
日本の電力需要は、データセンターとEVの拡大によって今後増加に転じる。これに対し、系統の増強など適切な政策転換がなければ、政府の掲げる温室効果ガス排出量の削減目標を達成することは困難である。アメリカの著名な調査機関BloombergNEFが9月に発表したリポート『長期エネルギー見通し(NEO)2026:日本』で厳しい現状が示された。
脱炭素に向けた日本政府の対応は明らかに不十分であり、まさに今、日本のエネルギー政策は岐路に立たされている。
電力需要はデータセンターとEVで増加へ
リポートによると、日本の将来のセクター別の電力需要の見通しは、追加的な政策変更を想定せず、技術の経済性に基づいてエネルギー転換が進むシナリオ(経済移行シナリオ:ETS)では、以下のグラフのようになる。

出典:BloombergNEF「長期エネルギー見通し(NEO)2026:日本」プレスリリース(2026年9月16日)
日本の電力需要は減少傾向にあって、1000TWh(=1兆kWh)を大きく割り込んでいるが、リポートによると、今後、上昇に転じるとされる。背景にあるのは、AIの普及や電化、デジタル化で、具体的には、データセンター(青)と電気自動車(青緑)によって2050年までにそれぞれ100TWh以上の使用電力の増加が見込まれている。
この他、ヒートポンプ(ピンク)も需要を下支えするが、産業や建物の多くでは、生産の縮小や人口減によって需要が減り、増加の一定割合を吸収する。この結果、需要増はかなり抑えられ、2050年では全体で正味95TWh程度の増加となっている。しかし、2050年時点での日本の電力需要は1000TWhに達せず、これは、これまでの日本の需要ピークとされる2010年度前後の1000TWh超より数%低い数字である。
脱炭素化の拡大によるエネルギー安全保障効果
下のグラフは、経済移行シナリオ(ETS)による日本のエネルギー関連の製品の貿易収支の予測を示している。2024年、日本は約1670億ドルのエネルギー・コモディティを輸入し、GDPのおよそ4%を占めていた。これは経済的なマイナスだけでなく、今回の中東危機を含めたエネルギー安全保障上、重要な喫緊の課題である。エネルギー転換による化石燃料の輸入減によって、経済移行シナリオ(ETS)での貿易収支(グラフ上の◇)は、2050年には輸入が1110億ドルまで縮小、2024年比で約33%減となっている。

出典:同上
リポートでは、もう一つのシナリオも使われている。ネットゼロ・シナリオ(NZS)である。これは2050年のネットゼロ達成に向け、「厳しいが達成可能な」シナリオとされる。このネットゼロ・シナリオになると、化石燃料の輸入は310億ドルまで大幅に縮小され、2024年比で約82%減となる。エネルギー安全保障の確立と貿易収支の改善がともにかなり実現している。
もう一つ、グラフを見てみよう。
こちらもメインは、経済移行シナリオ(ETS:黒折れ線)による予測で、電化(青)、エネルギー効率(赤)、クリーン電力(水色)を主として、一定割合のCO2削減は見られるが、2050年でせいぜい33%減でしかない。これには、石炭が再エネや蓄電池に置き換わり、さらに天然ガスへの燃料転換や原発再稼働が進むことまで含まれている。

出典:同上
ところが、ネットゼロ・シナリオ(NZS:白の点線)では、CO2の排出量は大きく減って2050年にはゼロに近づいている。
つまり、リポートが示しているのは、これまでの延長線である天然ガスへの移行や原発の回帰では効果が薄く、政府の目標(NDC:2040年に2013年比マイナス73%)の達成にはほど遠いということである。
びほう策ではなく、再エネの徹底的な導入を
BloombergNEFのリポートを読んだ上で現状の政府の脱炭素化施策を振り返ると、日本が進めているのは経済移行シナリオ(ETS)が示す水準にすら届かず、後退さえ感じさせる。
リポートで特に具体的に数字を上げて強調しているのが、系統の強化である。電力網の投資として、2026〜2050年で3890億ドルが必要とされる。実におよそ60兆円である。送電網と配電網とがほぼ同額で、内訳は既存設備の更新が5割強、系統の増強が全体の3分の1などとなっている。実際には、政府は系統増強について委員会などで長期間検討をしてきたが、必要な額を6〜7兆円とはじいたものの、財源については具体的に示せていない。リポートの末尾に著者が「2050年にかけて電力網への投資を加速する必要がある」と書くように、このままでは実現はかなり心もとない。
このところ政府が強調して繰り返すのが、データセンターの急拡大で電力需要が急増するため、原発を最大限利用するというものである。BloombergNEFのリポートでも電力需要が増えることは示されているが、前述のように人口減による減少分で一定吸収できるほどの数字である。一方で、原発のリプレースは2050年までにはほぼ間に合わないと思われ、また電力コストはどの電源より高いものとなるのは確実である。
さらに、アンモニア混焼で石炭火力を生き延びさせようとすることは、リポートより排出量を悪化させるものにほかならない。

出典:Climate Integrate「日本の気候・エネルギー予算2026:政府予算とGX投資の分析」
今後、石炭火力の延命、原発リプレースには膨大な補助金などの投入が想定される。上のグラフのように、日本の予算は再エネに冷たく、あまりにも少ない。Climate Integrateの分析によると、2026年度の気候・エネルギー予算のうち、化石燃料関連が21%、原発・核融合が10%に対し、再エネ関連はわずか3%で前年度より減っている。
本当に投じるべき資金は、系統補強や最も重要と考えられる再エネへの支援であろう。それこそが、BloombergNEFが提唱する『ネットゼロ・シナリオ(NZS)』に近づけることのできる唯一の道である。考えてみれば、このリポートはまだ道が残されていることを示す貴重な“光”なのである。無駄な補助は、その妨げとなり、結果として、脱炭素を逆行させることになりかねない。
BloombergNEFのリポートは、客観的かつ冷静に日本のエネルギー政策への提言を行っている。その決断が下されるべきは今であり、私たちはまさに脱炭素、地球温暖化防止の岐路に立っているのである。
| <参照資料> BloombergNEF『New Energy Outlook 2026 : Japan』 |
北村 和也(きたむら・かずや)
日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。










