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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

DXを実践し、ビジネスを変革するプロセスを読み解く――SB ESGシンポジウム online 第4回開催レポート

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「DXそれ自体は、サステナビリティを内包していない。その点を十分に留意しなければ、DXを進めることで新たな格差社会を形成してしまう」――。サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員の川村雅彦氏は冒頭でそう問題提起した。「統合思考経営」を実践する上で重要な「4つのX」のうち、DX(Digital Transformation)は単にデジタル技術を導入することではなく「デジタルの技術を用いてどう事業を変革するか」が鍵だ。DXの実践とともに、メガトレンドを背景にビジネス・モデル及びビジネス・ポートフォリオを転換し企業の事業構造を変革するPX(Business Portfolio Transformation)のプロセスの具体例とは。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

「SB ESGシンポジウム online」は、SBJ Labコラム『統合思考経営のWhy ,What & How』をベースに【統合思考伝道師】川村雅彦氏が「統合思考経営」を解説します。シンポジウム第4回目のテーマは「DXを中心にメガトレンドのインパクトと戦略的PX」。2人のゲスト講師、アスタミューゼ株式会社テクノロジーインテリジェンス部 部長の川口伸明氏と株式会社ブリヂストン グローバル経営戦略本部 サステナビリティ推進部 部長の稲継明宏氏が事例解説します。

SB ESGシンポジウム online 第1回セミナーレポートはこちら
SB ESGシンポジウム online 第2回セミナーレポートはこちら
SB ESGシンポジウム online 第3回セミナーレポートはこちら
SBJ Lab 連載中コラム『統合思考経営のWhy ,What & How』はこちら

「攻めのニューノーマル」で新しい価値体験を

アスタミューゼ株式会社テクノロジーインテリジェンス部 部長 川口伸明氏

アスタミュ―ゼ(東京・千代田)は知的情報のプラットフォーム構築、コンサルティング、人材・キャリア支援などを事業として展開している。川口氏は同社を「テクノロジードリブンの戦略コンサルティング会社」と説明する。特徴的なのは、各種のビッグデータを活用して未来予測やコンサルティングを行うことだ。

アスタミューゼが主に活用するデータは世界80カ国の新事業、新技術、新製品と投資に関する情報だ。特許、論文、グラント(公的研究費)の動き、クラウドファウンディングの動向、ベンチャービジネスの資金調達情報などの2億件を超えるデータベースを保有する。

同社はこれらのデータベースをもとに、176の「未来を創る有望成長領域」と105の「解決すべき社会課題」を同社は独自に定義しているという。社会課題の軸ではもちろんSDGsを基盤に置きながら独自の価値、特に事業家の視点でどういう未来をつくれるかという課題解決のプログラムを構成し、2050年、2060年といった未来の社会の状況を予測している。

最近の大きな課題と言えば新型コロナウイルスの感染拡大だ。withコロナの「ニューノーマル」という言葉も聞かれるようになったが、川口氏は「スタイリッシュなデザインのアクリル板がレストランで使用されるといった世界観が定着しつつある。これは『守りのニューノーマル』と言える」と話す。では『攻めのニューノーマル』とはどのようなものか。その基盤になるのがDXだ。

例えば、Rhizomatiks(東京・渋谷)が発表したMessaging Maskというデバイスがある。

このマスクを装着して小声で話すと、その音声が文字としてスクリーンに投影される。ライブ会場などで使用すれば、たくさんの観客が小声で話したことを客席後方のスクリーンに表示することで、ステージ上のアーティストと双方向のコミュニケーションが可能になる。「リアルイベントを取り戻す新しい技術、攻めのニューノーマルが始まっている」と川口氏は強調する。

「DXというとITの導入や効率化、無人化をイメージするが、そこはあくまでも端緒に過ぎない。DXの本来の目的は新しい体験価値の提供だ」

ヘルスケア分野では現在ウェアラブル機器に脚光が当たっているが、今後は非接触センサー、つまりカメラやスキャナ、レーダーを通してデータを読み取るデバイスが主流になる可能性が高いという。また生体情報センシングを都市のインフラに組み込むことも起こると予測される。当然、個人情報保護の観点は要となる。

DXを進めるときに重要視するべきもうひとつの着眼点は「社会課題解決のインパクトの大きさ」「技術の広がり(異分野展開)」だと川口氏は解説した。アスタミューゼでは「想定外の分野でいかに事業を展開するか」の研究を進めている。

例えば自動車のガスを除去するフィルターが、お茶など飲料の不純物を除去するフィルターに応用できるケースがあった。自動車部品の企業が、食品業界への転換することを可能にする技術を実は持っている。こういったケースは、特許審査請求後に「すでに酷似の技術がある」という拒絶理由通知が来ることによって発覚するという。

