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社外取締役が企業経営の要に:「攻めのガバナンス」で統合思考経営の実践を――SB ESGシンポジウム online 第5回開催レポート

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法政大学人間環境学部 兼大学院公共政策研究科 教授 長谷川直哉氏

「攻めのコーポレートガバナンスなくしてサステナビリティ経営の実現はない」――。そう力を込めるのは法政大学人間環境学部 兼大学院公共政策研究科 教授の長谷川直哉氏。従来のコンプライアンス重視型のガバナンスだけでなく、社会のために「何もしない」ことに歯止めをかける攻めのガバナンスの必要性を訴えた。要となるのは企業に「外の目」をもたらす社外取締役の実効性だ。統合思考経営を実現するCX(コーポレートガバナンス・トランスフォーメーション)とPX(ビジネスポートフォリオ・トランスフォーメーション)をもたらす社外取締役のあり方とは。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム『統合思考経営のWhy ,What & How』をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が「統合思考経営」を解説します。シンポジウム第5回目のテーマは「CX、PX実践のための取締役会の在り方」。安田海上火災保険(現・損保ジャパン)などでのファンド構築や金融、投資、資産運用、企業研究、環境経営について豊富な経験と知見を持つ、法政大学人間環境学部兼大学院公共政策研究科 教授 長谷川直哉氏がゲスト講師として解説します。

SB ESGシンポジウム online 第1回セミナーレポートはこちら
SB ESGシンポジウム online 第2回セミナーレポートはこちら
SB ESGシンポジウム online 第3回セミナーレポートはこちら
SB ESGシンポジウム online 第4回セミナーレポートはこちら
SBJ Lab 連載中コラム『統合思考経営のWhy ,What & How』はこちら

国内企業の課題は「社外の目」取り込むこと

日本が京都議定書を締結した2002年から2014年の期間、GDPとGHG(温室効果ガス)の削減量を国別に見ると、世界的には欧州を中心にその両方が伸びている傾向にある。しかし日本はGDPも増えず、GHGの削減も不十分な状況だ。脱炭素はトップダウンで実践しなければならない。「この姿はある意味、日本の企業の集積ともいえるのではないか。原因は国であれば政策判断、企業であれば経営判断にある」と長谷川氏は警鐘を鳴らす。

長谷川氏がファンドマネージャーの経験を通して感じたことのひとつに、経営層、つまり取締役会に対する、投資家と企業の「認識のギャップ」があるという。注目したいのは社外取締役の存在だ。投資家はその実効性に、もっとも注視する。社会、投資家といった「外の目」を社内に取り込み、適切に開示すること。そこに国内企業の課題がある。「社外取締役が経営の要」になっていると長谷川氏は強調する。

独立取締役を選任することが企業価値を高める

実際に独立取締役、社外取締役が企業経営にどういう影響を与え、役割を果たしているのか。大和総研のレポートによれば、独立取締役の選任をしているかしていないかでROE(自己資本利益率)に差が出ている。独立選任取締役を設置す3182社と、設置していない企業のROEを比べると明らかに前者のROEの平均値の方が高い。さらに、独立取締役の選任がある企業は業界平均を上回り、専任がない企業は下回っている。

複数人の独立取締役を選任している場合と、一人だけの場合を比較しても同様の差がみられ、前者の方がROEが高い。つまり一人でも多く、積極的に独立取締役を選任しようとしている企業の方が、ROEが高くなる。独立取締役を選任することが、企業価値を高めるひとつのファクターとして効果的である可能性が高いということを示唆し、同時に投資家が、複数人の取締役を選任している企業を投資候補として選ぶ可能性が高くなる。

形式上でなく、実効性ある選任を

なぜ日本の取締役会の中で独立取締役が必要か。CEOの昇格ルートが内部昇格か外部招聘かで比べると、世界平均は77%。日本の企業は96%が内部昇格と、世界で一番高い。日本ではひとつの企業で長く勤め、選別され、会社に残った人が企業のトップにつく。ある意味で企業の価値観や風土を体現した人がトップになる仕組みだ。組織内のコンセンサスを取る能力は優れているが、一歩間違えれば目線が企業向き、内向きになるあまり、内部の常識と社会の常識がかけ離れてしまうというリスクが潜んでいる。その最たるものが企業不祥事だ。

内向きになりがちな日本企業のガバナンスのあり方を変えていく上で必要になる外からの目。それが社外取締役の役割だが、日本の上場企業のうち社外取締役を選任している企業は30%程度と、欧米に比べてかなり低い。

