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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

大手グローバルブランドのBコープ認証取得をどう捉えるか Bラボとダノンに聞く

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Christian Yonkers
Bコープ認証イメージ (ウイスキー・ジンの蒸留所では欧州初のBコープ認定企業となったブルックラディ蒸留所)

日本でもここにきて注目度が高まっているBコープ認証。6月には『B Corpハンドブック』が発売され、認証を取得する国内企業も少しずつ増えてきている。持続可能な「良い会社」の証として先進的な中小企業が取得してきたBコープ認証だが、近年、大手グローバルブランドにもその動きが広がってきた。しかし、こうした大手ブランドのBコープ認証取得をめぐり、認証機関のB Lab(Bラボ)は、社会を良くするビジネスをつくるという本来の使命を放棄しているのではないかとの批判も受けている。B Labと、2025年までにグループ全社での認証取得を目指すダノンに話を聞いた。(翻訳・編集=サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

Bコープ(Bコーポレーション)のBは英単語「Benefit(利益)」に由来する。2006年に米ペンシルバニア州で設立された非営利団体B Labは、すべての人やコミュニティ、地球といったあらゆるステークホルダーに利益をもたらすグローバル経済への移行を目指している。

Bコープ認証をきっかけに、米国では2010年、社会的課題の解決と経済成長を両立させ、株主だけでなくあらゆるステークホルダーの利益を考慮して運営する企業「ベネフィットコーポレーション」を、株式会社などと並ぶ新たな法人形態と位置付ける法律が制定された。メリーランド州を皮切りに約40州に拡大している。

日本政府も今年6月に公表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、「民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革」を検討することを明かし、ベネフィットコーポレーション法を例に挙げている。

Bコープ認証は、企業の責任や環境面での実績を示すだけの単なるロゴではない。企業が人、地域社会(コミュニティ)、地球に与える影響を理解し、改善するための“総合的な枠組み”なのだ。

B Lab米国・カナダの「公平な成長」部門の責任者アンディ・ファイフ氏は、米サステナブル・ブランドの取材に対し、「Bコープ認定企業がコミュニティに参加するのは、ビジネスが良い社会をつくるための力になると確信しているからです。Bコープ認証取得までの道のりは、既存のビジネスを改善するための旅の始まりに過ぎない」と語る。

6月末にはバリューブックス・パブリッシングから『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』が発売された

B Labは、従来とは異なる形の経済の実現が可能であり、不可欠だという確固たる信念に基づき設立された。それ以来、5300社以上のBコープ認定企業が、社会・環境パフォーマンス、アカウンタビリティ(説明責任)、透明性に関するB Labの進化する基準をクリアし、認証を取得してきた。

Bコープコミュニティは、B Labのビジョンである「共有された、持続可能な繁栄のための経済システム」に賛同する中小企業によって築かれてきた。

ファイフ氏は「このコミュニティが多くの企業にとってなくてはならない存在となっているのは、中小企業のたゆまぬ、心ある貢献によるところが大きいです。中小企業のコミュニティが生み出した機運が、大企業が認証取得を検討するきっかけになっています」と説明する。

ネスプレッソの認証取得に一部の認定企業が抗議

しかしながら、B Labは現在、Bコープ認証を多国籍企業に付与していることで、本来の意義を失っているのではないかと批判を受けている。ネスレの子会社「ネスプレッソ」は2022年4月、Bコープ認証を取得した。これに対し、34社のBコーポレーション(Bコープ認定企業)がグリーンウォッシュのための認証取得だと抗議する公開書簡「Bコープの基準は危機に瀕している」をB Labに提出したのだ。

B Labは書簡を受け取り、署名企業に対し直接働きかけているが、書簡を理由にネスプレッソの認証を取り消すことはしていない。

B Lab米・カナダの広報部門の上級マネージャー、アレクサ・ハリソン氏は「B Labが公開書簡を理由にネスプレッソの認証を取り消すことはない」と言う。

「ネスプレッソは3年にわたる集中的な手続きを経て、認証要件をすべて満たしました。企業がさまざまなステークホルダーにもたらす影響を測定するB Impact Assessment(Bインパクト・アセスメント)で最低点の80点以上を獲得し(84.3点)、規則上の要件を満たし、リスクの評価や情報開示、透明性、さらに同社の企業規模に見合う追加要件などの認証要件を満たしています」

大手ブランドの参加によって、システムチェンジが実現する

ファイフ氏の主張は明白だ。

「グローバル企業・多国籍企業が中小企業より有利になることはありません。年間売上高が1億ドルを超える大手グローバル企業は、より複雑で時間のかかる認証プロセスを通過する必要があります。さらに、そうしたグローバル企業をBコープファミリーとして迎え入れることは、既存の社会・経済の仕組みを根本から変えるシステムチェンジを加速していく上でも理にかなったステップです」

