サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
Regeneration

サステナビリティから「リジェネレーション」の時代へ

  • Twitter
  • Facebook
東 嗣了

We are Regeneration

サステナブル・ブランド(SB)国際会議の新しいテーマは、「We are Regeneration」です。この秋開催のSB国際会議(カルフォルニア州ロングビーチ)では、この「リジェネレーション:再生」というコンセプトを切り口に、持続可能性というステージから、どう私たちが「新たに再生していく力」を創りあげていくか。世界に向けて大きく発信される予定です。

日本ではまだ馴染みの薄いこの「リジェネレーション/リジェネレーティブ」という言葉。ここ数年、欧米のサステナビリティ関連の記事の中で、企業や市民レベルの動きの中で急速に扱われるようになりました。この言葉の奥に秘めた可能性のエネルギーが、深い地層の中から動き出している感覚です。

しかしながら、この「リジェネレーション」という言葉は、日本語としてまだ明確に訳されてもおらず、コンセプトも広がっていません。一般的には、「再生」や「新生」と訳されますが、これをサステナビリティの文脈でどう捉え意味づけし、自分ごととして行動に生かしていくか。対話を通して理解していくことが、何よりも大切だと考えます。単なる流行り言葉、バズワードに終わらせないために、今後の寄稿を通して、さまざまな角度からこの言葉の本質と可能性を共に考えていきたいと思います。

サステナビリティの限界

なぜここ最近、サステナビリティという言葉に代わって、この「リジェネレーション:再生」が注目されているのか。その一つに、サステナビリティという概念だけでは、今私たち人類が向き合う地球規模の社会課題は到底解決できないという危機感があります。

まず、サステナビリティという言葉を分解して考えてみましょう。

英語のSustainabilityの語源は、Sustain(維持する、持続する)とAbility(能力)の二つの意味から成ります。つまり、“持続し続ける能力”という意味合いから、「持続可能性」と日本語に訳されることが一般的です。また、SDGs(Sustainable Development Goals)にも使われている、持続可能な開発とは、「将来世代のニーズに応える能力を損ねることなく、現在世代のニーズを満たす発展」と定義づけられています(1987年ブルントラント委員会)。そして、サステナビリティの概念をより分かりやく統合化されたとも言えるSDGs。17の世界共通の目標が、まさに北極星の役割を担い、全世界が「サステナビリティ/持続可能な世界」に向けて大きく動き出していることは間違いありません。

しかしながら、私たちの想像以上に地球上の持続可能性は脅威に侵されています。ストックホルム・レジリエンス・センターが提唱したプラネタリーバウンダリーや、ケイト・ラワース氏によるドーナツ経済のモデルが示す通り、人類が地球システムに与えている負のインパクトは限界に達しています。すでに、気候、水や土壌の環境、生態系といった自然資本が回復不可能な状態とも言えます。たとえばもし今すぐ、地球上のCO2の排出をゼロにしたとしても、複雑なシステムでつながっている地球システムは、機械のように直ぐに修復できるものではないのです。このような危機的な状況の中、単に「Sustain:持続していく」という概念に基づく行動だけでは限界なのです。これまでも、これからも、私たち自身が新たに「再生」しながら繁栄していく道を選択していかないと、真のサステナビリティは実現できない転換期に来ているのです。

More Goodを生み出す「リジェネレーション:再生」の力

「リジェネレーション:再生」を紐解く上で、まずご紹介したいのが、サステナブル・ブランド国際会議(米国)でも登壇されているウィリアム・マクダナー氏の考え方です。彼は、建築家であり、これまでのリニア型の経済モデル(ゆりかごから墓場まで)から、Cradle to Cradle®︎(ゆりかごからゆりかごへ)と呼ばれる認証システムを確立し、循環型の商品、サプライチェーン、建築、都市など、さまざまな再生イノベーションを生み出している方です。まさに、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を2003年頃から牽引しているリーダーです。

以前、サステナブル・ブランド国際会議デトロイトで彼の講演を聞いた時に、「being less bad is not being good::悪くない状態にしていくことと、良い状態になっていくことは違う」という言葉がとても印象的でした。これは、私たちのこれまでの持続可能性という文脈での取り組みの中心は「いかに二酸化炭素の排出を減少するか」「いかに陸や海を汚さないか」といった、マイナスの側面を減らすこと(Less bad)が中心であり、それは必ずしも地球環境にとってプラスの側面を増やすこと(More good)とはイコールではないというメッセージでした。持続可能性という範囲だけを目指して、従来型の経済モデルからエコ・環境配慮型のイノベーションを生み出したとしても、マイナスの側面がある意味0%に近づくだけで世界は変わらない。これからの時代は、プラスの側面を意図的にもっと生み出していくことが不可欠なのです。

私たちが生きる地球システムが、再生的・繁栄的になるよう、自然資本を守り浄化し、廃棄物を一切生み出さない循環型の経済システムを構築し、さらにより健康的で安全であり、付加価値が生まれていくシステムを構築していくこと。サステナビリティの範囲を超え、最終的に私たちの人類のあらゆる活動や生き方が、レジリエントであり再生的になっていくことが、まさに「リジェネレーション:再生」という考え方だと言えると思います。

