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対談:

「地域に一灯を」世界に評価された中小企業の持続可能な姿勢

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石井造園 石井直樹代表(左)と山岡仁美 サステナブル・ブランド国際会議2020横浜プロデューサー

横浜に根ざし、経済や文化を循環させている企業活動を山岡仁美 SB 2020 横浜プロデューサーがクローズアップ。
第1回石は井直樹 石井造園 代表との対談。

石井造園(神奈川・横浜)は造園、土木などを手がける従業員数11人の中小企業。2016年、公共、社会に貢献する企業へのグローバル認証「Bコーポレーション」を取得し、2018年には同認証のBEST for THE WORLD 2018アワードを受賞するなど、その活動が世界的に評価される。事業規模に拠らず、地域に置いた軸をあくまでぶらさない考え方の根底にあるものとは――。同社の石井直樹代表は「地域に一灯をともし、正しいことをする」と取り組みへのこだわりを語る。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

山岡:石井造園はあくまで「CSR」に力を入れていらっしゃいます。ここ数年で取り組みに変化はありましたか。

石井:12年前に本格的にCSRに取り組み始めてから、実はあまり変わってないんです。地域貢献に軸足を置いてきましたし、これからも同じ軸でやっていこうと考えています。

山岡:一般論として、最近では「CSRは当たり前で、いまさら掲げるようなことではない」という風潮もありますよね。「CSRよりもCSV、SDGsだ」と。

石井: CSRに取り組むことは当たり前ですが、どれくらい、どのように意識して向き合わないと社会に通じないかというと、簡単には「社会的責任を取れる」ものじゃないと実感しています。

事業規模や事業体にもよりますが、私たちは貧困国の飢餓に直接的に貢献できるほどの影響力はありません。ただ、食べ物を無駄に捨てるということをしないとか、レジ袋1枚をもらわず、かばんに入れるということを実践することはとても大事だと思います。

山岡:小さな行動や実直な実践は、間接的に大きな問題に関わってきます。石井造園のCSRへの取り組みもそういう考え方に根差しているように思います。今年のCSRの活動を振り返っていかがでしょうか。

石井:今年はいろんな活動の中で協業やバックアップ、サポートをしたお相手先が「横浜・人・まち・デザイン賞」や「横浜環境活動賞」を受賞されました。それで結局「今年も昨年と同じように褒められているな」と感じています。これはSDGsのパートナーシップと言っていいものですか?

山岡:取り組みの経過や結果としてパートナーシップを組むというのは素晴らしいことだと思います。自社よりも、関係者や顧客が褒められるということが本当に嬉しいことですね。

石井:そうですね。振り返ってみれば「なるほど」と感じました。

山岡:令和元年のCSR目標では、「CSR活動をSDGsの目標と関連付けて展開する」と記載されています。

石井:昨年は「SDGsを意識した活動」が目標でした。地域志向のCSR活動が根底にあり、それを「関連付けて展開する」今年に向けて、かなりハードルの高いアップグレードでした。ただ、実際の活動ではハードルを下げたところもあります。

例えば昨年、ほかのCSR企業のごみ拾い活動に参加し、永続的な活動にするというコラボレーション目標を掲げましたが、社内では「できていない」という評価でした。

それを今年は、小さな活動であってもただ「参加する」という目標にしました。CSR報告会では「事業を行う」が「活動を行う」に変わったのはどういうことか、という質問が出ました。できなかったことを認めた上で、今年もう一度、必ず達成する目標を宣言しました。

山岡:嘘をついたり、見栄をはったりしている場合じゃないですからね。

内と外の境界線にある共通価値

背景にあるのが室内でも利用可能な壁面緑化

山岡:独自工法の壁面緑化も、市販の植物を利用できるようにして、室内でも作れる先駆的な取り組みのひとつですよね。

石井:家そのものは建築家の方々の領分ですが、ウッドデッキやサンルームのようなスペースが、私たちのテリトリーの庭にせり出してくるんです。庭の内側と外側の微妙な境界線で、庭から一太刀、打ち返すのが室内での緑化かなと。

