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EUタクソノミーとは何か――SB ESGシンポジウム online 第3回開催レポート

昨年12月、EUの執行機関・欧州委員会は気候変動対策「欧州グリーンディール」を発表した。中核にあるのは2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「クライメイト・ニュートラル」で、これは2016年以降議論を積み重ねた「EUタクソノミー」に合致する。ESG金融、そして脱炭素社会を語る上では外せない「EUタクソノミー」とは何か。SB ESG シンポジウム onlineの第3回では、EUの脱炭素戦略とその背景、そして日本へのインパクトをサンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員、川村雅彦氏が熱を込めて解説した。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム『統合思考経営のWhy ,What & How』をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が「統合思考経営」を解説します。シンポジウム第3 回目のテーマは「『GX』としてのEUタクソノミーのインパクト~欧州グリーン・ディールを背景に~」。ESG投資(金融)の潮流を語る上で欠かせないキーワードとなった「EUタクソノミー」とその背景にあるグリーンディールとは。

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EUタクソノミーを中核に据える欧州グリーンディールとは

「欧州グリーンディールは、EUの新しい成長戦略です。雇用を創出しながら、CO2排出量の削減を促進します」――。ドイツの国防大臣であったウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長はグリーンディールをこう説明した。この言葉を紹介し、川村氏は「そもそも欧州グリーンディールというのは、今後10年単位の欧州の新戦略を決めたもの。それは脱炭素に向けた社会変革、経済変革をしようという明確な意志の表れだ」と解説する。

「このグリーンディールにはさまざまな側面があるが、競争力向上のための産業戦略と見ることもできる」という。その「三原則」は以下のとおり。

・2050年までにGHG(温室効果ガス)排出を正味ゼロへ:1.5℃目標と世界初の「気候中立大陸」の実現
・資源利用と切り離した経済成長:サーキュラーエコノミーの実現
・だれもどこも置き去りにしない:包摂的な雇用に着目

欧州グリーンディールの根幹をなす「2050年に域内のGHG排出量を正味ゼロにする」ために、別途新たな「欧州気候法」を準備している(現在は法案段階)。旧来の気候法では、2030年のGHG排出量削減目標は40%減(1990年比)だったが、これを50~55%減(同)へと刷新することを目指す(直近では、委員長は60%減にも言及したとの報道もある)。

とはいうものの、この目標達成には莫大な資金が必要になる。再生可能エネルギーによる発電所の建設などのインフラ整備のため、今後10年間で官民合わせて少なくとも1兆ユーロ(約120兆円)規模の投資を計画している。

この新たな戦略を実現するために、欧州グリーンディールでは「金融そのものを変える」ことを掲げ、同時に、金融の対象となる企業・産業の変革を求めている。その金融戦略の変革の具体的な手段が「EUタクソノミー」であり、「欧州気候法」はEUタクソノミーと整合的であるというわけだ。

ちなみに欧州グリーンディールは「環境中心、気候変動対策が中心だが、それだけに特化しているわけではない」(川村氏)。化石燃料産業から非化石燃料産業への移行にあたって、失業者の増加という課題を受け止め、それを回避しようとする「公正な移行」を強調する。つまり、新たな産業分野における職業訓練や雇用機会を提供するための「公正な移行メカニズム(JTM)」を創設する。

「この点は日本も見習うべきだろう。産業構造の転換期にあって企業の利益だけでなく、それを担う市民、労働者の生活もサステナブルにすることが必要だと強く感じる」(川村氏)

欧州グリーンディールは「国境炭素税(国境炭素調整措置)」の導入を示唆している。世界的にも議論を呼んでおり、川村氏はこの点についても解説した。

EUタクソノミーとは何か

「EUタクソノミーとは何か」――。そう聞かれて、一言で答えることは難しい。川村氏はまず「EUタクソノミーは単なる概念ではなく、『タクソノミー規則』と呼ばれる、今年6月に公布された欧州の法律である」と明確にした。その中で、先行して実務的・技術的に検討が進んだのが気候変動の緩和と適応であり、その具体的な内容は今年末に発表される政令によって確定する見込みだ。