Bコープ認証を取得している大手グローバルブランドの一社がダノンだ。同社のグローバルBコープディレクターであるジャン・マリア・ブルーノ氏は、「Bコープ認証は、単なる認証取得だけでなく、システムチェンジを推進していくというより大きなことを達成するための手段です」と語る。

ダノンでは、現在までに世界で展開する45ブランド(世界売上の60%以上を占める)がBコープ認証を取得している。同社は2025年までに、傘下のすべてのブランドがBコープ認証を取得する最初の多国籍企業の一社になることを目指している。

「もしシステムチェンジを実現したいなら、グローバル企業の参加が必要なことは明白です」

2018年に世界最大のB コープとなったダノン北米を含むダノン傘下のブランドは、ネスレ傘下のネスプレッソ、ユニリーバ傘下のベン&ジェリーズ、ナチュラ・アンド・コー(ザ・ボディショップ、イソップなどを所有)、コルゲート・パーモリーブ傘下のトムズ・オブ・メイン、ギャップ傘下のアスレタなどのBコープ認証を持つグローバルブランドの仲間入りを果たした。

(Bインパクト・アセスメントで200点満点をとる)完璧なBコーポレーションは存在しない。ファイフ氏は、B Labのミッションであるシステムチェンジの加速には多国籍企業が不可欠だとして歓迎する姿勢を見せる。

「ネスプレッソのような有名なグローバルブランドがBコープコミュニティに参加することは、より社会的責任のある経済システムを実現するという総合ビジョンの実現にとって重要なことです。それによって、現在の資本主義システムにおいて、見かけることがほとんどない本音の対話が始まるのです。より多くのブランドが認証の意味を知ることで、さらに多くの多国籍産業や企業も知ることになり、コレクティブインパクト(さまざまな組織・団体による社会変革の共創)を起こしやすくなるのです」

規模に関わらず、企業は最低限の要求を満たし、改善に取り組まなければならない。さらに、Bコープ認定企業は3年ごとに再認定の審査を受け、基準値に沿った安定成長を維持しなければならない。

認定企業はステークホルダーへの影響を明らかにし、報告するために数年間かけて作業を行う。ファイフ氏によると、基準に達しておらず、再認定を受けられない企業は少なくないという。そうした企業はリセットし、改めて取り組まなければならない。

「認定企業はパフォーマンス要件に加え、長期的に取り組むためにミッションを企業憲章に組み込んでいます。この2つを満たしていれば完璧な企業というわけではありませんが、透明性の確保、継続的な改善、ビジネスコミュニティへのフィードバックやコラボレーションなど、さまざまな観点から企業としての責任を果たしています」

ダノンのブルーノ氏は「それぞれのBコーポレーションが最高の解決策を提示できる」と言う。ダノンであれば、大規模な変化やコラボレーション。中小規模のBコーポレーションは、イノベーションと情熱。Bコーポレーションとは、大企業と中小企業がコラボレーションや相互作用を起こす上での役割を見出すエコシステムだ。さまざまな企業によるシステムチェンジを実現するべく、公平な条件の下で、中小企業が大企業と真っ向勝負できる特別な場でもある。

ファイフ氏は「多国籍企業を受け入れることで、Bコープコミュニティが連携して何を達成しようとしているのかが多くの人に認識され、実現すべき方針に必要となる影響力を持てるようになるのです。Bコープコミュニティというのは、コラボレーションを実現し、インパクトをもたらすためのものです。そして、共に誓約を公にし、インパクトをもたらす構想を深化させ、拡大していくことができるのです」と語る。

ダノン、2025年までにグループ全社でBコープ認証取得へ

ダノンにとって、Bコープ認証取得は会社の規模とは関係なく、パーパスという企業のレガシーへのコミットメントを深めるためのものだ。

ブルーノ氏は「Bコーポレーションになることは1日で決めることではありません。ほぼ全てのBコーポレーションは、企業のDNAにすでに確固たる企業の文化的遺産があるのです」と語る。

ダノンは2013年、最初のBコープ認定企業ハッピーファミリーを買収した。それが2030年までに傘下の企業・ブランドをすべてBコープ認定企業にするという野心に火をつけ、同社は2017年にそれを発表したのだった。ブルーノ氏によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは真にパーパス志向のビジネスの妥当性を浮き彫りにした。そのため、ダノンは2030年としていた目標年を2025年に引き上げた。

ブルーノ氏は、Bコープ認証取得を単なる認証プロセスではなく、危機の時代における資本主義を再定義するための手法としてとらえるよう社員らに呼びかけてきた。

「Bコープ認証を単なる認証と考えるなら、本来得られる価値の多くを失っていることになると心底思います。Bコープ認証の本当の価値とは、変化を促し、信頼とパートナーシップを構築し、消費者教育を促進することにあります。そして本来の役割は、システムチェンジを促進することです。それを理解すれば、Bコーポレーションについての考え方も変わるでしょう。誰もがシステムチェンジの一翼を担うのですから」