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持続可能な物流を実現するために――「2024年問題」に直面した各社の挑戦と、これからの課題とは?

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Image credit: Shutterstock Generate

コロナ禍を経て、日々の生活におけるECサイトの利用が定着し、物流サービスを利用する機会が増えている。今や「物流」は、なくてはならない社会インフラのひとつだ。そんな物流業界が2024年は大きく揺れた。労働基準法の改正によって生じたドライバー不足などの「物流2024年問題」に直面したばかりか、CO2削減など多くの課題への対応を余儀なくされたのだ。2024年は、物流各社がそれらの解決に大きく踏み出した1年だったと言える。ここではそんな各社の2024年問題への対応を振り返りつつ、「持続可能な物流」を実現するための課題を展望したい。(笠井美春)

物流業界の現状と課題。「物流2024年問題」とは

民間の調査会社の調べによると、コロナ禍におけるEC市場の拡大を受けて成長した物流市場は、2022年度には24兆円を突破。2025年には24兆8000億円規模になることが予想されている。国内の貨物総輸送量全体を見ると、近年は少子高齢化などを背景に緩やかな減少も見られるが、ECサービスが人々の暮らしに定着したことで個人需要は高く、ラストワンマイル配送(物流の最終区間から一般消費者にモノを届ける配送サービス)は活況を呈している。

そんな物流業界が直面した「物流2024年問題」とは何か。まずはそこから、業界全体が抱える課題を挙げてみたい。

【物流2024年問題】

労働基準法の改正によって変わったトラックドライバーの残業時間と休息時間(物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドラインなどを参考に編集局が作成

事の発端は働き方改革の一環として労働基準法が改正され、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働における上限が年間960時間となったことだ。これによりドライバーの長時間労働は改善される見込みだが、一方で、深刻なドライバー不足が浮き彫りになった。政府公表の試算によると、2024年度には輸送能力が約14%不足し、対策を講じなければ2030年度には約34%不足するという。これがいわゆる「物流の2024年問題」だ。

道路貨物運送業の運転従事者数の推移(NX総合研究所「物流の2024年問題」の影響についてより)

そもそもトラックドライバーの年齢構成は、中年層(40~55歳)の割合が全体の45%を占める。職種柄、トラックドライバーは65歳以上の担い手が少なく、数年後には現在のボリューム層が引退し始めると考えると、今後はさらに担い手不足が進行すると予想されている。

この対策として物流企業に求められているのが「デジタル化などを含む、物流業務の効率化、適正化」だ。これに加えて社会課題として「カーボンニュートラルの実現」にも対応していかなくてはならず、2024年は、物流各社がそれぞれの対策案を打ち出し、実行に踏み出した年になった。

2024年問題に果敢に挑戦――業界の動きを振り返る

■NIPPON EXPRESSホールディングス(日本通運)

NIPPON EXPRESSホールディングスは2020年から、荷受け先である日清食品とアサヒ飲料と連携し、パレットサイズの異なる両社の製品を日本通運のトラックに混載するスキームを確立。関東から九州間での共同輸送を実現することで、トラックの使用台数を従来から20%削減してきた。これに加えて2024年4月からは同じ物流側のキリングループロジスティクス、日本貨物鉄道と連携し、トラック中心の輸送体系から、鉄道や内航海上輸送へのモーダルシフトを推進。これにより「年間約3130トンのCO2排出量削減と物流全体の効率化を目指す」とした。
※トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること
それ以降もコクヨロジテムなど多くの企業と連携して、トラック輸送から海上輸送、鉄道輸送へのモーダルシフトを拡充。さらに12月にはジェイアール東日本物流と連携し、新幹線荷物輸送サービスを利用した新たな輸送サービスの構築に向けてトライアル輸送を実施するなど、果敢な挑戦を続けている。

■ヤマトホールディングス(ヤマト運輸)

SST のHPより

ヤマトホールディングスは2024年2月からヤマト運輸と日本郵便の連携による「クロネコゆうメール」の取り扱いを開始し、相互のネットワークやリソースを共同で活用することでドライバー不足やCO2削減に貢献しようとしてきた。4月にはJALグループと連携し、トラックに替わる新たな輸送手段として貨物専用航航空機(フレイター)の運航をスタート。5月には持続可能なサプライチェーンの構築に向けて新会社(Sustainable Shared Transport、以下SST)を設立し、物流業界の直面する課題に、企業間の垣根を超えたパートナーシップで取り組もうと動き出した。

