では「目標主導型」で、「明確な時間軸と到達点(ありたい姿)」を掲げ、 従来の延長線にない斬新な発想で仕組みを変革する「バックキャスティング」や「ムーンショット」を主軸に据えて推進される。一方、日本では積み上げ思考(フォアキャスティング)、「カイゼン」思考が企業経営の主流となっている。

フォアキャスティングを生かし目前へ前進しながらも、長期目標からのバックキャスティングにより中期目標を捉えてイノベーションを創出することが望ましい(当日資料より公開)

気候変動・感染症時代 「日本型グリーン・ディール」の必要性

川村氏はEUで昨年12月に新しい戦略として採用された「欧州グリーン・ディール」が手本になるのではないかと提起し、以下の3つの柱からなる「日本型グリーン・ディール」を提案する。

・従来の環境・社会課題の復活につながらないこと
今は変革を促す千載一遇のチャンスだと捉える。

・新しい産業と経済の競争力を生み出すための財政出動・投資

・気候変動・感染症時代における2030~2050年を視野に入れた経済復興策の基本は「脱炭素」「循環経済」「自立分散」「包摂」の社会へ移行
環境省は「持続可能でレジリエントな復興」の要点として「脱炭素」「循環型社会」「分散型社会」を掲げているが、川村氏は「グリーン・ディールとは環境と人についての施策である」との観点からここに「包摂」を加える。

では、実務的な視点でこれらを実現するために企業が実践すべきこととは何か。

企業の実践における4つのX

当日資料より(公開)

企業が取り組むべき4つの変革について川村氏はトヨタを事例にあげて解説を行った。このうちPX(Business Portfolio Transformation)の説明では、GX、DXを前提としてサステナビリティと「データ経済」がビジネスモデルを変えていることを説明。トヨタの場合は「メーカーを脱却してモビリティサービスのプロバイダとなる」ということを2年前に豊田章男社長自ら宣言し、最近ではAmazon Web Serviceなどとも連携してビジネスの形態を変えている。競争のルールが変わったことにより、販売台数を競うのではなくビジネスを変革することがこれからの生き残りに重要だとして実践した事例だ。業種の垣根を超えた連携が進めば「恐らく20世紀的な産業分類は役に立たなくなってくるのではないか」と川村氏は言う。

統合思考経営とは何か

2年前、オックスフォード大学が世界10カ国の主要企業の統合報告書を横並びで評価した結果、日本は「下から3番目」だった。その理由は、IIRC(国際統合報告委員会)の提唱する「統合思考」の内容要素に対して、日本の統合報告書が応えていないことだという。なぜ日本の統合報告書は世界で評価されないのか。

「多くの日本企業は、統合報告書の中で『今何をしているか』を記載している。価値創造や毀損防止に関してはガバナンス、つまり取締役会の問題として書かれていないということが大きな理由だ」(川村氏)

価値創造や毀損防止について、企業がどう考えているのか。それを自社の中で議論し、対外的に公表することが重要だ。それは長期的なESG投資家に評価されることにつながる。

関連・詳細コラム= 【統合思考経営2】「統合思考」に欠ける日本の統合報告書

オンラインで参加者とインタラクティブに議論

進行を務めた山吹善彦氏(サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員=左)と川村雅彦氏

SB ESGシンポジウムは完全オンラインで開催した。川村氏の講演の後、講師と参加者が双方向に意見交換、質疑応答を行った。川村氏と進行の山吹氏からは、「パリ協定のもと気候変動に対し、どのようなビジョンが所属企業にもっとも影響があるか(4択)」といったリアルタイムのアンケートが行われた。その結果は、得票数が多い回答から順に以下の通り。

・企業トップによるビジョン
・日本政府独自のビジョン
・国際機関による強制力をもったビジョン
・NGOなど非営利組織による規制的なビジョン

もちろん、参加者の所属に影響を受けた回答結果という側面もあるが、海外と比べ「NGO/NPOの影響力が弱く、行政のリーダーシップが不足しているため企業の積極的行動が重要だ」と言われる国内の状況を反映した結果となった。

また参加者からはサステナビリティを実践する現場からの切実な質問が寄せられた。

質問:一部の膨大な内部留保を持つ企業は別として、現在の資本主義の社会を前提とした場合、自社が持続するために、環境を含めたSDGsなどのあるべき論に、どれだけの企業が同調できるのか?

「かなり厳しく言えば」と前置きして川村氏は次のように話した。

「新しいビジネス環境やフレームワークができている以上、その中で成り立たない産業は消えるしかない。そこで重要視されるのは『どうあるべきか』ではなく『どうありたいか』だ」

コロナのあとにどのような社会になるのか、という論調もあるが、重要なのは「中長期的に見て、私は、わが社は、どうしたいのか」という発想だ。投資家から求められているのは自発的な意思決定であり、どういう世の中になるのかではなく、その見込みの中でどうするのかが問われている、と川村氏は話した。

それを具体的に実践する際に重要な方策になるのが、「4つのX」というわけだ。


SB ESGシンポジウム online 第2回は9月18日 16:30-18:00にオンラインで開催します。
川村氏の講演テーマは「統合思考経営」におけるESGコミュニケーション
「統合思考経営」を理解し実践するために、全体像から各論へと解説を進めます。