「この数字には日本企業特有の体質が出ているのでは。内向きの人が多い取締役会の中で外の人を『異分子』として入れることに抵抗感が強く、また調和を乱さないような人を選びがちなのではないか」と長谷川氏は所見を述べる。

企業間で株式の持ち合いをしているケースは年々減少しているが、社外取締役を持ち合いしているケースが増加しているという。予定調和を乱さない人選の結果、形式的には「社外」「独立」として整理されているが、実態を見れば仲間内という事態が起こる。そうなれば「外の目」の効果が出ないばかりか、むしろ経営に対して異論を挟まない傾向が強くなるのかもしれない。

「企業と社会の関係性をきちんと認識し、20年後、30年後の将来、社会の中で自社がどのような役割を果たしているのかを議論し戦略に落とし込むことが重要だ。外の目を踏まえて戦略を立て、それを投資家との建設的な対話につなげなければならない」(長谷川氏)

取締役候補、起業と人材をマッチングするシステムが必要か

では投資家が社外取締役に対して期待することは何か。ここにも企業と投資家の間のギャップがある。「こういう人がこういう意図で社外取締役になっているんだな」と腹落ちする人選がひとつのポイントだと長谷川氏は解説する。前述の「社外取締役の持ち合い」のケースであれば、形式的な配置にすぎないと思われ、投資家は社外取締役に期待しなくなる。

では社外取締役をどう選ぶか。企業から見れば、まず候補者を発見することが難しい。「有為な人材はいても、マッチングができていないということもあると考えられる。企業が自社に最適な社外取締役候補を見つけやすくするシステムの構築も重要なのではないか」という。

「物申す社外取締役」が企業価値をもたらす

「ビリーフ・ドリブン」と言われるように今の消費者は機能や品質、価格だけでなく、製品・サービスの裏側にある価値観や理念に共感できるかを重要視する。未来の社会で選ばれる企業とは、社会からの共感と信頼がある企業だ。それを得るためにはストーリーをつくり、将来の社会で自社がどういう役割を果たすのか、示すことが必要になる。

長谷川氏は「ルール違反を起こさないというコンプライアンス型の『守りのガバナンス』の時代は終わったのではないか」と話す。サステナビリティを目指す社会の中で、企業が「何もしない」ということに歯止めをかける「攻めのガバナンス」が必要になっている。それがまさにサステナビリティ経営の実践ということだという。

「何もせずに先送りする経営では今後を生き残ることはできない。言うべきことを言う『物申す社外取締役』を取り入れてビジネス・オポチュニティの獲得をしなければならないのではないか。攻めのコーポレートガバナンスなくしてサステナビリティ経営の実現はない」(長谷川氏)

委員会方式は「中身が重要」

講演の後、シンポジウム視聴者へのリアルタイム・アンケートなどを利用した質疑応答が行われた。例えば次のような双方向のコミュニケーションが図られた。

視聴者の所属企業でどのようにサステナビリティに関連する問題を経営課題として議論しているのか。積極的に大変革の時代を意識して議論する場として、取締役会でその議論ができるのか、委員会を設置し専門的に議論した上で取締役会で協議する、という方法を取っているのか。それとも、取締役会では議論していないのか。結果は次のとおり。委員会方式を採用している会社が多いようだ。

長谷川氏は「アンケートの結果は一般的」と解説する。特にサステナビリティや脱炭素に関しては、日本では取締役会で質問・意見が出ることは多くなく、委員会での検討が重要になる。つまり委員会の中にどういうメンバーがいるのか、どういう見識が共有されるのか、が企業にとって重要な問題になるというわけだ。

取締役会で議論・意思決定が必要と考えるサステナビリティ課題は何か――。ほぼすべてのシンポジウム参加者が、「長期ビジョン・長期戦略の策定」に回答した

SB ESGシンポジウム online 次回は【番外総括編】。12月10日 16:30-18:00にオンラインで開催します。テーマは「気候変動・コロナ時代に2050年を見据えて4Xをどう実践するか ~ESGにかかわる『統合思考経営』の更なる加速~」。川村 雅彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員が「『4つのX』の総括~連続セミナーのまとめと実践事例~」、山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長/上席研究員が「大転換の年「2020」を乗り越えた先とは」と題した講演を行い、さらに田中 信康・サンメッセ総合研究所(Sinc)代表/SB国際会議 ESGプロデューサーを交えての三者討論を展開します。