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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第37回 シン・ウルトラマンとシン・CSR

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

5月に公開された空想特撮映画「シン・ウルトラマン」が好評を博し話題となっています。日本を代表する既存のヒーロー作品に新たな解釈を加え、現代によみがえるシン・シリーズ。この『シン』の切り口が、「CSR」の本質や根幹の理解に役立ちます。

シン・ウルトラマンの『シン』

シン・ウルトラマンは、日本を代表するキャラクターである初代ウルトラマンを現代に舞台を置き換えたリブート作品(同じ原作をもとに、過去の作品を新たな視点で制作し直したもの)とされています。1966年の放送開始以来、海外でも数多くの地域で親しまれ、今なお根強い人気を誇り、本作はウルトラマン55周年記念作品と位置付けられます。

『シン・シリーズ』としては、2016年の「シン・ゴジラ」、2021年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」に続く、第3作目となります。『シン』は総監修の庵野秀明氏のアイデアだそうで、その意味するところは『新、真、神…』など、さまざまなことを感じてもらいたいということです。この『シン』の響きとコンセプトは、「CSR」の本質や根幹の理解に役立ちそうです。

シン・CSR ーー進・深・真

「CSRはもう古い。CSVにシフトすべき」「これからはサステナビリティだ」「いやいや、ESGが重要だ」「SDGsこそが主流だ」。立て続けに登場するアルファベットに翻弄されたよくある情景ですが、実はサステナビリティ推進においては、「CSR」を原理原則(principle)として押さえておくことが肝となります。そこで、『シン・CSR』の視点から解き明かします。

① シン(進)・CSR

CSR(Corporate Social Responsibility)は決して古くなったわけでなく、企業行動の軸となる原理原則として、ますます重要度が高まっています。ただし、CSRはここ数年で格段の『進化』を遂げています。従来の「社会貢献活動」や「リスク対応」から、「価値共創」へと進展し、さらには、コーポレートブランドや企業価値向上につながる戦略的なステージにまで広がってきています。ただし、いまだ旧バージョンのCSRが散見されますので、速やかにバージョンアップすることが大事です。

日本では、80年代より企業によるメセナ・フィランソロピーに関心が高まり、経済界では「企業市民(Corporate Citizenship)」の概念が標榜されました。こうした流れから、経営者の中には、CSRを「本業以外の社会貢献活動」と認識している傾向が多々見受けられます。良識ある企業の『たしなみ』と心得、「企業だけ儲けていてはいけないので、地球や社会にもいいことしなきゃなあ」というスタンスです。これは間違いではなく、その時代のコンセンサスといえます。当時のCSRは、企業は本業とは別に慈善活動としてボランティア活動や寄付・寄贈などを行い、『社会に貢献する』という意識がもっぱらでした。

一方、先進のCSRは、本業において社会や生活者の変化を認識することが要諦です。それを怠れば、ビジネスの機会損失やリスクを招くことになります。きちんと捉えれば、社会とともに「新しい価値」や「新しい市場」が創出でき、信頼や支持の獲得につながります。

② シン(深)・CSR

CSRの本質は、目まぐるしく変化する社会のニーズや価値観を捉える感性の鋭さを備え、かつ時代にふさわしく『対応』することにあります。『対応』とは、英語で、response。つまり、CSRのResponsibilityの「R」の意味するところがここにあります。この単語はresponse(反応する、対応する)と、ability(力、能力)からなります。つまり、「対応する能力」といえます。

いつの時代にも、磐石な経営基盤を確保しつつ、あらゆる変化に柔軟に『対応』していくことこそが、CSRの基本です。CSRを断片化・表層化させず、『深く』掘り下げ、体系的・本質的に捉えることが肝心です。

③ シン(真)・CSR

CSRの核心は、「社会への対応力」です。何に対応するかといえば、社会にとって、悪い影響は防ぎ緩和してほしいという「要請」と、良い影響を一層醸し出してほしいという「期待」です。

前者の「要請」に対応することが、いわゆる「基本的CSR」。後者の「期待」に応えることが、「事業による社会課題解決」という趣旨で普及しています。ここに、米国経営学者であるマイケル・ポーター教授らが提唱する「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」と称されるコンセプトがあります。経済的価値を創出しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創出するというアプローチです。

企業がこの世に存在し、事業を営めば、地球や社会に必ず影響を及ぼします。その「影響」には、ポジティブとネガティブ、良い影響と悪い影響があります。この「影響」こそがキーとなります。社会や地球にとって、悪い影響は防ぎ緩和してほしいという「要請」に対応し、良い影響を一層醸し出してほしいという「期待」に応えることです。

真のCSRは、時代の『要請』に乗り遅れることによる「リスクの回避」と、時代の『期待』に応えて「ビジネス機会の創出」を図るという両側面を備えます。

シン・CSRとサステナブル・ブランディング

企業は、社会(ステークホルダー)から信頼してもらって、選んでもらってこそ、持続的な成長が図れます。信頼されたければ、現代社会が求める「要請や期待」に応えることです。愛着をもって選んでもらいたければ、「らしさ(得意技と個性)」を発揮することです。

結果として、盤石な経営基盤のもと、自社ならではの新しい価値創造・新しい市場開発が実現できます。それにより、時代にふさわしいブランド力をはじめとする「無形資産」が高まり、企業価値向上につながります。これが、サステナブル・ブランディングのセンターラインともいえる文脈です。

シン・ウルトラマンの『シン』とは、既にある素晴らしい作品を現代にいざなう珠玉の接頭語・フレーズとすれば、「シン・CSR」は、サステナビリティを希求しSDGsを実現するにあたって、「社会への対応力(負の影響を防ぎ、正の影響を醸し出す)」という原理原則として、ますます企業行動の軸としていくべきでしょう。

シン・ウルトラマンは、原作の持ち味を踏襲するシン(真)のウルトラマンでありつつ、新しい次元に導いてくれるようです。シン・CSRも、時代にふさわしいステージで捉えることをおすすめします。今日のコーポレート・ブランドの芯や背骨となるのが、『シン(進・深・真)・CSR』です。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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