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サステナブル投資で世界を変える 仏投資運用会社ミローバが「B コープ認証」を取得した理由とは

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空前の ESG 投資ブームが到来するなか、日本国内でも「どのようにサステナブルな企業を選定するか」が課題になっている。一方、フランスでは投資運用会社みずからが株主以外のステークホルダーの利益も重視する「使命を果たす企業」となり、「良い企業」の証である「Bコープ認証」を取得している。なぜ投資運用会社が株主の利益だけでなく、社会や環境目標を定款に定めて、社会課題の解決を図るのか。また、ESG 投資において日本企業は何を求められているのか。フランスの投資運用会社で「Bコープ認証」を取得したミローバ(Mirova)の副 CEO アン‐ローレンス・ルシェ氏に聞いた。(島 恵美)

ミローバ 副 CEO アン‐ローレンス・ルシェ氏 (Anne-Laurence ROUCHER)

定款を変更し、パーパスを事業目的に埋め込む

フランスの投資運用会社ミローバは2020 年 12 月、フランスの PACTE 法(企業の成長・変革のための行動計画法)に基づき「使命(ミッション)を果たす会社」モデルを採択するとともに、「良い会社」の世界標準である「B コープ認証」を取得したことを発表した。

ミローバはフランス大手金融機関、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズのグループ会社であり、サステナブル投資の先駆者として知られている。2013 年から PRI(国連責任投資原則)に署名し、全ての株式の専門分野において最高評価となる「A+」を 5 年連続で獲得。さらに、2020 年 10 月には、PRI に署名する約2400社(2021年6月時点では約4000社)のなかから特に優れた企業 36 社が選出される「PRI リーダーズ・グループ」にも選ばれている。

「ミローバはサステナブル投資に特化した投資運用会社です。その DNA ともいえる使命を定款に書くことは、われわれの事業目的を反映することです」と副CEO アン‐ローレンス・ルシェ氏が語るように、「使命を果たす企業」の採択と「B コープ認証」取得は、同社にとって必然であった。

フランスで 2018 年に新設された「使命を果たす企業」は、存在意義(パーパス)に加えて、利益以外の社会的目標や環境的目標を定款に定めることが法的に義務付けられている。さらに、社内外の有識者からなる「ミッション委員会」を設置し、それらの目標が確実に実行されているかモニタリングする必要がある。2021 年 3 月時点で食品大手のダノンやスーパーマーケット大手カルフールなど、フランス全土で 143 社が「使命を果たす企業」として登録されている。

一方「B コープ認証」は環境、社会、ガバナンスに配慮した「良い会社」を認定する国際的な第三者認定だ。法的な義務ではないが、株主だけでなく、社会や環境といったステークホルダーに配慮することが求められる。米国や欧州の企業を中心に年々その取得数が増えており、現在 73 カ国で約 4000 社が取得している(2021 年 5 月時点)。

「サステナブル投資に 100%フォーカスを当てるミローバが、このような方向性を定めることは自然なことですし、逆にそうならなければおかしいと思われることでしょう」とルシェ氏が語るように、利害関係者から好意的に受け止められているという。今回の発表により同社はサステナブル投資のパイオニアであり、先進企業であることを改めて示すことができたと考えている。

特にミローバがサステナブル投資家として高く評価されているのは気候変動の分野だ。2015 年にミローバは低炭素戦略と気候変動への適応を専門とする独立系大手コンサルティング Carbone4 (フランス・パリ)とともに、自社が投資を行うポートフォリオのカーボンフットプリントを評価する手法を開発している。

社会・環境分野の KPI を設定し、ファンド戦略に組み込む

「使命を果たす企業」モデルを採択するにあたり、ミローバは「金融は、生態系と気候を維持・回復させると同時に、社会的包摂、健康、福祉を支援するモデルに経済を導くための手段であるべき」とし、環境問題と不平等問題にプラスの影響をもたらすというミッションを正式に表明した。また、トップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチを組み合わせて5つの目標を設定した。

