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洋上風力2040年に最大45GW――官民協働で洋上風力を日本の再エネの切り札に

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コペンハーゲン沖の40MWの洋上風力ファーム。デンマークではすでに電力の5割以上を風力発電により発電する(写真:Lars Plougmann)

12月15日、政府と民間企業で構成する「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」で、2030年までに洋上風力発電を10GW(1000万kW)、40年までに 30~40GWに拡大する目標で合意した。2050年にカーボンニュートラルを目指すためには、四方を海に囲まれ大きなポテンシャルを持つ洋上風力発電を活用することが急務だからだ。「再エネ海域利用法」により海域の30年間の占用が認められ、東北、九州、千葉などでは開発計画が進んでいるが、国が意欲的なビジョンを示したことで事業が一気に本格化する機運がみえてきた。(環境ライター箕輪弥生)

コストも低下し、世界で急成長する洋上風力

日本国内の洋上風力の導入量は現在0.2GW程度で、ほとんどが国の実証実験によるものだ。2018年に制定された第5次エネルギー基本計画では、2030年までに洋上風力の導入量を0.82GWと想定している。その10倍を超える規模で合意した今回のビジョンはどれだけ野心的なものか想像できるだろう。

海上の豊かな風量を利用し、昼夜を問わず発電する洋上風力は、世界ではすでに主力電源のひとつとなり、ここ10年で10倍強(発電容量ベース)になるまでに急成長が続いている。中でも世界で中国に次いで洋上風力発電の設備容量の多い英国は10GWを発電し、2030年には40GWの導入を目指している。日本の2040年の目標は、これに並ぶものとなる。

この目標について自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長は「必要かつ重要な目標だが、実際に2050年カーボンニュートラルを実現するために充分な量かと問われると厳しいものがある」と評価する。

国内外で洋上風力発電が注目される背景には技術の進歩や大量導入などにより、発電コストが下がってきていることがある。イギリスやドイツの遠浅な海域では1kWhあたり約6円を切るところも出てきている。他の電源と比べても遜色がない。

国内では陸上風力発電が騒音問題や建設費を考えると建設場所に限りがあるのに対し、洋上風力は海に囲まれた日本にとって大きな可能性をもつ。自然エネルギー財団は日本近海に715GWの発電ポテンシャルがあると推計する。

図1 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)洋上風況マップ。北海道及び東北近海では、風速の大きな地域が分布している

送電網整備が最大の課題

図2 洋上風力発電のエリア別の導入イメージ(第1次「洋上風力産業ビジョン」より)

国は2019年4月、「再エネ海域利用法」を施行した。これにより洋上風力の導入を目的として一般海域を30年間占用することが可能になり、海運や漁業などと調整を行う仕組みなど導入に向けた基本的な整備をしてきた。

今回の協議会で決定した「洋上風力産業ビジョン」では、地域ごとの導入イメージも示された。それによると北海道が最も多く、続いて九州、東北で全体の8割を占める(図2参照)。

すでに秋田、青森、長崎、千葉県で洋上風力発電の計画が進んでおり、大手電力会社、商社、電機メーカー、建設会社、風力発電企業などが参入する。海外からもデンマークØrsted社やノルウェーEquinor社など、世界で洋上風力発電事業をけん引する事業者が日本市場に参入している。

風力発電事業は、港湾の整備から風車の設計、製造、メンテナンスまで関連する業種が多方面に及ぶ。風車の部品点数は1基当り1~2万点に及ぶと言われ、ほぼ自動車産業に匹敵する。しかし、国内で風車を作るメーカーは撤退しており、ある意味ゼロから産業を立ち上げることになる。国は導入目標値を高く掲げることで、洋上風力を国内外からの投資の呼び水にして、新しい産業をつくっていきたい意向だ。

しかし、課題もある。自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長は、「作った電力を消費地に送るための系統制約の克服が最も大きな課題」と指摘する。「北海道・東北地方や九州地方のポテンシャルを最大限に活かすため、海底直流送電線の敷設や地域間連系線の増強を行い、全国で洋上風力発電由来の電力を活用できる基盤を整えることが必要」であり、これは「他の自然エネルギーの拡大にもつながる」という。

洋上風力を地域活性化する新たな産業に

イギリスケント州沖での洋上風力ファームの建設現場(写真:Luc Van Braekel)

今回合意した「洋上風力産業ビジョン」の中で国は、部品製造や設置、維持・管理など一連の工程に占める国内調達比率を2040年までに60%とするとしているが、これにより洋上風力を誘致する地域の産業活性化や雇用創出への効果も期待される。

海外では、ドイツのブレ―マーハーフェン港や英国の港湾都市ハルとハンバー地域など、拠点港としての整備を契機に、大手風車メーカーの工場新設や関連するサプライチェーンが構築された地域再生例などがある。

国内でも北九州市のように地域に蓄積されている鉄鋼業や環境関連産業の技術などを活かして風力発電関連産業の拠点の形成を進めようとしている地域もある。

洋上風力が国内のエネルギーを脱炭素にシフトさせる切り札になるか、そして地域を再生する新たな産業となるか、さまざまな課題はあるものの「市場をつくる政策の役割は非常に大きく」(大林氏)、脱炭素に向けた新たな1歩を踏み出したことは間違いない。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/