サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

AIはプラントベースフード産業を復活させられるか

  • Twitter
  • Facebook
Roberto Guerra
Image credit : Climax Foods

コロナ禍に入る数年前まで、プラントベースフード(植物由来食品)産業は成長し続けるかのように見えた。2019年7月、業界をけん引する代替肉のビヨンド・ミートの終値は史上最高値の234.90ドル(約3万7000円)に到達した。一方、主な競合相手のインポッシブル・フーズは市場をかき回し、消費者の「肉」に対する見方を大きく変えた。(翻訳・編集=小松はるか)

多くの人が、代替タンパク質市場が従来の動物性食肉市場に肩を並べるまでに、さほど時間はかからないだろうと確信していた。動物福祉は言うまでもないが、今後の地球環境への懸念が背景にあった。

しかし、好景気だったプラントベースフード産業はほどなく過密状態になり、さまざまな理由で輝きを失っている。

植物由来の食品や発酵食品、培養食品の世界的インキュベーターであるProVeg Incubatorのインターナショナル・ディレクターであるアルブレヒト・ウルフマイヤー氏は、「目覚ましい成長と楽観主義の時期を経て、近年は市場の統合・是正の段階にあります」と米サステナブル・ブランドに話した。

「これには産業の内外の要因が関わっています。多くの企業が現在、資金調達や事業拡大、商業化に苦戦するなか、同産業の発展に取り組むことは困難でもやりがいのあることです。それは産業をより強く、レジリエントな(回復力のある)ものにするでしょう」(ウルフマイヤー氏)

こうしたなか、ほぼ全ての産業、そして実際に私たちの生活のあらゆる側面に大きな変化をもたらしている別の進歩、人工知能(AI)がプラントベースフード製造業者の救いになるかもしれない。

アニマルフリー食品の過剰供給

プラントベースフード企業は、AIが高性能になるなか、常に競争が激しい代替タンパク質市場にイノベーションを起こし、成長させるためにAIを活用する方法を研究している。

チリ・サンティアゴに本拠を置き、動物性の肉や乳製品の代替食品を提供するフードテックスタートアップNotCoは2022年、AIプラットフォーム「Giuseppe」の開発のために7000万ドル(約110億円)を調達した。Giuseppeは、分子レベルで動物性食品を分析し、それを植物由来の原料だけで再現する方法を示してくれ、プランベースフード産業の成長を加速させるAIプログラムだ。

NotCoは、キャベツやパイナップルなどを原料として使い、従来の乳製品の味を再現した代替牛乳「NotMilk」などの製品で知名度を上げた。同社は食品大手クラフト・ハインツと提携し、NotMayoNotChickenなどの新商品を展開し続け、これらの商品は北米・南米のスーパーマーケットの棚に並べられている。

AIを事業の成長のために活用しようとするプラントベースフード企業の一社、米コロラド州ボルダーに拠点を置くMeatiは菌糸体由来の代替肉を製造しており、AIのリーダー企業PIPAと最近提携した。

キープレイヤーになる準備ができている企業は他にもある。カリフォルニア州バークレーのClimax Foodsは、データサイエンスと機械学習を組み合わせて植物由来の代替食品をつくるバイオテック企業。同社がまず着手したのがチーズ製品だ。同社のブルーチーズは、ドミニク・クレン氏などミシュランの星付きシェフらのレストランのメニューにも使われ、ロサンゼルスやサンフランシスコ・ベイエリアの食品配達サービスGood Eggsでも購入できる。

未来に通用する食料システムを考える

ウルフマイヤー氏は、AIがもたらす利点は、新たなプラントベースフードの開発にとどまることはなく、さらに多いと予想する。

「AIは、一次産業に始まり、食料システムのバリューチェーン全体に変化をもたらすでしょう。例えば、農業のモニタリング、農作物の健康、トレーサビリティなどに活用されることが想定できます。AIは、消費者の力になり、食品の安全性を高め、食品廃棄物に取り組むのに役立ち、原料を抽出・合成する方法や食品生産の方法も変えるでしょう」

さらにこう続けた。

「植物由来の食品、農産物について、私は、新たな代替食品や持続可能な食品を生み出すのに役立つ既存の工程・技術を最適化することができるだろうと楽観しています。しかし、他の産業に比べて、代替タンパク質の分野はAIに関してはまだ初期段階にあるように思います。私たちは遅れをとらないようにしなければなりません」

プラントベースフード産業は、近年の明らかな減速(もしくは、落ち着き)にも関わらず、盛衰はありながらも成長を続けている。メティキュラス・リサーチの最新の調査によると、消費者の動物由来タンパク質への拒否反応の高まり、ベジタリアン(やヴィーガン)人口の増加、プラントベースフード企業へのベンチャー投資の増加、食品テクノロジーのイノベーション、さらに動物福祉とサステナビリティへの注目の高まりにより、今後数年間で市場は大きく成長するだろう。2024年から2031年までの期間の年平均成長率(CAGR)は12.3%と予測されている。

より多くのアニマルフリー食品企業がAIを取り入れたら、同産業の成長は現在の予測を上回るかもしれない。植物由来の食品産業のみならず、プラネタリーヘルス(地球の健康)にとっても強力な追い風となるだろう。