気持ちいいところ、環境のいいところって、内と外の中間にあるんですね。縁側って気持ちいいじゃないじゃないですか。長めの庇(ひさし)があって、太陽が照りつける庭を日影の中から見ている。そういう気持ちのいい場所はこれから先も大事かなと感じます。

山岡:CSV(共通価値の創造)の考え方と近い気がします。自社の持ち味と、お客様や地域の居心地、生活も含んで、新しい価値を創造する。CSVのひとつのかたちかもしれません。

石井:対立するわけでなく、建築家の方々と「中間」を通して対峙したり、対話したりすることによって造られる空間は、新しい価値なんだろうなと思います。

「きちんと一灯をともす」地域企業へ

多くの表彰状があるが、特に目立つのは地域の小学校の生徒からのメッセージ。写真以外にも数多い

山岡:2016年に日本で最初の2社のうち1社として、Bコーポレーションを取得されました。その理由をお聞かせください。

石井:当時、石井造園も横浜の中ではCSRに関して自信を持っていました。そこで、世界に通用する基準でNPOが企業に点数をつけるというなら、点数つけてみてよ、という気持ちだけで。だから80点ギリギリで認証を取れるかどうかを狙っていたわけではなく、それまでの取り組みをそのまま出しただけでした。

驚いたことに結果は106.5点でした。パタゴニアの米本社も初回は107点だったそうです。あんなに凄いと思っていた大企業と、点数がそんなに変わらなかったんです。

山岡:やってきたことが間違ってなかったということですね。

石井:世界に通用する活動にリーチしているという実感を持ちました。私たちの活動は地球の裏側に届いているわけではなく、あくまでも地域への取り組みですが、それが世界的なレベルでも「いいね」と言ってもらえるということを実感したんです。

石井造園の事業規模として、対応できる範囲は町内、区内、背伸びしても横浜市内です。ただ、そういった規模感の企業が町内のことについて、きちんと一灯をともすことができたら、国としてもみんなが良くなるんじゃないかと感じています。

地域企業としてやるべきことをやっていくことで、みんなに「いいな」と思っていただき、それを伝染させること。それはある意味、私たちのミッションだと思います。

利益は「ご褒美」、売上高は「期待値」

山岡:CO2排出量の削減についても、精力的に地域に貢献されている点のひとつですね。

石井:カーボンオフセットについては、こんなことで企業としての社会的責任をとることができるのか、と気が付いてしまったんですね。気づいてしまったからにはやるしかない。もちろん排出量を削減する努力が必要なことは絶対の前提ですが。

山岡:知ったら見過ごせないということですね。知っても「コストだからできない」とおっしゃる企業もあります。

石井:経営的な戦略だからやったほうがいいよね、ということと、やったほうが気持ちいいからやろうよ、という2つの側面があります。何をもって価値とするかというところでいくと、売上高から経費を抜いた「利益」だけを求めていても仕方ないなと思います。

利益が目的になってもいいんですが、利益を生み出すためのプロセスの中で、いろんな価値をつくっていけることが企業にとって大事だと思います。価値をもらったりあげたりしながら、そのために動くということですね。

売上高は社会からの人気のバロメーター、期待値だと思います。だから売上高は下げたくないんです。それに対して利益は、ご褒美を数値化したものだとも思います。だから利益は利益として大切ですが、どっちが大事かといえば、社会からの期待値がすごく気になりますよね。

コンプライアンスにも関わりますが、正しいことをしたいと考えています。知っていてもできないことは、できる努力をする必要があり、知った上でできることは、やってしまったほうがいいなと思っています。

山岡:持続可能なことって結局、正しいんですよね。どこかで正しくないことをたくさんしてきて今の地球があるのかもしれませんが、正しいことを重ねていけば地球はまだ受け入れてくれるし、もちろん、地域も受け入れてくれるんだと思います。

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。