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レジリエンスを高めることが激動の時代を生き抜く根幹――保険、データ活用、建築など9つのテーマに注目

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Sustainable Brands
Image credit:Dean Franklin
ヒトデは、必要に応じて手足を再生できる動物

昨今の世界では、さまざまな問題が複雑に絡み合い、ますます先行きが見通しにくくなっている。企業や社会には、困難な状況にも柔軟に適応できるレジリエンス(強じん性)を高めることが強く求められる。そうした中、米サステナブル・ブランドは10月中旬に「レジリエンス・サミット」を初開催する。それに先駆け、本記事では注目の取り組み事例を見ていこう。(翻訳・編集=茂木澄花)

現代社会では、気候変動、政治と経済の不安定化、社会的な混乱、資源の枯渇、破壊的技術の出現など、多くの危機が互いに影響しあいながら発生し続けている。こうした複合的な問題に適応して繁栄できるかどうかが、個人と企業の両方にとって重要だ。

レジリエンスに関連する概念として、作家のナシーム・ニコラス・タレブ氏が論じた「反ぜい弱性(antifragility)」がある。ストレスや衝撃、不安定性に耐えるだけでなく、それらを糧にして健全性を増すことを指す言葉だ。世界各地でサステナビリティを推進する人たちが、この「反ぜい弱性」を目指したデザインの重要性を認識し始めている。

ビジネスやコミュニティ、テクノロジーなど、さまざまな分野でレジリエンスを高めるための取り組みが広まっており、将来にわたって通用すると思われる事例も見られる。以下では、9つの事例を紹介していく。

1. 保険業界を現代に適応させる

保険業界の一部では、気候変動に対してぜい弱なコミュニティを保証の対象外にしたり、気候変動に加担する企業の保険を引き受けたりしている不適切な現状がある。こうした方法から脱却し、あらかじめ災害に備えるなど、資産を保護するための対策を推進することでリスク回避につなげる動きが起こっている。例えば、米国のプレミアムズ・フォー・ザ・プラネットは、気候変動に加担しない保険を企業向けに仲介する。同社は、企業が破壊的な外部の事象に対策を立てるために、保険業界のリスクに対する長期的な視点を生かせる可能性があることを示している。

2. 最先端のツールやリソースを広める

米通信大手AT&T、米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)、米国エネルギー省アルゴンヌ国立研究所は、共同で「気候リスク・レジリエンス・ポータル(ClimRR)」を運営している。このポータルサイトでは、将来の気候リスクに関する地域ごとのデータを無料で閲覧することができる。地域の危機管理担当者などが、戦略立案にデータを活用することが期待される。

3. 土着の知恵を取り入れて自然と調和する

2022年のCOP15(国連気候変動枠組条約締約国会議)以降、ますます多くの企業や都市などが、2030年までに自然の喪失を食い止め、再生させるための戦略を立てるようになった。その中の多くが、自然に関するSBTsを取り入れたり、ネイチャー・ポジティブ・イニシアチブやビジネス・フォー・ネイチャーといった国際的な連合体との協働を模索したりしている。その一方、米サステナブル・ビジネス・ネットワークやコロラド州フォートコリンズ市などは、その土地に根付き、もともと自然と調和して暮らしてきた人々の全体論的な知見を改めて取り入れている。

4. 未来を見据えた都市と建物を築く

世界銀行の試算によれば、世界のCO2排出の7割が都市のカーボンフットプリントだという。その要因には、産業システムや自動車、炭素集約型の素材で建造されたインフラなどがある。都市に住む人々の生活の質を向上させながら、都市由来のCO2排出を減らす動きが出始めている。

具体的には、自動車への依存を減らして都市の中心部を歩きやすくすることや、緑のある公園や遊び場を増やして「木の公平性」を高めることなどがある。これにより、空気の質や住民の健康とウェルビーイングが改善し、過剰な都市の熱が和らぐことが期待できる。また、計画型のコミュニティモデルも注目されている。例えば米カリフォルニア州のジオシップは、自然災害に強いバイオセラミック製のドーム型住宅が立ち並ぶ村を建設する。フロリダ州のバブコック・ランチも、大規模な住宅開発計画でありながら環境に配慮しており、電力も太陽光発電でまかなっている。その上ハリケーンが真上を通過しても無傷だったと言う。

建築の分野においても、新たな素材や工程の開発によって、鉄やコンクリートといった素材の製造方法が変わりつつある。また、将来を見据えた設計によって、建物で使用されるより多くのエネルギーを取りこんで貯めておくことや、周囲の環境と調和した操業が可能になり、水などの自然資源の質を改善することも可能になっている。こうした設計が採用されている建物には、カーペットメーカーであるインターフェイスの工場や、マイクロソフトのデータセンター、アスペン・ウォッカのコロラド蒸留所などがある。

5. サプライヤーとの距離を短くする

サプライヤーを本拠地に近づける「ニアショアリング」を行う企業が増えている。これによりCO2排出量とコストの両方を減らせるとともに、感染症、異常気象、地政学的な対立などによる操業停止のリスクを減らすこともできる。

6. 農産物のレジリエンスを高める

食品、飲料、布地などの原料を作るためのリジェネラティブ(再生型)農法の普及に加え、コーヒーやカカオなど気候変動による影響が大きい作物の新品種の開発・発見も進んでいる。

7. 素材と資源の利用を最適化する

修理しやすいようデザインを工夫して製品の寿命を延ばしたり、再利用可能な素材を使用して廃棄を減らしたりする以外にも、循環経済の取り組みはさまざまだ。炭素を使って化学製品や燃料、プラスチック、アルコール、布地などを作る企業や、プラスチックに代わる包材を開発する企業、製品の保存期間を延ばす企業などがある。また、コーヒーなど嗜好品の代替品やクリーンエネルギーの開発も進んでいる。

8. 人的資本のレジリエンスを高める

女性、有色人種、難民、障害者、ホームレス、服役経験のある人など、スキルアップの機会を十分与えられてこなかった人々への支援が進んでいる。教育、雇用、デジタル、スキル開発、金融リテラシー、メンタルヘルスなどを向上する機会を作り、利用できるリソースを増やすことで、人的資本のレジリエンス強化が図られている。

9. 観光を社会や環境に良いことに活用する

観光業は地域に環境的・社会的な損害を与えかねないビジネスだが、コロナ禍で大打撃を受けて以降、多くのツアー事業者などが、ビジネスのやり方を見直し始めている。例えば、脱炭素ツアーや、代替的な宿泊施設のプラットフォーム、「インパクト・ツーリズム」の拡大などが見られる。インパクト・ツーリズムは、旅先で社会や環境に関するプロジェクトに参加する旅行で、環境保護や自然復元の取り組み、地元コミュニティとの交流、観光収入が確実に地元の事業者に入るようにすることなどがある。旅先に配慮し、場合によっては再生にも寄与した上で、旅行者の経験を豊かにすることもできる。

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「SBレジリエンス・サミット」は、10月17日にSB国際会議2024サンディエゴの一部として開催される。本記事で紹介したAT&Tなどの担当者が登壇し、データに基づいた戦略的な議論を展開する予定だ。