ミローバのミッションに関する5つの目標
ミローバのポジティブインパクトを投資戦略の体系的な目標とする
持続可能な発展に関する専門知識を蓄積し、向上させる
ポジティブインパクトを創出するために、商品とアプローチの革新を続ける
ステークホルダーを持続可能な金融原則や慣行へと導く
環境および社会基準をミローバの社内慣行に適用する

この目標はミローバのすべての従業員が関与して作った。

また、それぞれの目標には KPI が設定されている。例えば気候変動では、2015年のCOP21で設定されたパリ協定の目標を順守するために、すべてのポートフォリオが世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えるシナリオに合致することとしている。この KPI はすでに達成され、現在では約90あるファンドの大部分がより厳しい基準である1.5度シナリオをクリアしているという。

KPI は外部の有識者を含む「ミッション委員会」によってモニタリングされ、目標達成に向けて改善すべき点を指摘される。また、ミッション委員会は1年に1回、年次ミッション報告書を発行する責任を負っている。サステナブル KPI を順守できない場合、財務リスクとはならないが、レピュテーションのリスクは大きい。

その一方で、メリットもあるという。

「目標や KPI を設定することにより、ミッションがファンドの中に組み込まれることになります。そういう意味では、われわれの場合は使命を果たす企業となることで、ミローバのサステナブル投資における戦略がより深く、より力強くなったと言えます」とルシ ェ氏は語る。

企業は業績と環境・社会インパクトの両方の目標を同時に達成することを求められる

ところで、2021 年 3 月にダノン社の会長兼最高経営責任者(CEO)だった、エマニュエル・ファベール氏が解任されるということが起きている。ダノンはフランスの上場企業として初めて「使命を果たす企業」になった企業として有名であった。果たして伝統的な上場企業が「使命を果たす企業」になるということは市場から受け入れられるのだろうか。

ダノンが「使命を果たす企業」になったことについて、ほとんどの株主はプラスの評価をしており、今回の解任はあくまで業績が振るわなかったことが原因だとルシェ氏は見ている。

「『使命を果たす企業』には常に2つの目標が必要です。一つは財務的な業績を上げるということ、もう一つは環境・社会にインパクトもたらすことです。この2つの目標を同時に達成しなくてはいけない。どちらかを失敗すると、両方に失敗したとみられてしまいます」 (ルシェ氏)

その意味で、「使命を果たす企業」は、常に業績と環境・社会へのインパクトという2つの目標を同レベルの注意を払って実行していく必要があるという。

「ただし、この2つを同時に成功させるためには時間が必要です。短期的利益を追求するような資本ではなく、忍耐強い資本が必要だということを対話の中で伝えていく必要があります」とルシェ氏は語る。

日本企業に求められる「より透明性の高い情報開示」

サステナブル投資に特化しているミローバだが、日本企業にも投資しているという。「日本には持続可能な社会の実現に向けて、非常に革新的なテクノロジーやソリューションを持っている企業があります。一方で、日本企業にはもっと情報開示をして、いろいろな情報を伝えてほしいと思っています。日本企業により高い透明性を期待します」とルシェ氏は言う。また、ESG情報開示をはじめとする、ディスクロージャー(情報開示)に関する規制が欧州やその他の地域並みになることも必要だと指摘する。これにより、日本の ESG 情報開示が改善されることが期待される。

「ミローバは成長のポテンシャルやイノベーション力のある企業に投資しています。これからも日本市場において成長ポテンシャルがあり、高クオリティで、しかも環境・社会課題に強力に取り組んでいる企業を発掘していきたいと思っています」とルシェ氏は話す。

ミローバは「使命を果たす企業」となることで、持続可能な投資におけるパイオニアとして、より公正かつ持続可能なビジネスモデルを構築するために経済の大きな転換に挑戦している。

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島 恵美 (しま・えみ)

ESGビジネスライター。IT企業でサステナビリティ担当を15年経験。企業の内側から環境・社会(CSR)・コーポレートガバナンスの社内変革・体制構築を一通り経験。企業の立場から実効性のあるESGについて考えています。モットーは「明日、ビジネスに役立つヒント」をお届けすること。2017年から2年間パリで生活。2児を子育て中のワーキングマザー。