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コーヒー豆を使わない、気候変動に適応する代替コーヒー 開発進めるスタートアップ2社に話を聞く

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Roberto Guerra
Image credit: Atomo Coffee

近年、コーヒー豆を使わない代替コーヒーの開発が進んでいる。今回紹介するシンガポールと米国のスタートアップは、コーヒー豆を一切使わずに食品廃棄物を活用してコーヒーの風味を再現することで、気候変動や環境にマイナスの影響をもたらすコーヒーの生産方法を根本から変えようと取り組んでいる。(翻訳・編集=小松はるか)

私たちが大好きな飲み物の一つ、コーヒーとの不健全な関係をもはや無視できない時代が来ている。

オックスフォード大学のデータベース「Our World in Data」によると、コーヒー豆は温室効果ガスの排出量が多い作物のトップ5に入る。さらに、その栽培には広大な土地が必要であり、森林破壊の一因となっている。実際に、コーヒー1杯につき約1平方インチ(約6.5平方センチメートル)の熱帯雨林、なかでも世界の生物種の大部分が生息する熱帯地域の森林が破壊されている。

気候変動が進む世界において、コーヒーが必需品であり続けるには、多くの人気作物と同様にコーヒーも、コーヒー愛飲家も早急に適応しなければならないだろう。

コーヒー業界はすでにその最前線で取り組みを始めている。スターバックスは耐候性のあるコーヒーの木の品種開発に熱心に取り組み、フィンランド技術研究センターVTTの研究者らは、土壌栽培から研究室で栽培される作物に転換する可能性のある食品リストに、コーヒーを付け加えた。

そして、言うまでもないが、スタートアップ界は独自の解決策を生み出している。コーヒーの生産方法を根本から変えようと取り組む2社に話を聞いた。

Prefer (シンガポール)

共同創業者のジェイク・バーバー氏とディンジィエ・タン氏 Image credit: Vulcan Post

2022年末にシンガポールで誕生したスタートアップ「Prefer(プリファー)」は、気候変動の影響を受けずに将来にわたってコーヒーを飲み続けられるようにするために、コーヒー豆を使わない“ビーン・フリー・コーヒー”を生み出した。

共同創業者でCTO(最高技術責任者)のディンジィエ・タン氏は、米サステナブル・ブランドの取材に「手頃な価格で、おいしく、持続可能な代替品をつくろうと、コーヒーの風味を生み出すためにパンと大豆、大麦を発酵させています」と語る。

タン氏は続ける。コーヒー豆1kgあたりの温室効果ガスの排出量はCO2換算で29kgだが、「プリファーのコーヒーの排出量は、初期の概算ではその10分の1です。さらに、私たちは食品製造の過程で生まれる副産物をアップサイクルし、食品廃棄物を削減しています」と説明する。

現在、ボトル入りのオーツミルク・ラテをはじめとするプリファーの製品は、シンガポール国内の20店舗以上のカフェで販売されている。同社は今年2月に200万ドル(約3億750万円)の投資を獲得しており、今後は生産施設のキャパシティを増強し、シンガポールやフィリピンを皮切りにアジア太平洋地域に拡大していく考えだ。

Atomo Coffee(米国)

Image credit: Atomo Coffee

米シアトルのAtomo Coffee(アトモ・コーヒー)もまた、コーヒー豆を使わないコーヒーを生み出している。エド・ホーンCOO(最高執行責任者)によると、2019年創業の同社は、幅広い場所で調達できるアップサイクル原料や農場栽培のスーパーフードを使って、持続可能な代替商品を開発している。

ホーン氏は「従来のコーヒーは問題を抱えています。世界的な需要は伸び続けていますが、今後30年間で供給量は大幅に減少することが予測されています。当社は、従来のコーヒーのようなサプライチェーン上の制限や価格付けの影響を受けないコーヒー市場において、ゲーム・チェンジャーの立ち位置にあります。とりわけ、環境意識の高い消費者や革新的な食品に興味のある消費者の間で関心が高まっています」と言う。

さらに、「従来のコーヒー豆に代わり、コーヒー本来の味や香り、口当たりを生み出すために、アップサイクルしたものやスーパーフード由来の原料、最先端の食品科学を利用しています」とホーン氏は説明した。

ホーン氏によると、アトモ・コーヒーの商品開発は、コーヒー特有の風味や香りを生み出す重要な化合物を特定することから始まったという。こうした化合物は、持続可能な自然原料であるナツメヤシの種、チコリ、フェヌグリーク、ヒマワリの種子エキスに含まれており、同社はそれらを合わせることで、環境や気候変動に配慮したコーヒー豆の構成要素を再構築した。

「それから、一杯の完璧なコーヒーの複雑な味わいをつくるために、コーヒー焙煎機で原料を焙煎します。この方法は素晴らしいコーヒー体験を提供するだけでなく、従来のコーヒー農園がもたらす環境への影響を大幅に削減するものです」(ホーン氏)

同社は、コーヒー豆を使わないコーヒーの環境的な利点の正当性をハウグッド(HowGood)と連携して立証した。ハウグッドは独立調査会社であり、食品会社にサステナビリティに関する情報を提供するSaaSプラットフォームだ。アトモ・コーヒーの通常のエスプレッソは、従来のコーヒーよりもCO2排出量が83%少なく、農地の使用面積が70%少ないことが分かっている。

アトモ・コーヒーは2023年後半、日本の飲料大手サントリーから数百万ドル規模の投資を受けている。間もなく、同社から新たな発表があることを期待している。アトモ・コーヒーのエスプレッソは全米のカフェや店舗で販売されており、粉末のリミックス・ドリップ・コーヒー(50%はコーヒー豆を使わず、残り半分はアラビカ種のコーヒーを使用)は同社のホームページで購入できる。

代替コーヒーの課題

Image credit: Chevanon Photography

代替コーヒーを生産する上で生じる最大の課題の一つは、大量に生産するということだけではなく、消費者の受け入れがさらに高いハードルとなる可能性があること。

ホーン氏は「コーヒー豆を使わないコーヒーのメリットや特有の性質について、消費者やステークホルダーを啓発するには相当な努力が必要です。私たちは、幅広い支持を得て、コーヒー豆を使わないコーヒーを市場に投入し続けていくために、こうした課題に慎重に対処していかなければなりません」と話す。

タン氏もプリファーが同様の課題を抱えていることを認識している。「消費者の受容と認知はなおも最大の課題の一つです。コーヒーの代替品は新しいものではありませんが、豆を使わないコーヒーへの私たちの取り組み方法は比較的新しいものです。コーヒー愛飲家にプリファーを啓発するべく取り組んでいます」と話す。

コーヒーの未来

コーヒー業界が、世界で最も愛される飲み物の一つ“コーヒー”の大量生産を、気候変動の影響を受ける未来において有効な方法、つまりコーヒー豆を使わずに行うということを受け入れるかどうかは現時点ではまだ分からない。しかし、コーヒー豆を含む大量の作物の不足や消滅の発生という増加の一途をたどる問題を考えると、適応する以外に方法はなさそうだ。ホーン氏はこう話す。

「コーヒ業界は伝統に深く根ざしながらも、サステナビリティやイノベーションの影響をますます受けるようになっています。私たちはコーヒー豆を使わないコーヒーという革新的な製品を紹介していますが、こうした二面性は時に摩擦を生みます。しかし、それは必要な変化を受け入れながらも、豊かな歴史に敬意を表す方法で、コーヒーの未来を守るまたとない機会を提供することにもなるのです」