• 公開日:2026.06.18
TNFDがCFO向け指針公表 自然リスクを防ぐ「社内に問うべき11の質問」とは
  • 横田 伸治
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自然資本への依存や影響がもたらすリスクと機会を、企業はどのように事業戦略や財務計画に組み込むべきか。

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2026年6月、英国のサステナビリティ推進組織A4S(Accounting for Sustainability)との連携により、企業の最高財務責任者(CFO)と財務チームを対象とした新たなガイドライン「Asking Better Questions on Nature For Chief Financial Officers」を公開した。

ガイドラインは、資産オーナー向けの第1弾、取締役会向けの第2弾に続く第3弾。自然関連リスクを財務の盲点にせず、レジリエンスを高めるためにCFOが組織内に発するべき「11の重要な質問」を提示している。急速に変化する国際情勢を踏まえ、CFOに求められる新たな役割とは何か。

自然資本開示の国際的要請が高まる

近年、気候変動リスクへの対応が進む一方で、自然や生物多様性の喪失が経済や金融の安定に対する重大なリスクであるという認識が世界的に広がっている。全てのビジネスモデルは、健全な土壌、水資源、気候の調整といった自然のエコシステムにある程度依存しており、その劣化は企業の財務に直接的な打撃を与える。

こうした状況下で、TNFDは企業が自然関連リスクや機会を評価し、開示するためのフレームワークを提供してきた。そして現在、ESG投資家や各国の規制当局から、自然関連情報の開示を求める声はこれまでにないほど高まっている。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のIFRSサステナビリティ開示基準や、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)など、グローバルな規制においても自然資本に関するデータ要件の厳格化が進んでいる。

さらに、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」の目標達成に向け、企業にはより具体的な「ネイチャー・トランジション・プラン(自然移行計画)」の策定が求められつつある。

ノルウェー中央銀行投資管理部門(NBIM)が2025年に投資先企業を対象に実施した調査によれば、回答企業の44%が自然関連の物理的リスクによる財務的影響を「すでに受けている」とし、28%が移行リスクについても同様の回答をしている。自然関連リスクはもはや遠い未来の懸念ではなく、今日の企業価値を左右する現実の問題となっているのだ。

コンプライアンスから「価値の源泉」へ

このような国際情勢の中、TNFDが今回CFO向けに特化したガイドラインを発表した背景には、自然関連リスクに対する企業内の認識ギャップに対する強い危機感がある。多くの企業において、自然や生物多様性の問題は依然として「CSR(企業の社会的責任)」あるいは「コンプライアンス」の枠組みで語られることが多い。その結果、リスク管理、資本配分、企業価値評価、業績管理といった中核的な財務プロセスに自然関連要素が統合されず、重大な「盲点」が生じている。

本ガイドラインは、CFOが自然を単なる法令順守事項としてではなく、ビジネスのレジリエンスと持続的な成長を支える「価値の源泉」として位置付け直すことを促している。気候変動と自然の喪失は密接に絡み合っており、自然の喪失は気候リスクを増幅させる。そして、水不足による操業停止、森林破壊関連規制によるコンプライアンスコストの増大、サプライチェーンの寸断による物流コストの上昇など、物理的・移行リスクは確実に財務諸表に影を落とす。

だからこそ、企業の資産と戦略を統括するCFOがリーダーシップを発揮し、短期的な利益追求と長期的な戦略目標のバランスを取ることが急務となっている。CFOが自ら経営陣や各部門に対して的確な問いを投げかけることで、組織全体の「ネイチャー・インテリジェンス(自然に関する知見)」を高めることがガイドラインの最大の狙いだという。

CFOが社内に問うべき「11の質問」

ガイドラインでは、CFOが財務プロセスと自然関連情報を結び付けるための実践的なアプローチとして、5つのテーマに分けた「11の重要な質問」を提示している。

1. 自然の理解

質問1:自社のビジネスは自然のどこに、どのように依存し、影響を与えているか?また、それは時間の経過とともにどう変化するか?

質問2:自然関連課題は、すでにどのような財務的影響を及ぼしているか?将来的にどうなり得るか?

事業が依存するエコシステムサービスを特定し、収益や支出、資産・負債への直接的・間接的な影響を把握することが出発点となる。

2. リスクと機会の評価および優先順位付け

質問3:自然関連リスクおよびそれに伴う財務的影響を、どのように特定し、優先順位をつけているか?

質問4:自然関連の機会およびそれに伴う財務的影響を、どのように特定し、優先順位をつけているか?

既存の全社的リスク管理に自然の視点を組み込み、コスト削減や新市場へのアクセスといった機会も同時に評価するよう求めている。

3. 意思決定と財務計画への統合

質問5:自然に関する考慮事項を、ガバナンスと意思決定プロセスにどう統合するか?

質問6:事業戦略と財務計画(資本的支出や予算編成など)にどう組み込むか?

質問7:科学的根拠に基づいた自然関連目標をどのように設定するか?

質問8:自然関連課題に対応するため、バリューチェーンを含めてどのようなインセンティブ(業績連動報酬や調達条件など)を設けるか?

自然を組み込んだ資本配分や、GBFに沿った移行計画の策定など、具体的なリソース投下と説明責任を求めている。

4. 市場の期待への対応(IR・開示)

質問9:投資家、規制当局、幅広いステークホルダーは自然に関してどのような情報を期待しており、自社はどう対応しているか?

質問10:既存のデータおよび情報管理システムは、社内外の期待を満たしているか?

自然資本会計などの手法を検討し、財務データと同等の監査可能性を持ったデータ管理体制の構築を促している。

5. 組織全体のコラボレーションと能力構築

質問11:財務チームは必要なスキルを備えているか?また、組織全体の自然への取り組みにどう貢献できるか?

財務部門がデータ分析や財務計画の専門知識を生かし、他部門との協働を主導していくことを求めている。

財務部門が主導するネイチャー・ポジティブへの道

これまで、自然や生物多様性の課題はサステナビリティ担当部門に一任されがちであった。しかし、投資家や市場の要請が高度化する中、そうした体制では対応しきれない状況が訪れている。今後は、財務部門がデータの品質を担保する役割を担い、自然関連リスクの定量化や資本配分への反映を主導することが不可欠だ。

CFOが「11の質問」を社内に投げかけることは、単なる現状把握にとどまらず、組織全体の行動変容を促す強力なメッセージとなる。自然関連リスクが顕在化し、致命的なダメージを被る前に、財務のトップが「自然はビジネスの基盤である」という共通認識を社内に根付かせることができるか。これからの企業価値は、CFOのネイチャー・インテリジェンスとリーダーシップに懸かっていると言っても過言ではないだろう。

【参照サイト】

TNFD「Asking Better Questions on Nature For Chief Financial Officers」 https://tnfd.global/publication/asking-better-questions-for-chief-financial-officers/

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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