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ビールの環境負荷に消費者が注目、パタゴニアが持続可能なビールを開発するなどメーカーも動く

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Image credit: cottonbro studio

ビール製品の選択にサステナビリティが影響するようになっている。米ポール・コーポレーションが世界7カ国を対象に行った調査によると、ビール愛飲家の40〜50%がビールを購入する際に製品の環境負荷が意思決定に大きく影響すると答えた。また最近では、米国でパタゴニア プロビジョンズがデシューツ ブルワリーと共に新たなオーガニックビールを発売するなど、持続可能なビール造りが進んでいる。(翻訳・編集=小松はるか)

ビール愛飲家の約半数、サステナブルなビールにより多くのお金を払うと回答

ビールメーカーにとって自社のビールの特徴的な味わいや品質を維持することは最優先事項だ。しかし、ビール醸造の工程は資源消費型のため、メーカーは環境負荷の低減に取り組み、一方で消費者はこれまで以上にメーカーに対してサステナビリティを優先するよう求めている。

ろ過・分離・精製技術を有するグローバル企業ポール・コーポレーション(ニューヨーク)は、ビール醸造におけるサステナビリティの取り組みについて現状の認識・見解を把握するために、世界7カ国3500人を対象に調査を実施した。

調査対象の英国、オーストリア、シンガポール、ドイツ、日本、米国、ベルギーの7市場の回答者のおよそ半数が、持続可能性を優先せず資源を最大限使用するメーカーの安いビールよりも、廃棄物や水・エネルギーの消費量を減らし、より持続可能な方法で製造したビールに「最大で30%多く支払うだろう」と回答した。

調査に答えたビール愛飲家らはこれまで以上に環境への影響を意識し、懸念を抱いており、およそ3分の2(61%)がビールのサステナビリティはパブやバー、スーパーマーケットでの選択に直接影響をもたらすと認識している。持続可能なビール醸造に関する問題として、廃棄物の削減を挙げた回答者は80%、エネルギーの削減は76%、水使用量の削減は63%だった。

ポール・コーポレーションのビール市場マネージャーのローランド・ポール ドブリック氏は、「消費者はどのビールを購入するかを決める際に環境への影響を考えるようになっている。消費者はビールの醸造工程に関心を持っており、廃棄物や水、エネルギーの削減がより持続可能な醸造に不可欠だと理解している」と述べている。

調査結果は、ビールの製造工程と品質との関係に対する回答者の理解を反映している。約60%がビールの環境負荷に関して「ろ過」が重要な役割を果たすだろうと考え、75%がビールの醸造工程についてさらに学ぶことに関心があると回答している。

ポール ドブリック氏は、「ビールの製造において、ろ過は重要な役割を果たす。伝統的に、ビールは化石化した藻類、珪藻(けいそう)土を使って浄化、精製されてきた。しかし、これは1キログラム使用するごとに約3キログラムの廃棄かすを生む。大規模な醸造場では数百トンの廃棄物を生み出し、埋立地に廃棄されることも多い。通常、多くの水を使うが、より持続可能な選択肢もある」とし、さらに最新の技術として「水やエネルギーの使用量を削減し、廃棄物を大幅に減らす、運用の費用対効果が高いクロスフロー膜フィルター」などがあることを紹介した。

デシューツとパタゴニア、共同開発したオーガニックビールを発売

Image credit: Patagonia Provisions

オレゴン州に本拠を置くデシューツ ブルワリーとパタゴニア プロビジョンズは協働し、良心的なビール愛飲家のために、サステナブルなだけでなくリジェネラティブな(環境再生型)ビールの種類をさらに増やそうとしている。

パタゴニアのサステナブルな食品事業では、オーガニック認証やリジェネラティブ・オーガニック認証を取得した原料を増やそうと取り組むなか、「カーンザ」と呼ばれるリジェネラティブな多年生穀物を使ったビールを開発するために、アラガッシュ・ブルーイング・カンパニー(Allagash Brewing Company)、ドッグフィッシュ・ヘッド・ブルワリー(Dogfish Head Brewery)、ローソンズ・ファイネスト・リキッズ(Lawson’s Finest Liquids)、オーデル・ブルーイング(Odell Brewing)、ラインガイスト・ブルワリー(Rhinegeist Brewery)などの米国のビール醸造所と連携してきた。

カーンザのような根の長い多年生穀物は、成長を続けるリジェネラティブ農業の潮流に適した原料だ。最小限の耕うんで土壌有機物を増やし、土壌の健全性や保水容量を高め、生態系の栄養保持と炭素隔離を促進し、気候変動対策にも役立つ。

一般的なビールは従来型で工業的な農場で栽培されたオオムギやホップを原料として造られており、合成肥料や殺虫剤を使用し、土壌の健全性を低下させてしまう単一栽培だ。さらに、USDA(米農務省)によると、米国の9700軒以上のビール醸造所のなかで、有機ビールを醸造しているのは50軒以下だ。

受賞歴のあるクラフトビールメーカーのデシューツ(2007年に認証を取得したオーガニックビールの製造を初めて行った醸造所の一つ)は、ビール産業の持続可能性の向上に役立ち、ビールのリジェネラティブ・オーガニック認証が付いた原料やオーガニック原料を拡大させるために、パタゴニア プロビジョンズが連携する先進的な醸造所の一員となった。

デシューツのピーター・スカルベックCEOは「私たちはビール醸造家として、カーンザとホップを人々と一つにするおいしい飲み物に変えていきたい。化学物質を除去し、水を保全し、土壌の健全性を向上させるために農家と連携することで、私たちは大きな影響を及ぼすことができるのだ。より良い農業と、あらゆるライフスタイルに合った卓越したビールを提供するという、当社のビジョンを共有するパタゴニア プロビジョンズと協働することを楽しみにしている。私たちは共にビールのサプライチェーンに大改革をもたらし、リジェネラティブな有機農業を促進することを目指していく」と話す。

パートナーシップの成果として誕生したのが、新たなカーンザ・ラガーとノンアルコール飲料のカーンザ・ゴールデン・ブリュー。デシューツはカーンザをノンアルコール飲料に使った最初のクラフトビール醸造所となった。最終的な目標は、成長する有機やリジェネラティブ・オーガニック認証の付いた穀物用の栽培面積を拡大し、原材料費を下げることだ。

パタゴニア プロビジョンズのジェネラルマネージャーであるポール・ライトフット氏は、「デシューツ ブルワリーと協力し、2種類のオーガニックビールを皆さんにお届けできることをうれしく思う。これは非常においしいビールというだけではなく、本当に素晴らしいものなのです。オーガニックやリジェネラティブ・オーガニック認証を取得した原料を支援し、ビール業界がより責任ある行動を取るよう転換させていこうとするものです」と話す。

パタゴニア プロビジョンズとデシューツ ブルワリーが開発したカーンザ・ラガー、ノンアルコール飲料カーンザ・ゴールデン・ブリューは12オンス(355ミリリットル)缶6本入りで、2024年9月1日まで全米の主要小売店(クローガー、トータル・ワイン&モア、ホールフーズ・マーケットなど)で購入できる。