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カリフォルニア:暮らしと自然を近づける、ドーム型住宅ヴィレッジ

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Scarlett Buckley
(image:Geoship)

米カリフォルニア州のジオシップ社は自然災害にも強いバイオセラミック製のドーム型住宅が立ち並ぶ村を2023年までにつくることを計画している。このドーム・ヴィレッジは、脱炭素社会を目指すコミュニティがつくり出す新しい生活様式と、リジェネラティブ建築(再生型建築)によって生まれる未来においても色あせることのない世界をのぞかせる。(翻訳=井上美羽)

テクノロジーが進化する世界の中で、地球は危機に瀕し、人々はこれまで以上に自然界から離れて暮らしを営んでいる。自然と再びつながり、自然を守る新しい生き方を提案するデザイナーが現れるのは時間の問題だった。

住宅・建設セクターは、二酸化炭素排出量の約40%を占め、建材の製造はそのうちの11%を占めている。また、気候変動に起因する異常気象によって住宅の倒壊が相次いでいるにもかかわらず、再び同じような持続不可能な手法で住宅を建て替えるという悪循環に陥っている。

さらに米国では、住宅価格が高いといった問題もあり、平均的な賃金労働者の74%が住宅を購入できない。こうした背景を鑑みると、ホームレスに関する社会問題が大幅な解消に向かわないのもうなずける。

カリフォルニア州にある住宅建設協同組合「ジオシップ」は、従来の建築の概念を覆す新しい住まいを提案している。材料工学と幾何学を組み合わせたバイオセラミックドームという既存の住宅に代わる新しい建築様式だ。

ジオシップは、自然と共に生き、人々の意識の進化を促すような生活環境をつくることをパーパスに掲げる。このスタートアップは、米国内および世界中にドーム住宅が立ち並ぶ村とオートメーション化された小規模工場を建設することを計画している。

Geoship

ドームは、今後数年の間に頻発すると考えられている異常気象に対しても高いレジリエンス(回復力)があることが特徴だ。耐火性、耐水性、ハリケーンや地震にも強く、気候変動が深刻化する中で、人と家を守り、暮らしを豊かにする避難場所となる。

「レジリエンス(回復力)はジオシップが重視していることです。私たちは、自然災害の影響を受けない家をつくりたかったのです」と、CEOで創業者のモーガン・ビアシェンク氏は語る。「50年、100年ごとに家を建て直す必要がなければ、環境面でもメリットがありますし、世代を超えた豊かさを促進することにもなります」。

バックミンスター・フラーとルスタム・ロイ(Geoship)

『宇宙船地球号 操縦マニュアル』で知られる建築家で思想家のバックミンスター・フラーと、物理学・材料研究の第一人者であるルスタム・ロイから着想を得たドーム型住宅は、ジオデシック幾何学とバイオセラミック結晶化学、技術の進歩による賜物だ。バイオセラミックはセメントのようなものだが、水の活性化により室温で固まり、ほぼすべての天然素材と結合する分子結合を形成する。こうした素材の特性によりドームのレジリエンスを高めている。

3Dプリントでできた金型は、頑丈で幾何学的な構造体を形成する。ドームのキット自体は2~6日で設置・完成することができ、従来の住宅と比較すると建設期間を数カ月、あるいは数年短縮することができる。

予約を受け付けているドームは、スタジオドームが3万ドル(約345万円)、ファミリードームが10万ドル(約1150万円)に設定されている。設置や基礎工事、必要な機械設備などを含めると、最終的な価格は5割ほど高くなり、スタジオドームで4万5000ドル(約520万円)、ファミリードームで15万ドル(約1700万円)となるが、それでも従来の住宅に比べれば数分の一の価格となる。

ファミリードーム

このドームは、耐久性と手頃な価格に加え、自然やコミュニティ、癒やしを重視した新しい生活様式を提供し、地球を保全することにもつながる。

ビアシェンク氏は「何より目指しているのは、人々が自然界と再びつながるためのビレッジ(集落)をつくることです。そうすることで、自然だけではなくまわりの人や自分自身とも調和した生活をおくることができるのです。私たちは、自然界が本来持っているシステムを再現し、調和のとれたエネルギーの流れをデザインすることで、住まいであるビレッジと都市とのつながりを再構築したいと考えています」と説明する。

ヴィレッジでは、住人が参加できるコミュニティをつくることで、そのつながりを実現することを目指している。また、ジオシップはマルチステークホルダー型の協同組合だ。住宅購入者や投資家、そこで働く人々などが共有し所有する利益分配型モデルを採用している。直接民主主義と間接民主主義の中間的な役割を果たす「液体民主主義(リキッドデモクラシー:liquid democracy)」の実現ともいえるだろう。

ビアシェンク氏は「こうした形はコミュニティ内の信頼が基盤となって成り立つものです。所有権を分配するサステナブルなパーパス主導型(パーパスドリブン)モデルです。一人一票、つまり株を多く買った人が発言権を得るのではなく、誰もが等しく一票を持つようにするということです」と言う。

さらに、ジオシップは靴のオンライン販売会社ザッポスやシティ・リペア・プロジェクトと提携し、ホームレスの人たちが一時的に滞在できるビレッジを作り、彼ら彼女らが利益分配型の共同体の一員となる機会を提供する。

「ホームレスの人のためのビレッジは、都市という高密度な環境からプラグを抜き、コミュニティや自然界と改めてつながるための場所です」とビアシェンク氏は説明する。「自己安定と自己調整を行える文化的な場所、つまり、コミュニティの参加者であることの意味を知り、コミュニティ全体の中で自分の役割を持つことを認識できる場所なのです」。

さらに、役職や階級を設けず組織全体に権限を分散させた組織づくり「ホラクラシー」を導入するザッポスは新しい雇用の枠組みづくりにも取り組んでいる。ビアシェンク氏は、ホームレスの人々のためのビレッジもザッポスと同様のアプローチをとっていることを説明した。現在の雇用というものは、まず仕事をつくり、その役割に見合った人を雇うという方法だが、こうした既存のやり方にはアップデートが必要だ。

「コンピューターが自動的に情報処理を行うようになったり、人工知能が台頭したりと技術が進歩しています。こうした技術の進歩によって、企業はこれまでのように先に仕事をつくってそこに人を充てるのではなく、人間の良さを引き出す仕事をつくることがより容易になっていくでしょう。多くの人がホームレスになるのは、現在の社会のモデルに適合していないからです。今回のこの機会は、すべての人をサポートする方法で社会を再設計するチャンスでもあります」

このようなリジェネラティブ・ビレッジ(再生する村)は、課題が多くますます厳しくなるこの世界において、将来を見据えた新しいコミュニティモデルを提供することができるだろう。私たちは、自然に還るとはどういうことか、そして、地球とそこに住む人々との関係をどのように修復させることができるかを考え直さなければならない。

ジオシップは最初のバイオセラミック製ドームの設置を完了し、製造開始に向けて公募による資金調達キャンペーンを開始した。