いくつかの側面からEUタクソノミーを切り取り、気候変動の緩和(脱炭素化)に焦点を当てると以下のように言えるだろうと川村氏は分析している。

(当日資料)参照:川村雅彦氏SBJ-LABコラム【統合思考経営6~10】

基本的には、「EUタクソノミー」とは、パリ協定とSDGsを確実に達成するためのサステナブル金融、金融政策のことである。同時に世界初の「気候中立大陸」を実現するための手段であり、実務的には投融資に適格な「グリーンな産業・業種」を仕分けする分類体系だ。その結果として、投融資家の資産運用と企業の設備投資を脱炭素化に集中させる金融戦略として機能する。さらに技術的な適格基準(閾値)を明確に数値化することで、仕組みとして「グリーンウォッシュ」を排除する方策でもある。

時間的経緯については、EUタクソノミーは、2015年のパリ協定合意を契機に設置された諮問委員会(HLEG)が2018年3月に公表した10からなる「アクションプラン」に基づき継続して議論されている。現在のところ、後述するように3つのプランだけが法制化されているが、今後も粛々と実行に移されていく予定だという。なお、時間的には逆だが、欧州グリーンディールは、新委員長就任に合わせて2019年12月に欧州委員会によって発表された。

関連コラム= EUタクソノミー成立に至る経緯
【統合思考経営8】EUタクソノミーの『激震』(3)

6つの環境目的と4つの適合要件

EUタクソノミーの主要論点は、6つの「環境目的」と4つの「グリーン・タクソノミー適合要件(何をもってグリーンと定義するか)」にある。

(当日資料)「EUタクソノミー」関連資料を基に川村氏作成

欧州グリーンディールと同じ発想に立ち、EUタクソノミーでは6つの環境目的(気候変動の緩和、同適応、水資源、サーキュラー・エコノミー、公害防止、生物多様性)のいずれかに貢献するだけでは、「グリーンである」とは認定されない。業種別の閾値をクリアするのは当然だが、これを含む4つの適合要件には、人権・労働課題を含む「ミニマム・セーフガード」に準拠すべきことが明文化されている。

では具体的にどのような環境活動がEUタクソノミーに適合するのか。川村氏によれば、それは大きく3つの活動に分類される。すでに脱炭素・ニアゼロを実現している「グリーン活動」と、現状では正味(ニア)ゼロ排出ではないが2050年のゼロ排出に向けて移行しつつある「トランジション活動」、そして自社プロダクトで他者の環境パフォーマンス(低・脱炭素)向上に貢献できる「イネーブリング活動」だ。

このうちタクソノミー概念を理解する上でポイントになるのが「トランジション活動」だ。例えば高効率の製鉄、セメント製造、あるいは使い捨てプラスチックを削減する事業、ガス燃焼による熱電併給事業などがこれに当たるという。石炭火力発電などは「ブラウン・タクソノミー」だが、トランジション活動との境界を曖昧にしてはならない。川村氏は「その基準はカーボン・ロックイン(プロダクト生涯の炭素封印)の有無ではないか」と指摘する。

関連コラム:
【統合思考経営9】EUタクソノミーの『激震』(4)
【統合思考経営10】EUタクソノミーの『激震』(5)

さらに川村氏は、EUタクソノミーの大枠の位置付けを次のように説明した。

「金融機関のサステナビリティ情報開示規則(SFDR)と機関投資家の低炭素ベンチマーク規則(LCBR)は、2019年10月に官報に掲載され、すでに法律となっていた。ここに12月にタクソノミー規則(TR)に関する欧州理事会と欧州議会の政治的合意が発表されると、米国では『キーとなる3法律が出揃った』と評価された。つまりTR、SFDR、LCBRの3つを揃え、搦め手で動く仕組みだ」。川村氏は、これを「タクソノミー三兄弟」と呼ぶ。