SSTが目指すのは、「共同輸配送」による物流効率化。荷主企業や物流事業者など多様なステークホルダーが参画できる共同輸配送のオープンプラットフォームを提供し、安定した輸送力を確保したうえで、環境に配慮した持続可能なサプライチェーンを構築しようとしている。

■SGホールディングス(佐川急便)

SGホールディングスは2023年末、荷役作業の省人化を目指して、住友商事と米国のユニコーン企業と共に、業界初となる「AI搭載の荷積みロボット」の実証実験プロジェクトを開始。デジタルの力を生かした業務効率化に積極的だ。

例えば、手書き伝票のフルデジタル化を実施し、データを入力するとエリア内での集配ルートが自動的に作成される「スマート集配アプリ」の提供を通じてラストワンマイルを担当するドライバーの負担を軽減。さらに2024年10月にはグーグル・クラウド・ジャパン合同会社と、DXを活用した総合物流機能の強化に向けた戦略的パートナーシップ協定を締結し、AIによる集配エリアの最適化や過去のデータに基づく将来の集配予測、必要な人員リソースの適正化の検討をしていくと発表した。そのほかにも、自動運転トラックによる幹線輸送の可能性と実用性の検証を実施するなど、テクノロジーとDXによって問題に立ち向かっている。

「冷蔵冷凍庫業界の2030年問題」。脱フロン化を見据えた次世代型物流施設とは

一方で物流業界にはもう一つ、差し迫った問題がある。環境条約「モントリオール議定書」により、オゾン層保護のために特定フロンを抑制する動きが広がり、日本でも2013年6月にフロン排出抑制法が改正された。これにより現在、冷凍冷蔵倉庫で広く採用されているHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)の生産が、2020年時点で補充用を除いて全廃、2030年には完全に生産停止となると決定した。このため、実は、多くの倉庫で設備の更新や建て替えなどによる脱フロン化が必要となっているのだ。
※冷暖房装置の創生期から使用されてきたクロロフルオロカーボン(CFC)が、オゾン層保護のため廃止になり、その代替として登場した当時の代替フロン
この問題は、「物流の2024年問題」になぞらえ、「冷凍冷蔵業界の2030年問題」と言われるが、対策は思うようには進んでいない。そうした中、全国で環境配慮型の次世代型物流施設を展開し、新たな物流ネットワークの構築を目指すのが、不動産コンサルティングなどを手掛けるディベロッパーの霞ヶ関キャピタルだ。

2024年9月に完成した埼玉県所沢市のオートメーション型倉庫「LOGI FLAG 所沢I」のイメージ図(霞ヶ関キャピタルのHPより)

「LOGI FLAG(ロジフラッグ)」と呼ばれる施設の特徴は、冷凍・冷蔵・常温の各種温度帯に対応したマルチテナント型物流施設であること。また倉庫で使用する冷媒を自然冷媒にこだわるなど、脱フロン・低炭素化・脱炭素化への対応を実現していることだ。これによりテナント企業が利用したい分だけスペースを借りられることを含め、C02排出量削減、サステナブルな物流運営に貢献している。
※賃貸型の物流倉庫であり、一棟の倉庫を複数のテナントで共有するシステムのこと
同社は今後、こうしたオートメーション型の冷蔵冷凍庫を全国に展開することでパートナー企業とのネットワークを構築し、フードロス対策や、ライフスタイルの変化による冷凍食品需要の増加に伴う冷凍冷蔵物流ニーズの拡大にも応えていく計画だ。

持続可能な物流サービスを実現するために、私たちにできること

ここまで「物流2024年問題」をはじめとする業界の課題に立ち向かう企業の取り組みを紹介した。2024年の各社の活発な動きを見ていると、企業がこの対策に非常に多くの力を注いでいることが分かる。2025年以降、これらがどう進行していくかに物流サービスの未来はかかっていると言えるだろう。

しかしながら一方で、この問題への対応を企業だけに任せておくのはいかがなものか。人々の暮らしを豊かにしてくれる物流サービスがこれからも続いていくために、私たち個人にもできることはあるはずだ。

例えば利便性を追求しすぎることは、持続可能な物流サービスの構築の妨げになるだろう。そうした考えを一人ひとりが持ち、企業とともに未来の物流サービスの形を作っていく必要があるのではないか。つまり「物流2024年問題」は、企業と消費者がともに立ち向かうべき課題だったのであり、引き続き、それぞれが力を注いでいかなくてはならない、物流の未来を見据えた大きな課題なのではないだろうか。

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笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。大学にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。