• 公開日:2026.05.07
インパクトは企業価値に届くか オリオンビールを舞台に投資家と探る価値創造の核
  • 眞崎 裕史

サステナビリティを「儲かる範囲」だけに閉じれば、もはや経営ではないのではないか――。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッション「インパクト×ファイナンス×ブランディング」では、そんな問い掛けが飛び出した。セッションにはインパクト志向金融宣言事務局の安間匡明氏、カディラキャピタルマネジメントの清水裕氏、オリオンビールの齋藤伸太郎氏が登壇。2025年9月に東証プライム市場に上場したばかりのオリオンビールのインパクトマネジメントモデルを「たたき台」に、インパクトと企業価値、ブランドをいかに接続するかを掘り下げた。

Day1 ブレイクアウト

ファシリテーター
田中信康・サステナブル・ブランド ジャパン 総責任者 兼 ESGプロデューサー / Sinc 代表取締役社長 兼 CEO

パネリスト
安間匡明・インパクト志向金融宣言事務局 事務局長
齋藤伸太郎・オリオンビール・コーポレートバリュー・クリエーション部 部長
清水裕・カディラキャピタルマネジメント 代表取締役 チーフインベストメントオフィサー(CIO) ファンドマネージャー

ファシリテーターを務めた田中信康氏(サステナブル・ブランド ジャパン総責任者 兼 ESGプロデューサー)は冒頭、「インパクト投資は、日々の事業活動が長期目標の達成にどうつながるかを測定し、社会的インパクトをいかに可視化するかという問いだ」とテーマを示した。まだ道半ばの取り組みとしながらも、「中途半端でもまずやってみることに活路がある」と述べ、「誰のため・何のため」という問いを繰り返すことが要だと強調した。

「儲かるサステナビリティ」を疑う

安間匡明氏

安間氏は、2021年に発足したインパクト志向金融宣言の事務局長として活動を紹介。署名機関は75社、6つの分科会で約370人が活動している。中でも自身が立ち上げた「インパクト志向企業価値向上アライアンス」では、上場企業のインパクト創出を起点とした企業価値向上を、投資家と企業がともに分析・議論している。インパクトに関心のある上場株投資家は約3パーセントしかいないという認識を示した上で、新規市場の創出やTAM(獲得可能な最大市場規模)の拡大、革新性、ステークホルダーの巻き込み力、レジリエントな経営基盤の4要素から仮説を確かめていると語った。

その上で安間氏は、米欧のサステナビリティ後退局面で広がる「儲かるサステナビリティだけやる」という風潮に強い違和感を示した。「キャッシュフロー分析して儲かりそうなものだけ選び、儲からないものは削る。ここには経営はない。既存事業の部門長が事業を磨くだけの話だ」。英国の経済学者アレックス・エドマンズの議論が経済合理性に偏った形で引用される現状にも触れ、「価格のつかないものや外部性、貨幣価値換算できないものをアカデミックな分析や自らの価値分析で中長期に見定め、内発的なビジョンで取り組むのが経営者の仕事だ」と踏み込んだ。

DCFに「成長期間の長期化」を組み込む

清水裕氏

清水氏が率いるカディラキャピタルマネジメントは、2022年創業の新興運用会社で、欧州のサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)第9条適合のファンドを通じて日本企業約50社に投資している。清水氏はサステナビリティやインパクトの取り組みが、ガバナンスの改善やステークホルダーとの関係強化を経て、業績改善や資本コスト低下、企業価値向上につながるロジックモデルを示した。

その中核にあるのが、独自開発のインパクト統合価値(IIV)だ。DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)モデルでファンダメンタルズ価値を算出した上で、ポジティブインパクトを加算、ネガティブインパクトを減算する。清水氏は「ポジティブインパクトは事業基盤を強靭(じん)化し、成長期間を長期化させる。投資家は成長率を高めるかどうかで評価しがちだが、われわれは10年よりも先、成長がどれだけ続くかを見ている」と説明。主要事業に必需性があり、新規事業に追加性と成長可能性があり、両者が関係し合っていれば、売上比率が小さくても評価対象になるという考え方を示した。

創業者スピーチを起点に価値創造を再構築

齋藤伸太郎氏

IRやサステナビリティ実務が長い齋藤氏は、「財務と非財務の統合」のモヤモヤをずっと抱えてきたと自己紹介した上で、オリオンビールが構築中のインパクトマネジメントモデルを「たたかれ役」として開示した。出発点に据えたのは、創業者・具志堅宗精が1964年に行ったスピーチだ。ドルの流出予防、関連産業の勃興、雇用拡大、納税、県民所得の増加といった当時の言葉をインプット、アウトプット、短期・中期・長期のアウトカムに当てはめ、「沖縄の若者に夢と希望を」というビジョンに行き着いた。

齋藤氏は全役員を巻き込み、産業構造の脆弱性、低賃金、若年層の県外流出といった沖縄の構造的課題を起点に、6資本から最終アウトカムまでを描き直した。安間氏の問題提起に対しては「儲からないことをやっていい理由はない。ただ、すぐ財務化しないけれどブランドや事業基盤に欠かせないものはある。それを整理する上でインパクトという考え方は非常に役立つツールだ」と応じた。

価格のつかないものを循環で捉える

クロストークで安間氏は「価格のつかないものこそ、企業価値創造の根底だ」と踏み込んだ。「従業員、地域住民、自治体、顧客との信頼関係には価格がつかない。ケネス・アロー(ノーベル経済学賞を受賞した経済学者)は信用を立派な公共財と呼び、魔法のような存在で経済学を完全に凌駕(りょうが)すると言った。これを社内で可視化し、何をレバレッジに価値とするかを問うことが企業価値創造の理念だ」。統合思考の6つの資本のうち、財務資本についても、「期初の財務資本で重要なのは儲けることではなく、使うこと。価値を買いに行く投資をして、次の期にまた使えるかという循環で考えるのが正しい」と語った。

齋藤氏はこれを受け、沖縄独特の流通構造を共有した。「県外メーカーは特約店レイヤーがもう一段必要だが、われわれは販売代理店と直接100社ほどでやっている。そこに維持される信頼関係は、創業以来の歴史の中で生まれた重要な“障壁”だ」

安間氏は最後に、海外の投資家を中心に非財務投資がどう財務に跳ね返るかの分析を求める動きが強まっていると指摘し、「ロジックモデルから一歩進んでプレ財務指標を介した相関分析、内なるインパクトと外なるインパクトの還流まで描くことが次の課題だ」と語った。

田中信康氏

ファシリテーターの田中氏はあらためて「誰のため、何のため、何を、どうやって、を問い続けることが大事だ」と総括し、セッションを締めくくった。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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