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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

自然を優先するビジネス、2030年までに4億人弱の雇用創出

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かつてないほど自然環境を重視したビジネスや暮らしのあり方が求められる時代に突入している。各国の政府や企業がコロナ後の世界経済の再建を目指す中、世界経済フォーラム(WEF)が7月に発表した報告書『自然とビジネスの未来』では、自然に良い影響をもたらす「ネイチャー・ポジティブ(nature-positive)」なビジネスによって2030年までに3億9500万人の雇用創出と年間10.1兆ドル(約1070兆円)規模のビジネスチャンスが見込めることが明らかになった。

世界は今、自然環境と気候変動の状況が後戻りできないような転換点に差し掛かっている。報告書は、自然を喪失することで世界のGDPの半分以上にあたる44兆ドル(約4700兆円)の経済価値を損失する可能性があると警鐘を鳴らす。さらに、経済再建・復興の過程で私たちが選択する社会や経済のあり方がこれからの数十年を決める可能性が高いとし、より自然に重点を置いた刺激策をとることで、自然共生型の持続可能で回復力のある、人と地球にやさしい社会や経済をつくることができるという。

報告書では、自然に良い影響を与えることでビジネスの成果が上がった事例が紹介されている。例えば、インドネシアではセンサーと衛星画像を活用したスマート農業により、作物の平均収穫量が60%上がった。イタリアでは、2015年に開催されたミラノ万博で使用した100ヘクタール規模の土地が「ヨーロッパ・イノベーション・ハブ」に生まれ変わった。現在では、科学的なハブ、そして高機能で自然と共生するインフラを備えたコミュニティの拠点として、約1000人の雇用を生み出している。ベトナムでは、危機的状況だったマングローブが回復したことで、沿岸部の住人らの貝やカキなどの養殖による収入が2倍以上になったという。

報告書では、「食料、土地・海の利用」「インフラと建築環境」「エネルギーと抽出物」という3つの社会経済システムにおける15の根本的な変革が自然に良い影響をもたらしながら、どのようにして2030年までに年間10.1兆米ドルのビジネス価値を生み出し、3億9500万人の雇用創出をもたらすことができるかが説明されている。また、絶滅危惧種やほぼ絶滅危惧種と認められている種の約80%が、この3つの社会経済システムに存在する脅威によって絶滅の危機に陥っているという。

変革の一例が、多様な食生活への移行だ。世界の食糧の約75%は12種の植物と5種の動物からできている。より幅広い種類の野菜や果物を食べる、植物ベースの生活にシフトすることで2030年までに年間3100億ドル(約32兆円)のビジネスチャンスを創出することができるという。

循環型のソリューションを生み出すことも必要だ。繊維製品や自動車部品などに循環型モデルを適用することで、年間数百万トンの廃棄物を削減し、さらに材料をより長く使えるようになる。例えば、廃棄された衣類が原因で毎年5000億ドル(約53兆円)が失われている。衣類を再利用、再生、リサイクルすることで、1300億ドル(約14兆円)の節約につながり、2030年までに1億4800万トンの繊維廃棄物を防ぐことが可能になるのだ。さらに、同年までに一部の自動車部品を再利用することで約8700億ドル(約93兆円)を節約することもできるという。

スマートインフラのさらなる整備や再生可能エネルギーの普及も重要だ。大規模なスマートビルの建設とスマートセンサーの利用により、2030年までに約9400億ドル(約100兆円)を節約できるという。さらに、再生可能エネルギー分野では、2030年までに6500億ドル(約69兆円)の投資機会、10%以上のROI(投資利益率)、数百万人の新規雇用を見込める。補助金がなくても、太陽光発電は30カ国以上で化石燃料の価格と変わらないものになり、2021年までに中国とインドでは化石燃料発電よりも安くなると予測されている。

このほかには、生態系の回復と土地・海の利用の拡大回避、生産的な再生型農業、健全で生産性の高い海洋環境、持続可能な森林の管理、透明性のある持続可能なサプライチェーン、ネイチャー・ポジティブな建築環境設計、グリーンインフラなどにおいて現状から移行していくことが必要だとしている。

報告書の目的は、政策立案者が自然を資本の一つの形態として捉えることだ。自然は適切に管理されていれば、社会の長期的な幸福、レジリエンス(回復力)、繁栄の基盤となる。また、必要とされる変化のスピードや政府が直面している予算問題、国際協力などの状況を考えると、政府に頼ることは限界があるという。企業には、自主的なコミットメントなどの政策や規制の先を行く方法で社会をリードし、政策改革を進めるために政府やステークホルダーと協力していくことが必要と指摘する。そして、コロナが収束した後に訪れる深刻な社会的・経済的危機に対処するためには、私たちの生活や生産・消費の方法をリセットする必要がある、と企業や政府だけでなく個人の生活の変革の必要性についても言及している。

報告書は自然環境を優先した世界経済の基礎を築くビジネス・リーダーのコミュニティ「Champions for Nature」の活動の優先事項のほか、ポストコロナの公正かつ持続可能でレジリエンスのある未来に向けた社会・経済の復興「グレート・リセット」の一環として、政府がどのように自然を経済に組み込むことができるかを示した『ポリシー・コンパニオン・レポート』(世界経済フォーラム)にも反映されている。

世界経済フォーラムのロードマップは、「緑と公正な復興のためのC40(世界大都市気候先導グループ)市長会議のアジェンダ」や米大統領選に挑むジョー・バイデン氏の「2兆ドルの気候変動対策」とも合致する。この夏、ドールやネスレ、P&G、ユニリーバといった大手グローバル企業が発表した戦略においても、自然とコミュニティの健全性を最優先することでビジネス価値を生み出すことが打ち出されている。

編集・翻訳:サステナブル・ブランド ジャパン