
現在、世界で生産されている食品の約3分の1にあたる年間約13億トンが廃棄されているといい、経済損失は推定9400億米ドルに上る。業界で協調した取り組みが求められる中、国際的な消費財業界団体であるザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)がこのほど、食品ロス問題への取り組み指針を発表した。同指針は、仏コンサルティング会社キャップジェミニと共同で作成されたもの。食品ロスが発生しやすい4つの「ホットスポット」を分析した上で、企業が取り組む際の3つのステップを解説している。
CGFは、70カ国以上から約400の消費財メーカーや小売企業が加盟する国際的な業界団体。日本からも約60の企業・団体が加盟しており、味の素とキリンホールディングスが理事企業を務めている。今回発表された指針は、CGF内の「Food Waste Coalition(食品廃棄連合)」というワーキンググループによるもの。タイトルは「Turning waste into value(廃棄物を価値に変える)」だ。
食品ロス、4つのホットスポット
指針はまず、食品ロスの主な要因をバリューチェーンの4段階に分けて指摘し、それぞれに解決のヒントを提示している。
①製造・加工・包装
業界全体の要因として、食品製造・加工の段階で発生する副産物を再利用するよりも、廃棄するほうがコストを抑えられるという現状がある。また、市場全体として需要と供給の変動が大きいことから、企業は余分に製造してバッファーを持たせることを余儀なくされている。さらに、厳しい外観基準といった業界の慣行によっても、不良品の割合が高くなり、廃棄が多くなっている。個々の企業においては、歩留まりの悪さや品質管理の問題が廃棄につながっている。対策として、品質管理の強化、AIなどを活用した需要予測、副産物から新たな価値を生み出す取り組みなどが有効だ。
②流通・貯蔵
企業間で基準が統一されていないことや、在庫が可視化されていないこと、在庫補充が柔軟でないことなどにより、不必要な廃棄や期限切れが引き起こされている。さらに、設備の老朽化といったインフラの課題によっても食品ロスが増える。対策として、リアルタイムのモニタリング技術、柔軟な物流システム、温度管理の徹底などが有効。組織として廃棄量削減の指標を重視することも必要だ。
③卸売り・小売り
在庫過剰につながる販促や、欠品を許容しない風潮、厳格な外観基準といった業界慣行と、需要予測の不正確さやデータ不足といった企業要因が重なって食品ロスが起こっている。さらに、寄付や再利用のコストや物流面での制約も、廃棄削減を妨げている。対策として、在庫・鮮度管理のデジタル化や値引きの自動化、サプライチェーン内の連携強化による再分配、従業員教育などが有効だ。
④家庭消費
計画や調理スキルの不足、食材を使い切るための時間やアイデアの不足、買いすぎや期限表示に対する誤解などが主な原因。健康志向などにより、珍しい食材を買っても使い切れずに廃棄してしまうという問題もある。対策として、パッケージを通じた情報提供や、AIを活用したサポートなどで行動変容を促すことが有効だ。
廃棄削減のための3つのステップと取り組み事例
CGF食品廃棄連合のメンバー企業は、すでに食品ロス削減に取り組んでおり、成果が見られているという。廃棄量が2桁削減された例もあり、メンバー企業における食品取扱量1トンあたりの食品ロスは平均6.9kgに抑えられている。
指針には、企業が食品ロス削減に取り組むための3つのステップが、メンバー企業の実際の取り組み事例とともに掲載された。
①基盤を作る
- 廃棄削減目標だけでなくビジネス面での意義を伝えることで、経営層の支持を取り付け、組織全体を連携させる。
- 米国の食品メーカー、クラフト・ハインツは、各工場における優れた取り組みを発表し、新たなプロジェクトを提案する「チャンピオンズ・ウィーク」というイベントを毎年開催している。
- 再利用やアップサイクルなど、サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れることで、廃棄を削減するとともに、新たな価値を生み出す。
- 英国のスーパーマーケットチェーン、テスコは、売れ残った食品をペットフードや家畜用飼料に転用している。
- データを戦略的に活用できる基盤を構築する。
- ネスレは、工場への輸送中や品質不良による牛乳の廃棄を、食品ロスを測定・報告・管理するための国際基準であるFLW基準に沿って30カ国でモニタリングした。その結果、2017年から2018年には牛乳の廃棄を3分の1以上削減し、2万7000トンのCO2排出を防ぐことができたという。
②廃棄を価値に変える
- 従来は廃棄されていたものの活用方法を検討し、新たな収益源と見なす。
- 米国の食品メーカー、ケラノバは、少し焦げてしまったスナックを「エクストラクリスピー」として販売している。これにより、欠陥品が、付加価値の付いた商品になった。
- 予測モデルやAIツールといったテクノロジーを活用し、イノベーションを起こす。
- ネスレは、余ってしまう原材料や製品についてリアルタイムにモニタリング・分析するAIツールの実証実験を実施。英国のある工場では、まだ食べられる食品の廃棄を87%削減したという。
- 廃棄削減の取り組みを発信し、ブランドイメージ向上につなげる。
- カナダのスーパーマーケットチェーン、ロブロウは、サイズが小さかったり形がふぞろいだったりする農産物を「no name Naturally Imperfect」シリーズとして割安な価格で販売している。
③取り組みが進みにくい領域も対策する
- 社外と連携する。
- フランスの乳製品メーカー、ベルは、物流業者、工場、小売業者、フードバンクなどと連携し、売れ残ってしまった商品を再分配している。
- 取り組みの規模を拡大することで、時間やコストの無駄をなくす。
- CGF食品廃棄連合のメンバー企業は、共同で食品ロス削減の啓発キャンペーンを実施している。
- 家庭での食品廃棄削減を支援する。
- 米国のスーパーマーケットチェーン、クローガーは、SNS上で「シェフボット(Chefbot)」というAIツールを提供している。ユーザーが自宅にある食材の写真を投稿すると、それを基にレシピを提案し、食材の使い切りに役立つ。
同指針の発表に際し、テスコの最高コミュニケーション・サステナビリティ責任者であるクリスティン・ヘファナン氏は次のようにコメントしている。
「企業は、食品廃棄問題を単なる負担ではなく、企業主導のイノベーションを促進する原動力と捉え直すべきです。CGF食品廃棄連合の活動を通じて、加盟各社の行動を促し、業界全体にわたる大規模な変革を起こす基盤を築いていきたいと考えています」
茂木 澄花 (もぎ・すみか)
フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。














