発泡スチロールはもういらない、ココナッツやエビの殻が代替素材に
Image credit: Cruz Foam
|
プラスチックの一種である発泡スチロールは、半世紀以上にわたり万能な包装材として人気を博してきた。しかし、発泡スチロールの原料であるポリスチレンは毎年1400万トン以上生産され、200万トン以上が埋立地に運ばれており、海洋汚染の要因の一つでもある。そうしたなか、フィリピンと米国のスタートアップがココナッツの殻やエビの殻を使って、発泡スチロールに代わる素材をつくっている。2社は、殻をアップサイクルし、ポリスチレンが持つ機能性を再現する方法を見つけ出し、循環型で持続可能な代替品を販売する。(翻訳・編集=小松はるか)
発泡スチロールは、耐久性や軽量性、耐水性、衝撃吸収力、温度管理の観点からさまざまな業界で採用されてきた。傷みやすい食品を新鮮に冷たいまま輸送するのにも最適な素材だ。
一方で、発泡スチロールは最も広く使われているプラスチックの一つといえる。包装材や電気・熱の電動を絶つ絶縁材として使われることが多いが、発泡スチロールの原料であるポリスチレンは毎年1400万トン以上生産され、200万トン以上が埋立地に廃棄されている。ポリスチレンを使った製品は埋め立てごみの23〜35%を占めるという。さらに、ポリスチレン製の食品・飲料容器は生分解性ではないため、数千の破片に砕け散り、海の生き物の命を奪ったり傷つけることがある。
今回は、ココナッツやエビの殻など、廃棄される自然素材を使って発泡スチロールの代替素材を作る世界のスタートアップを紹介したい。
フィリピン:ココナッツの殻で断熱材を作るフォルトゥーナ・クールズ
ナットシェルクーラー Image credit: Fortuna Cools
|
フィリピンに本拠を置くフォルトゥーナ・クールズ(Fortuna Cools)は、“プラスチックの発泡体を完全に自然素材に切り替えること”をミッションに掲げる企業だ。2018年に同社を創業した共同創業者兼CEOのデイビッド・カトラー氏は、未来はより良い素材で構築される必要があることを理解している。同氏はスタンフォード大学でデザインを学んだ後、開発分野で働き、アジアのスタートアップやNGOのコンサルティングを行ってきた。カトラー氏と仲間は、ココナッツオイル産業から出る副産物のココナッツの殻を使って保冷ボックス「ナットシェルクーラー」を開発した。
「ココナッツの殻は、新鮮な果肉を熱帯の太陽の光から守るために進化してきました。今日では、無数のココナッツの殻が廃棄物として燃やされています。だからこそ、当社では殻を加工して断熱材の代わりとして使用し、大気からはCO2を、埋立地や海からはプラスチックを取り除いているのです」(カトラー氏)
フォルトゥーナ・クールズでは、ココナッツの殻をフィリピンの4つの州から調達している。生産者のネットワークには1000戸を超える小規模農家が入っており、今後、フィリピン全土とその周辺地域に拡大していく計画だ。同社は現在までに、60万個のココナッツの殻を使って、さまざまな産業で使える持続可能な断熱材を使った大型保冷バッグを製造してきた。同社のすべての製品にはリサイクルポリエステルが使われており、生分解性のココナッツ繊維で断熱処置が施されている。最終的に保冷バッグが分解されるときには、断熱材が根を覆う最適なマルチ(被覆材)となり、生育環境を整え、堆肥の土壌改良剤になるのだ。
Image credit: Fortuna Cools
|
「客層は、フィリピン国内の野菜の流通業者からセントラルパークでピクニックをする人まで幅広いです。華氏100度(摂氏37.7度)に達するマニラの暑さのなかで魚を販売する人たちも、シアトルの食料品店でも十分に使えます。発泡スチロールと競合し、代替にもなる製品を作る楽しみの一つは、ココナッツ繊維の断熱材を人々がさまざまな方法で導入しようとしている場面を見ることができることです。市場は非常に大きいです」
フォルトゥーナ・クールズは地元の農家や地域社会の支援にも力を入れる。ココナッツの殻をアップサイクルすることは、小規模農家にとって新たな収入源を生み出し、自然素材のエコシステムを構築し、仕事や研究の機会を提供することだ。カトラー氏は、同社は当初から農家や地域コミュニティと共に発展してきたと説明する。同社が成長することで、農家の収穫物が世界中で喜ばれ評価を受け、農家は臨時収入や新しい仕事、誇りという形で恩恵を得られる。
「当社は、アウトドア用品や包装材に使われる断絶材の新しいスタンダードを打ち立てようとしています。人々が良いジャケットに防水耐久性の高いゴアテックスであることを期待したり、テイクアウト用の容器が生分解性であることを期待したりするように、クーラーボックスや配送箱の素材に期待するようになるでしょう。私たちは今後5年間にいくつかの国々でアップサイクルの拠点を構えようとしています。年間100万個以上のココナッツの殻をナットシェル製品や断熱材に変えていきたいです」
米国:エビの殻を使って多様な包装材を作るクルーズ・フォーム
Image credit: Cruz Foam
|