「リジェネレーション:再生」の4つのレベル

これまでのサステナビリティの意識を超えた、再生的・繁栄的(リジェネレーティブ)な意識の変容、社会システムの変容が始まっています。この変容を生み出していく上で、私は大きく4つのレベルのリジェネレーションが鍵だと考えます。

1.個人レベルのリジェネレーション

北米でのSB国際会議では、毎朝、ヨガのセッションが開催され、今この瞬間に意識を向けていく時間、自分自身を整える場が意図的に創られておりました。また、多くのビジネスパーソンに対しても、自然と繋がる場であったり、個人向けのコーチングセッションであったり、マインドフルネスという切り口で、個人の意識の変容や心と体の再生を支援する動きが高まっています。

世界を変えよう!SDGsを達成しよう!と強い想いがあっても、自分自身の内側が整っていなければ、決して外に対して変化の影響力を及ぼすことはできないと思います。サステナビリティの役割を担っている担当者が、自分自身がサステナブルでない、という嘆きや疲弊感もよく耳にします。心身共に内側を整えていく個人レベルのリジェネレーションに対して、私たちがより意識的、意図的に内側に関わっていくことが大切です。

(参考記事)サステナブル・ブランド国際会議2020横浜パネルセッション「インナー・サステナビリティが未来を創る〜自然と自分との繋がりが未来のサステナビリティ・リーダーを生み出す〜」

2.組織レベルのリジェネレーション

これまでの組織構造、意識、働き方が大きく変わろうとしています。特に今はコロナウィルスの影響からのリモートワークへのシフトなど、従来型の組織構造や人々の関わり方が既に変わり始めています。フレデリック・ラルー氏が提唱するティール組織(組織を一つの生命体として扱う概念)に対する大きなムーブメントは、これまでの階層型の組織構造や指示命令系統に対する疑問や限界の現れかもしれません。自分自身の存在が組織の一機能として扱われる時代から、一人ひとりが意思を持った生き物として扱われ、つながり共鳴し合い、自己組織化していくことが、組織そのものがより再生的・繁栄的になっていくことに繋がっていくと信じています。

3.システムレベルのリジェネレーション

ここでいうシステムとは、再生的な経済システム、社会システム、農業システム、教育システム、医療システムなど、あらゆるつながりを持った関係性、構造的なシステムが当てはまります。再生的なシステムとして代表的な考え方は、サーキュラーエコノミーと呼ばれる循環型の経済システムです。例えば、原材料の調達から、製造、物流、販売、利用、回収、再生化、付加価値化、と閉じられたループの中で無駄や廃棄物を生み出さないような経済活動が循環していくイメージです。すでにLUSH、パタゴニア、インターフェイスなどが、リジェネレーティブなモノづくり、システム全体でのイノベーションを実現し始めています。

4.地球レベルのリジェネレーション

これは、上記の3つも包括されるプラネットレベルの大きな再生性への動きです。私たちが生きていく地球そのものをいかに再生し、私たち人類が繁栄していくか。このレベルのリジェネレーションで必要になってくるのが、「自然の叡智に意識を向け、自然の叡智から学ぶ」あり方です。私たちが生きている地球には、38億年もの時を超え、再生され続けてきた自然の叡智が生き続けています。Biomimicry(バイオミミクリー)と呼ばれる自然の叡智からイノベーションを生み出していく考え方が、今後すべてのレベルのリジェネレーションの鍵となることでしょう。この考え方については、次回以降により詳しくご紹介します。

今、COVID-19の影響で世界システムが大きく揺らいでいます。未来の世界を考えることよりも、目の前の毎日をどう生きるか。多くの人が困難に向き合っている状況かと思います。このような状況で、気候変動やサステナビリティのことに意識を向けることが、なかなか難しい方も多いと思います。しかしながら、このタイミングだからこそ、アフターコロナの世界をこれまでの状態に戻す、維持していくマインドセットを超えて、新たな未来や生き方を再生していくリジェネレーションのタイミングなのではないでしょうか。

  • Twitter
  • Facebook
東 嗣了
東 嗣了(あずま ひであき)

サステナビリティ・リーダーシップコンサルタント。これまで400社、3万人以上を対象に、人と組織の本質的な変化・変革を支援。左脳的なロジックと右脳的な感性をバランス良く取り入れることが強み。日本におけるサステナビリティ・リーダーの育成に情熱を注ぐ。バイオミミクリーのコンサルティング会社「Biomimicry 3.8」の共同創業者であるデイナ・バウマイスター氏から、直接指導を受ける中、共創型ラーニングコミュニティ「バイオミミクリー大学」を立ち上げ、リジェネレーションに向けたシステム変容を支援している。アリゾナ州立大学院サステナビリティ・リーダーシップ学エグゼクティブ修士。(株式会社SYSTEMIC CHANGE www.systemichange.com )