• 公開日:2021.08.30
多摩美大、企業と連携し「すてる」を考えるデザインで循環型経済の構築目指す 
  • 廣末 智子

“つくる”ことで産業を支えてきた従来型デザインではなく、“すてる”ことを考え社会や産業を支えていくデザインで、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の構築に貢献しようと、多摩美術大学の学生たちが、廃棄物の再利用を進めるモノファクトリー(東京・品川)など5社と連携する共創プロジェクト「すてるデザイン」が進行中だ。産業廃棄物を全く別の製品に生まれ変わらせたり、設計段階からリサイクルしやすい製品を生み出したり。美大生ならではのデザイン力で、市場に流通するモノやアイテムを繰り返し使うだけでなく、多機能化させることでこれ以上量を増やさないよう工夫するとともに、その回収の仕組みなど目に見えない部分についても考案するなど、“すてるデザイン”を巡るあらゆるアプローチを各企業とともに具体化していく。(廣末智子)

オープンイノベーションの場「TUB」拠点にモノファクトリーなど5社と連携

プロジェクトは同大が今年4月、東京ミッドタウン内にさまざまなステークホルダーや企業、社会人と協働して新しい価値を創出するオープンイノベーションの場として開所したTama Art University Bureau(TUB)を拠点とする、企業との連携の第一弾としてスタート。2021年度はプロダクトデザインを専攻する学生の授業のプログラムを中心に、情報デザイン、統合デザインなどの学科を横断した取り組みとして、60人以上の学生が何らかの製品やシステムなどのデザインに関わっている。

参加企業は総合リサイクル業のナカダイと、そのコンサルティング部門であるモノファクトリー、伊藤忠リーテイルリンク(東京・中央)、ブックオフコーポレーション、プラス(東京・港)の5社。企業にとって地球環境の持続可能性への取り組みがより重要となる中、これまで世界の産業廃棄物の大半を引き取っていた中国をはじめアジア諸国が廃棄物輸入を全面禁止にするなど、廃棄する場所が限界に迫っている。こうした日本の現状も背景にあり、デザインの力を通じて廃棄物の発生抑制や捨て方自体を根本から変えることを目指す。

3つの段階に分けデザイン

プロジェクトは、対企業を意識した「すてたモノをデザインする(リサイクル&リユースされたマテリアルによるデザイン)」と、対産業を意識した「すてる前提をデザインする(リサイクルすることを前提とした製品&サービスのデザイン)」、さらに対社会を意識した「すてるエコシステムをデザインする(回収する仕組みや循環トータルのデザイン)」の3つのフェーズで構成。

対企業のフェーズでは、各社から提供を受けた廃棄資材や中古資材を用い、それらがバージン素材でつくられた既存のモノ・アイテムよりも「何らかの魅力を備えたアイテム」として、または廃棄資材や中古資材を用いてつくったことが「なんら問題にされない新しいアイテム」として生まれ変わらせるよう、さまざまなアイデアによるプロダクトを考案し、TUBを起点に次々と形にしている。

このフェーズにおける企業側の希望としては、例えばブックオフのように「CDやDVDなどがプラスチックとしての資源価値は高いにもかかわらず、さまざまな事情からリサイクルとしての経済合理性を見出すことが難しくなっている」ことから、美大生の発想により、「売れ残ったCDやDVDを全く異なる価値に創り変えることで、モノの寿命を延ばすことにチャレンジしたい」という思いがある。

ナカダイの中台澄之社長によると、こうした各社の意図を組みながら、個々の学生がそれぞれの感性をデザインに落とし込み、それを各社の技術力で製品化していくことで、全体のプロジェクトを「業界を超えた知見の共有」の土台となるプラットフォームにしていく考えだ。

同大によると、プロジェクトは社会実装を目的としているため、長期スパンで取り組む考えで、特に期間などは設けていない。

音を奏でてきたCDを「時を刻むCD」に

同大ではプロジェクトの活動や成果を社会に広げ、さらに多くの参加企業を募っていくためのイベントの開催なども随時行っている。このほどオンラインで開かれた「すてるデザイン勉強会vol.2」では、統合デザイン学科の小林優季さんが廃棄されたCDの盤面を加工し、時計の機能を持つプロダクトに生まれ変わらせた“時を刻むCDたち”と題した作品や、プロダクトデザイン専攻の三瀬みゆきさんが、本来は捨てられるはずだったスツールパイプに3Dプリンターで作成したパーツを組み合わせて作成した“ルネサンスリコーダー”というオリジナルの楽器などが紹介された。

三瀬さんは、このパイプのように、「長さを調節するための穴が連続して空いている家具は世の中にたくさんある」ところに着目。連続して穴が空いているという点にリコーダーとの共通点を見出し、「きれいな音階ではないが、使う素材によって音が変わる、自分だけのリコーダーを手にすることができると思い付いた」と説明した。この作品の意義は、「本来はごみになるモノを、特別な楽器に生まれ変わらせることで、人生がより豊かになるのではないかという提案」だという。オンライン勉強会に登場した学生らは一様に、プロジェクトを通じて「モノの終わりを長くとらえるようになった」「これからのデザイナーはモノを作るだけでなく、もっと広い視点でコトを設計しなければならない。その責任感が強くなった」などと話しているのが印象的だった。

循環型社会の構築は楽しく、かっこいいと思ってもらえるように

ナカダイと多摩美との関わりは長く、10年ほど前からデザインやクリエイティブの領域で様々な取り組みを行ってきた経緯があり、今回のプロジェクトにつながったという。プロジェクトのコアメンバーでTUBディレクターを務める統合デザイン学科の永井一史教授は、「すてるデザインに注目し、生産と消費の在り方を変革することで大きく社会が変わる可能性を感じている。社会人のネットワークとも連携し、企業の課題、もしくは環境の問題と向き合うことで学生を育て、同じ課題意識を持った方々と研究結果を共有し、参画企業を増やして大きな枠組みにしていきたい」と話す。

プロジェクトリーダーの生産デザイン学科、濱田芳治教授は、「美術大学と取り組むからこそのクリエイティブなアプローチにトライしていきたい。循環型社会に取り組むことは楽しく、そうすることが『かっこいい』『面白そう』と人々に思ってもらえるような解決例を分かりやすく示し、学生と参画企業とが一緒に、未来に見てみたいものをつくっていきたい」と抱負を話す。

参画企業を代表して、ナカダイの中台社長は「これからは、売ったモノをしっかり回収し、循環するスキームを持っていることが企業の価値を決め、そうした企業の商品が消費者に選ばれる時代が確実にくる。このプロジェクトを通じて、美大生の持つデザインの切り口と、われわれリサイクラーの技術をしっかりと組み合わせ、モノを“捨てる”情報と“次に生かす”ための情報を共有し、日本の再生技術とネットワークを構築していくためのキックオフにつなげたい」と話している。

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年から2025年までサステナブル・ブランド ジャパン編集局でデスク兼記者を務めた。

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