米カリフォルニア州サンタクルーズで2017年に創業したクルーズ・フォームは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のマルコ・ローランディ工学部教授と大学院の研究員であるジョン・フェルツ氏がワシントン大学(シアトル)にいた時に行っていた研究プロジェクトから誕生した。ローランディ氏はバイオミミクリー(生物模倣)、特に生物医学の道具やプラスチックのようなものに自然由来の素材を活用する方法を研究していた。フェルツ氏が、世界で2番目に多く使用されているバイオポリマーであり、植物や昆虫、キノコ、甲殻類の貝殻などの有機体に含まれる「キチン」について同様の研究を行っていたとき、特に強度重量比において唯一無二の性質を発揮することを発見し、両氏は力をあわせることにした。
海を愛し熱心なサーファーでもある彼らは、研究を続けるためにサンタクルーズに引っ越した。サーフボードに使われている石油由来の発泡体を、自然由来の素材に転換する機会をうかがってきた。フェルツ氏とローランディ氏は、このリジェネラティブ(再生可能)な素材がサーフィンの世界を超えて大きな影響をもたらす可能性があることにすぐに気付いた。そして、保護包装やコールドチェーン(低温物流)産業で使われている使い捨てプラスチックを、新たな自然素材で代替することに取り組み始めた。6年後には、石油由来の発泡ポリエチレンの技術仕様や断熱性能、防御製に匹敵するキチン由来の安全な物質「クルーズ・フォーム」を生み出した。特許も取得し、価格帯も同等だ。
フェルツ氏は「当社ではエビの殻のキチンを使っています。エビの殻(通常は埋立地に送られる)は、持続可能な漁業で捕られ、適正製造規範(GMP)認証やHACCP認証を取得したものを調達しています。エビの殻からキチンをとることにしたのは、余計な廃棄物が埋立地に運ばれているのを目の当たりにし、廃棄物を転用し、価値のある第2、第3の人生を与えられることを知ったからです」と語る。
Image credit: Dreamstime
|
クルーズ・フォームを作るには、まずエビの殻をアルカリ溶液で処理して、甲殻類アレルギーなどを起こす物質を含むタンパク質やミネラルを取り除く。残ったキチンをさらに処理をして脱アセチル化し、キトサンにする。
「クルーズ・フォームの魅力と当社がスムーズな移行を実現できる理由は、フォーム(発泡体)を既存の押し出し製造装置で作ることができるからです。フォームはシートまたはロールの形式で販売でき、打ち抜き加工や着色、印刷、ラミネートができ、無限に応用することが可能です。今後は、国内外で素材を製造できるように委託製造を利用しようと考えています」
クルーズ・フォームは、持続可能なパッケージを作る企業が増えているなか、地域での包装材の回収・廃棄の改善を支援するべく基幹産業のパートナーや組織と連携している。
同社の製品の多くは一般のごみ回収を通じてリサイクルできる。クルーズ・フォームは裏庭や産業施設で堆肥化できる。フォームとダンボールからできた包装材については、段ボールの再パルプ化の工程でフォームが分解されるので、一般的なごみ回収によるリサイクルが可能である。これは、多くの消費者にとってより理解・実践しやすい方法だ。BtoBについては、可能な限り回収・返送とリサイクルをすることを推奨する。
「廃棄物管理に関して、私たちの社会がその実現までに長い道のりがあることを理解しています。だからこそ、コンポスト(堆肥化)やリサイクルを利用しやすくするために、地域や国の立法者と常に連携しているのです」
クルーズ・フォームはこれまでに1800万ドル以上の資金を調達している。出資者には、レオナルド・ディカプリオ氏やアシュトン・カッチャー氏なども含まれており、俳優である彼ら2人は出資者であり相談役でもある。同社はすでにファーム・コテージ・ワイン(Farm Cottage Wines)やリアル・グッド・フィッシュ(Real Good Fish)、ヴィーナス・ディスティラリーズ(Venus Distilleries)、ヴァーヴ・コーヒー(Verve Coffee)などの消費者向けパッケージを開発している。今年2月には、初めての大手企業のパートナー、アトランティック・パッケージングとパートナーシップを結んだ。今年後半には、クルーズ・フォームを使った製品を展開することで、生産量の拡大を支援する方針だ。
同社は、ライフサイクル分析を行い、ポリスチレンをクルーズ・フォームのような製品(また、そのような他の廃棄物を減らせる生分解性の代替品)に切り替えることによって年間1万7000トンのCO2を減らすことができると予測する。
「今年、私たちは無事に商用製品を発売し、パッケージングの革新的ソリューションをさまざまな業界に紹介しています。次の5年間を見据え、私たちは、地球に害よりも恩恵をもたらすクルーズ・フォームのような新素材を促進することで、パッケージ産業全体に大改革をもたらすことを目指したいと思っています。
未来のプラスチック汚染を防ぐための最適な戦略は、そもそも最初の時点で使い捨てプラスチックを作ろうとしないことです。私たちの最終的な目標は、世界中の企業がこれまで以上に環境に配慮し、地球に寄与するより循環型のモデルを取り入れるよう後押しすることです」