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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

企業を強くする「正しい」パーパスとは――危機感、変革がキーワード

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SB国際会議2024東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

毎年のサステナブル・ブランド国際会議でセッションのテーマに取り上げられ、日本でも“経営の北極星”として掲げる企業が多くなったパーパス。企業に求められる役割や存在意義を言葉に表し、そこに向かって社を挙げて取り組んでいくことの真の意義や効果はどこにあるのか。パーパス経営をリードする企業と、パーパスの研究者の議論を通して、企業を強くする「正しいパーパス」の秘訣を探った。(眞崎裕史)

ファシリテーター
足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト
岩﨑有里子・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス ヘッド オブ コミュニケーション
佐々木恭子・モナシュ大学大学院 社会科学研究科 博士課程/リサーチ・アソシエイト
平野友輔・SOMPOホールディングス サステナブル経営推進部 部長

岩﨑氏

世界の中でも先進的なパーパス経営で知られる、1884年創業のユニリーバ。その日本法人で、今年創業60周年を迎えるユニリーバ・ジャパンの岩﨑有里子氏は、「まだまだ完璧ではない」としながらも、ユニリーバがグローバルでパーパスをどう捉えて歩んできたかを説明した。

それによると、当時、「衛生状況の悪かったイギリスでせっけんを販売することで社会に貢献したいと立ち上がった」同社は2010年に「サステナビリティを暮らしの〝あたりまえ〟に」とするパーパスを掲げ、成長戦略とサステナビリティ戦略を同一に捉えて推進。2021年に策定した新戦略「ユニリーバ・コンパス」では「パーパスを持つ企業は存続する」「パーパスを持つブランドは成長する」「パーパスを持つ人々は成功する」の3つの信念を掲げ、持続可能な調達やCO2排出量の削減、自己肯定感を高めるワークショップを通じた人材育成などに力を入れる。

岩﨑氏は、同社のリーダーは従業員の一人一人と「人間的で非常にオープンなコミュニケーションのスタイルをとる」と語り、そのエピソードを紹介した上で、社員へのパーパスの浸透について、「自分がいちばんパフォーマンスを発揮できる働き方を大事に、心理的安全を感じながらアイデアをリーダーに伝える。経営陣はそれを認めて一緒に成果を出していく。トップの役割とボトムアップの両方が重要だ」と強調した。

平野氏

一方、2021年にパーパスを策定し、社員一人一人の「MYパーパス」を起点としたパーパス経営に取り組んできたSOMPOホールディングス。同社でパーパス浸透/カルチャー変革・サステナビリティを推進する平野友輔氏は、従来の会社中心の価値観ではなく、個人のパーパスを呼び起こすことで意識改革を図り、そこから全社の変革につなげていく――という流れの中で、「パーパスの浸透とエンゲージメントの相関などいくつかのエビデンスも得られ、これからというところ」と3年間の取り組みを振り返り、改めて意識変革には時間がかかると語った。

また平野氏は、MYパーパスと会社のパーパスを重ね合わせていくことの有効性について「1割2割の社員は自律的に動き始めている。これからは、組織における“2-6-2の法則”の6の層を引き上げていかなければならないと考えている。諦めずに取り組みを続けていきたい」と力を込めた。

※あらゆる集団において、パフォーマンス(生産性)が良い人が2割、中くらいの人が6割、悪い人が2割の割合で存在するという経験則

リジェネラティブな社会に向けて、必要なパーパスの条件とは

佐々木氏

次に、企業のパーパス経営について第3者的な視点で語る立場から、豪・モナシュ大学大学院でパーパスとサステナビリティの取り組みの関係について研究を進める佐々木恭子氏が登壇。パーパスの理論自体は1930年代にまでさかのぼることを紹介した上で、近年、日本でもパーパスが注目を集めている背景に「企業に期待される役割の変化がある」と指摘した。

日豪2カ国の大企業を対象とする調査で、佐々木氏が直接聞き取りを行った日本企業6社に共通するパーパスを掲げた理由は「自社の存続と成長」と「従業員の一体化」であり、豪州の企業と比較した時、日本企業の特徴として、「従業員一人一人へのパーパスの浸透」に力を入れていることが分かった。パーパスを実行する上ではそこにサステナビリティ戦略を反映している企業と、そうでない企業に分かれ、前者からは「これまでも社会に貢献はしてきたが、このままでいいのか」という自社の存続に対する危機感が浮かび上がったという。

さらに佐々木氏は、「キーワードは『変革』だ」と指摘し、企業が「サステナブルな、あるいはリジェネラティブな未来に向けて変革していく」ために必要なパーパスの条件として、英語の書籍を引用しながら、1.本物で、信じることができる、2.企業の意思決定をガイドできる、3.リーダーがコミットしている、4.従業員や従業員以外のステークホルダーに理解され、エンゲージできている、5.フレキシブルである――を挙げた。

パーパスを北極星に、質的変化を伴うような変革を

パーパスのキーワードが「変革」とされたことに、平野氏は、「腑に落ちた。パーパスを北極星に、質的変化を伴うような変革をしていかなくてはいけない」と実感を込めて感想を述べ、それを実現するには「自らが『変わりたい』と思うことが重要。やはり、社員一人一人が何をやりたいのか、どんな時にワクワクするのかを見つめ直し、会社のパーパスに対してもワクワクして共感するような状態でないと『変わりたい』にならない」と続けた。

会場からは「どのタイミングで、どのようなパーパスワークを行うのがベストか」といった具体的な質問も。例えば「カリスマ創業者が去ったフェーズでするべきことは何か」というポイントに対しては、岩﨑氏が、サステナビリティのリーダーとして有名なポール・ポールマンCEOが退任後のユニリーバを例に、「2代CEOは変わったが、パーパスは全く変わらず、サステナビリティのコンパスも全く変わっていない。しっかりとしたパーパスと戦略がある限り、リーダーが変わっても継承されていく」と応じ、信念を持つブランドの強さをアピールした。

つまるところ、企業を強くする「正しいパーパス」の秘訣は何か――。ファシリテーターの足立直樹氏からは、「それをやらないと、企業として自分たち自身が継続できなくなるという危機感を持つことが、時流に合った、正しいパーパスを掲げる原動力になる」「パーパスは企業の原点だからこそ、企業が本来の道から外れそうになった時にもそれを修正し、変革するためにあると感じた」という言葉が聞かれた。

真のパーパス経営は決して容易ではないが、パーパスが企業の北極星であることは間違いない。パネリストの発言の一つ一つに大きくうなずく参加者の姿からは、示唆に富むセッションとなったことがうかがえた。

眞崎裕史 (まっさき・ひろし)

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。2020年からフリーランスのライター・編集者として活動し、ウェブメディアなどに寄稿。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。