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マーケティング部門のサステナビリティ浸透に関する世界調査で、知識・スキルギャップが大きな課題に

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報告書のダウンロードは こちら から

世界広告宣伝業連合(以下、WFA)はこのほど、マーケティング部門のサステナビリティの取り組みについて調べた世界調査を発表した。世界48カ国938人のマーケティング部門の役職者を対象にした調査によると、マーケティング部門は、サステナビリティの幅広い課題への理解や取り組みの推進について他の部門から後れを取っていることが明らかになった。(翻訳・編集=小松はるか)

調査「サステナブル・マーケティング2030(Sustainable Marketing 2030)」は、世界広告宣伝業連合と市場調査・コンサルティング会社の英カンターが共同で実施したものだ。報告書によると、「サステナビリティの取り組みの第1歩を踏み出したばかり」と回答したマーケターの割合は39%で最も多く、マーケティング部門は他の部門に追い付く必要があると報告書は指摘する。

マーケティング部門が、既存のマーケティングからサステナビリティを考慮したマーケティングへと変革を進める上で、近年顕著になっている課題がいくつかあるという。一つは、サステナビリティに関するマーケティングの知識とスキルのギャップだ。

サステナビリティに関する課題は複雑で、幅広く深い理解が求められるが、必要な知識・スキルが備わっていない組織は多い。実際、35%が変革を阻害する要因として「サステナビリティに関するマーケティングの知識・スキルのギャップ」を挙げている。この能力ギャップの割合は2021年の調査の20%から15%増加している。

このほかに上位に挙がった課題は、「意思決定において、地球と利益を平等に扱う損益計算の方針がない(35%)」「社内のリソースが割り当てられていない(35%)」「サステナビリティを考慮したソリューションは既存のものより価格が高くなるという社内の認識がある(32%)」「進捗を測るにあたって、透明性の高い確固たる測定方法がない(30%)」。このように組織内の課題が上位を占める結果となった。

定量・定性調査「サステナブル・マーケティング2030」が行われたのは、2022年10月から2023年3月。調査報告書は、18人のグローバル企業のCMO(Chief Marketing Officer)などへのインタビュー、10組織のサステナビリティの専門家へのインタビュー、そして広告を出す顧客企業のマーケティング部門の役職者938人の回答に基づいてまとめられている。

調査対象は、幅広い地域、企業規模、分野から選ばれた。例えば、18人のCMOが所属するのは、アサヒビール、イケア、オートリー、日産自動車、ブッキングドットコム、ユニリーバ、ロレアルなど。専門家では、エレン・マッカーサー財団、ケンブリッジ大学サステナビリティ・リーダーシップ研究所、電通、フテラなどが名を連ねる。

調査は、「マーケターがサステナビリティ目標に取り組みながら、どう企業の成長を促進していけるか」「マーケティング部門のバリュー・アクション・ギャップ(価値観と行動のギャップ)」に着目した内容となっている。

変革に前向きなマーケターは多い

調査は、世界の多くのマーケターがマーケティングの変革に前向きな考えを持っていると明かしている。実際に、マーケターの90%が「サステナビリティの計画はより意欲的でなければならない」、94%が「革新的な変化を促進するために、マーケターはより勇敢に行動し、新しいことを試してみる必要がある」と回答した。こうした傾向は、マーケティングの指標において、サステナビリティをKPI(重要業績評価指標)とする企業・ブランドが、2021年の26%から2023年には42%に増えていることとも関係している。

さらに、グリーンウォッシュと非難される可能性があるにも関わらず、82%が「企業はサステナビリティの取り組みの発信においてより積極的になる必要がある」と回答。また、40%の企業・ブランドが「自社にはサステナビリティのストーリーがあり、それを伝えることを誇りに思っている」と回答しており、2021年の25%から増加している。

また、54%が「消費の選択や行動について大規模な消費者教育が必要」と回答。社内外において、マーケティング部門がサステナブルな行動を促進・標準化するように努めていく必要があることを示唆している。

変革を進める上で、マーケターはイノベーションやクリエイティビティを活用することが必要になるだろう。調査によると、変革を促進する最も重要な手段・チャンスとして、イノベーション(57%)、新たな事業モデル(55%)、大規模な消費者教育(54%)が挙げられている。

WFAのステファン・レールケCEOは、「世界のマーケターはようやくサステナビリティの課題の規模、特に気候危機について理解し始めている。現状維持はもはや選択肢ではないという考えに達している。抜本的な変革が不可欠だ。私たちは、マーケターが独自のクリエイティビティ、イノベーション、コミュニケーションのスキルで、必要な変化を促進する特別な立ち位置にいると強く信じている」と説明する。

マーケティングの役割を再考

報告書では、事業におけるマーケティングの役割と、持続可能な循環型の未来の実現に取り組みながら成長を促進するマーケティングの力を再考する「サーキュラー・マーケティング・フレームワーク」を紹介する。

経営者は、循環型のバリューチェーンに転換することによって、新たな考え方・行動を推進することができるようになる。44%は、バリューチェーンにはマーケティングがてこ入れできるチャンスが存在すると回答した。また、パートナーシップは、必要とされる変化の速度や規模を促進する上で重要な役割を果たす可能性がある。46%の回答者が、連携して取り組むことでマーケティングはより大きなインパクトをもたらすことができるとした。

このほかに、報告書では、「マーケティング部門には、サステナビリティ部門やほかの部門と連携しながら、戦略的アジェンダのなかでサステナビリティをより良く推進していく予算や権限がある」など、マーケティング部門だからこそ自社の事業・可能性と消費者のサステナビリティへの要望を結びつけブランドの成長を促進できるといった、重要なポイント・見通しが示されている。

カンターのオズレム・セントゥルク氏は、「マーケターの94%が革新的な変化の促進に進んで取り組みたいと考えているにもかかわらず、組織がいまだにこれまでと同じように振る舞っていることは驚くべきことだ。今回の調査では、マーケティングに携わる組織の人々に自社がどの位置にいるかを評価し、正しい方向に向けて最初の一歩を踏み出す手助けとなるコンパス(羅針盤)を提供することを目指している」と語っている。