しかし先に特許を取った企業には通知はいかないので気づかないことが多い。アスタミューゼの場合は特許技術をマッピングし、このようなケースを発見する手法を用いている。

「自社が持つ技術の思わぬ分野での応用ができることでDX、PXが大きく前進する可能性があることを、ぜひ認識してほしい」(川口氏)

顧客価値と社会価値を両立する事業構造の再編プロセスとは

株式会社ブリヂストン グローバル経営戦略本部 サステナビリティ推進部 部長 稲継明宏氏

事業としてトランスフォーメーションを戦略的に行うプロセスを実践し、まさに事業構造の転換をしようとしているのがブリヂストンだ。同社が中長期事業戦略にサステナビリティをどう組み込み、何をしようとしているのかを、グローバル経営戦略本部 サステナビリティ推進部 部長の稲継明宏氏が講演した。

ブリヂストンの「使命」は創業者が50年以上前に設定した「最高の品質で社会に貢献」だ。現在に至るまでこの使命に基づいて事業を展開し「ミッションでもありパーパスでもある」と稲継氏は話す。さらに今年、新たにビジョンを策定した。

「2050年、サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値、顧客価値を持続的に提供している会社へ」

このビジョンを実現するためにサステナビリティを中核とした中長期事業戦略構想を練っている。「社会へのソリューション提供と、顧客へのソリューション提供を両立させることによって社会の持続可能性と会社の持続可能性を高め、競争優位につなげる」ことが肝だ。

具体的には、事業全体を大きく3つに捉え、ビジネスモデルを構築している。ブリヂストンのコア・基盤となるのはもちろん、タイヤ部門の事業だ。キャッシュを生み出す部門でもあり、ここで基礎競争力を上げていくことが課題の中心のひとつになる。例えばタイヤを軽量化し、燃費を向上、生産資源の節約といった顧客価値と社会価値を結び付けたソリューションはサステナビリティに直結する。

そして基盤部門の上に2段階の成長事業を設定する。ひとつは「価値創造」。タイヤの使用データを結び付けることによる付加価値の創造だ。

タイヤは適切な空気圧を管理しないと燃費が悪くなったり、車両の故障につながる。タイヤの状態をモニタリングしてその状態を適切に保てば、製品寿命まで良い状態で使い切るという効果が出てくる。ひとつの事例として、同社は欧州を中心に「mobox」というタイヤのサブスクリプションモデルを展開している。2018年から始め、契約は2万9000件に伸びているという。

「mobox」では、顧客がタイヤへの初期投資を抑えながら、安心して使い続け、交換もできるシステムを構築しており、月額で適切なメンテナンスを受けることができる。「顧客のニーズは『タイヤがほしい』ではなく『移動したい』だ。サブスクリプションのモデルは、安定した移動ニーズを支えることができる」と稲継氏は話す。

そして、成長事業のもうひとつが「モビリティソリューション」。データだけではなくモビリティのシステムを構築し、提供する部門だ。車両の運行データを入手しながらタイヤのデータと結び付けてソリューションを提供する準備を始めており、現在は欧州を中心に88万台以上の車両データが毎日、定時にリアルタイムで収集されている。

「これらを支えているのがDX。データを解析して価値が見えるようにしなければ、事業のマネタイズにつなげることはできない。それだけじゃなくて、そこで得られた知見データをエンジニアリングチェーンに戻すことによって商品そのものに還元する」(稲継氏)

また、中長期事業戦略構想の中で、環境やサステナビリティと事業が密接に関連するのがサーキュラーエコノミーの構築とCO2削減だと稲継氏は話す。製品のサイクルのさまざまな段階で循環型を形成するルートを作っていくことがポイントになるという。

「少ない資源でものをつくり、それをいかに事業にするのか。単に軽量化だけでなく、サブスクやサービス化を通じてアセットライトなビジネスモデルが資源生産性の向上につながるし、ビジネスの文脈にも直結する。資源生産性を高めることが重要だ」(稲継氏)

SB ESGシンポジウム online 第5回は11月12日 16:30-18:00にオンラインで開催します。テーマは「CX、PX実践のための取締役会の在り方」。法政大学人間環境学部兼大学院公共政策研究科 教授の長谷川直哉氏をゲスト講師に迎え、withコロナの状況における、企業のパーパス、長期ビジョン、マテリアリティについて取締役会でどのように協議しているのか、CX、PXを実現する上で、取締役会において意図していく必要がある事柄と、サステナビリティの専門性を持つ社外取締役の役割ともたらしている変化を解説します。進行は川村雅彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員が務めます。