日本のエネルギー転換は危機感を持つべき状況だ

このようなEUタクソノミーと欧州グリーンディールの動きを背景として、欧州の石油メジャーや鉄鋼メーカーなどの主要企業は、2050年のゼロ排出という脱炭素へ向かって挑戦的ともいえるビジネスモデルの転換やビジネスポートフォリオの変革(PX)への戦略的な動きを見せている。翻って日本国内では「全体としての動きは鈍い」という。

2018年に閣議決定された「第五次エネルギー計画」では、2030年に向けてGHG26%減(2013年度比)を掲げている。つまり17年間で26%減だ。これには少なくともエネルギーミックスの確実な達成が必要だが、再生可能エネルギーについては「主力電源化への布石」という曖昧な文言で説明されている。

さらに2050年に向けてはGHG80%減(比較年度不明)を掲げ、「エネルギー転換・脱炭素化への挑戦」「再エネは経済的に自立した主力電源化を目指す」という方針だ。仮に「80%減」が2013年度比であれば、2030年から2050年の20年間で54%削減を目標にしていることになる。それまでの約2倍のペースとなるが、どのように実現を達成するか、具体的な議論は発表されていない。

一方で、実際の日本の発電量構成比を見ると、2013年度に30%だった石炭火力は、2030年度目標の26%に対し、2018年度には32%と逆に「増加」している、と川村氏。危機感を持たざるを得ない状況なのは明白だ。

これに対し、電気事業者による「低炭素社会実行計画」や経団連の脱炭素化プロジェクト「チャレンジ・ゼロ」などの動きはあるが、日本全体としては欧州のように議論と実践が進んでいない。「周回遅れどころではなく、21世紀の国家戦略・産業戦略が問われているのではないだろうか」と川村氏は話す。

「第五次エネルギー計画では、今から30年後にGHGを8割削減する方針だ。しかし、日本も国をあげて『2050年ゼロ目標』の具体的な議論を始めませんか、と呼びかけたい。経済産業省の議論もそろそろ始まるが、その成果に期待したい」(川村氏)

「統合思考経営」に不可欠な視点

川村氏の講演を受けて、進行を務めた山吹善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員(写真左)は「EUタクソノミーはある意味でEUが巧妙につくった、金融を介した企業の脱炭素化の変革を促す仕組み」と総括する。川村氏の言う「手段」ということだ。参加者からは次のような質問が寄せられた。

質問:事業会社にとってタクソノミーの対象は、例えば製品、事業、会社のどの単位で考えるものか。つまり、投資家の投資対象は企業単位なのか。

川村氏は「対象が製品なのかプロジェクトなのか、あるいは企業なのかは業種による。そこで、欧州の産業分類で約70の業種それぞれの技術的適合基準を確認しなければならない。適用時期と閾値を含めて、現状ではTEGの最終報告書をみることになる」と回答した。つまり、業種ごとにどのポイントを押さえるべきかは、その資料から精査する必要があるというわけだ。

(当日資料)自動車産業のタクソノミー適合基準:欧州委員会「TEG最終報告書(タクソノミー技術報告書 ANNEX)」(339頁)を基に川村氏作成

「統合思考経営とは、中長期の企業価値の創造と毀損防止のために、サステナビリティの大きな潮流の中でどのような経営戦略をとり、どのように実践するかを経営者が考える経営。そのためには財務・非財務要素が高次元で統合された思考が不可欠だが、GXとしてグリーン・タクソノミーやトランジションは非常に重要な視点となる」と、川村氏は締めくくった。

SB ESGシンポジウム online 第4回は10月27日 16:30-18:00にオンラインで開催します。テーマは「DXを中心にメガトレンドのインパクトと戦略的PX」。アスタミューゼ株式会社テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明部長と株式会社ブリヂストン グローバル経営戦略本部 サステナビリティ推進部 稲継明宏部長をゲスト講師に迎え、テクノロジーのメガトレンドを見据えたビジネスモデルの転換とポートフォリオ変革(PX)などを解説。進行は川村雅彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員が務めます。