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脱炭素特集

アイデアと工夫で広がる「脱炭素サービス」は、新しいビジネスの大きなチャンスだ

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北村和也

Photo by Razvan Chisu on Unsplash

温暖化防止に向け脱炭素を推進するには、CO2排出側である政府や企業・団体、個人の削減努力と、技術などを開発し事業化する研究機関や民間企業の取り組みの相互作用が絶対的に必要である。後者は特にビジネス化で新しい価値を創出し、相乗効果を生む。実際には、削減側と事業側の両場面でカーボンニュートラルに取り組んでいる民間企業も珍しくない。

ところがここにきて、再エネ発電など特別な技術を保有しなくても脱炭素関連事業に参入できるモデルが登場し始めている。そのアイデアは脱炭素社会のニーズにも合致し、まさにカーボンニュートラル社会での有望ビジネスに映る。

なるほど、と思わせる、「脱炭素ツールのポータルサイト」運営

新しい脱炭素ビジネスと言えば、成熟しつつある太陽光発電でのコーポレートPPAや急拡大する洋上風力発電、将来有望とされる水素関連など、最新の技術を前面に出すパターンがすぐに思い浮かぶ。
しかし、最近、筆者が「おお、それはありかも」と納得した新規ビジネスは、方向が少し異なっている。

CO2削減のマーケットプレイス「アスエネストア」(出典:アスエネのプレスリリース)

今年3月、企業や自治体などエネルギーの需要家にCO2排出量見える化などのツールを提供するスタートアップのアスエネ(本社東京)が、「アスエネストア」という仕組みを発表した。各種のCO2排出量削減のためのソリューションをWEB上において、ワンストップで検索や比較、検討ができるというもので、同社によれば日本初だという。

アスエネストアの内容は、
・CO2排出量削減ソリューション
・CO2排出量削減機器
・環境マネジメントシステム
・脱炭素商材
などで、各種の脱炭素の解決方法からアドバイスなどのコンサルティング、削減につなげるための機器などと幅広い。脱炭素を進める企業や自治体などにとってみれば、各種の解決策を一カ所で選ぶことができる利点がある。「脱炭素に特化した、アマゾンや楽天型のサイト」のような一面もあり、同社では“CO2削減のマーケットプレイス”と銘打っている。

ストアは、実際には同社の脱炭素関連のサービスをすでに導入している企業向けに限ったもので広く誰でも店をのぞけるわけではない。どちらかというと、顧客の囲い込みを狙ったクローズドな戦略ではある。

しかし、このコンセプトは普遍的なビジネスになり得る。
すでに社内外から脱炭素を迫られているケースや、取り組みたくても何から始めてよいか分からないという企業や自治体などはかなり多い。今後ニーズは大きく広がる可能性がある。つまり、類似かつオープンなポータルサイトが、今後必ずいくつも立ち上がるであろう。

出張時に新幹線を脱炭素で利用できるサービスとは

もう一つ、需要家からの強い求めで生まれた脱炭素サービスを紹介しておきたい。
東海道新幹線、山陽新幹線を運営するJR東海とJR西日本と製薬会社のアストラゼネカが共同発表し、この4月から始まったサービスがそれだ。JR東海とJR西日本の予約システム「エクスプレス予約」の法人会員であれば、新幹線を実質CO2フリーの電気を使って乗ったことにできるのというものである。

東海道・山陽新幹線におけるCO2排出量実質ゼロ化のスキーム(出典:アストラゼネカのプレスリリース)

スキームは上図のとおりである。
JR東海とJR西日本が電力会社と契約し、太陽光発電などによる実質再エネ電気の供給を受ける(①、②)。これを新幹線の運行の電力に充てる(③)。一方で利用企業は、エクスプレス予約会員(無料)となり、実際の出張時に追加料金を払ってこのサービスを利用する(④)。それに対して、JR側が企業に「CO2削減効果の証書」を発行する(⑤) ――という流れである。

なぜ、これに製薬会社のアストラゼネカが強く関わったのであろうか。
同社は脱炭素を積極的に推進しており、2022年末までに国内全拠点の実質再エネ電力への切り替えをすでに完了している(Scope2)。社員の出張によるCO2排出はいわゆるScope3に当たり、まだ達成できていないこの部分の排出削減を進めるために、JRと協力を行ったのである。JR東海とJR西日本の発行する証書によって、社員の出張によるCO2排出分を実質的にゼロにできることになる。
ちょっと気になるのが追加料金であるが、東京と新大阪間の新幹線片道で1人当たり数十円程度とされている。決して高くはないであろう。

直接自社が排出するCO2は自助努力でなんとかできるが、サプライチェーン上の他社が排出する分(Scope3)は、その会社の脱炭素化を要求することはもちろん、排出量の計算のお願いでさえも簡単ではない。一方で、金融機関や政府からは、各企業への排出量開示などの要求は強まるばかりである。ここで取り上げたScope3は、特に企業にとって頭の痛い脱炭素の課題の一つなのである。

企業の脱炭素ニーズをつかんで広がるビジネスチャンス

最初に挙げた脱炭素の進め方など全体のサポート、そして、後者のScope3問題と、企業の脱炭素経営における“困り事”は今後さらに増える一方となる。

しかし客観的に見れば、需要サイドの大きなニーズは、そのまま大きな事業チャンスにつながる。そして、最初から示しているように、今回の事例では開発に時間や多額の費用が生じるような特別な技術が必要なわけではない。ニーズへの気付きとアイデア、工夫があれば、事業へと一歩踏み出せる可能性が高い。

繰り返すが、温暖化防止は政府から個人までのすべての参加者が取り組まなければ達成できない。しかし、強制や義務、コスト増ばかりでは多くのプレーヤーが後ろ向きになりかねない。
需要が多ければビジネスとなり、技術要素のハードルが低ければ参入者が増える。これらのプレーヤーが複合的かつ自主的に取り組むことで、初めて2050年のゴールが見えてくると考える。新しいビジネスの芽吹きが、脱炭素社会への道をさらに新しい段階に引き上げることを期待したい。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。