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「グッドキャリア企業アワード2022」大賞に雪印メグミルクやトラスコ中山など 従業員の自律的なキャリア形成を支援

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従業員の自律的なキャリア形成支援に取り組む企業を表彰する「グッドキャリア企業アワード2022」の表彰式とシンポジウムが1月24日に開催され、16社が受賞した。「大賞」に雪印メグミルクやトラスコ中山など5社が、「イノベーション賞」に明治安田生命保険、富士通、NTTコミュニケーションズなど11社が選ばれた。アワードは厚生労働省が主催し、企業の理念や取り組み内容などを広く発信し、キャリア形成支援の重要性を普及・定着させることを目的に2012年度から実施。2年ぶりとなった今年度は前回の約2倍に当たる89社から応募があった。(松島香織)

不確実性が高いからこそ、従業員の自律的な学びが必要

シンポジウムでは審査委員長を務めた法政大学経営大学院教授の藤村博之氏が登壇し、「キャリア開発とは売れる能力、つまり企業が必要とする能力を維持・向上させていくこと」だと説明した。「時代はますます不確実性が高まり、5年、10年後にどういった能力が必要とされるのかわからない。だからこそ従業員個人の自律性が必要になる」という。

ただし、キャリア形成は従業員任せにするのではなく、企業もどういう能力が必要かを考え、機会を提供し、支援することが重要だ。そうしてこそ、「結果として企業利益は上がる。本アワードの受賞企業は当然だが、それができている」と藤村氏は強調した。そしてアワードへの応募は、「書類を作る過程で自分たちがやっていることが理解できる、とてもいい機会」だと結んだ。

人事制度を抜本的に見直し、エンゲージメントで現場の声を制度に反映――トラスコ中山

大賞を受賞したトラスコ中山は、さまざまな部署を経験させ社員を育成するジョブローテーションを実施しているが、逆にキャリア形成がしにくく、さらに専門的なレベルアップに挑戦する機会が少ないといった課題があった。そこで人事制度を見直し、HRサポート課の新設、面談を活用したタレントマネジメントシステムの運用、エンゲージメントサーベイ(エンゲージメントを測定し組織の状態を可視化する診断ツール)により現場の声を制度に反映するなど改善に取り組んでいる。

パネルディスカッションに登壇した同社人事部部長の喜多智弥氏は「当社の人事は人事管理がメインで企業戦略に結び付けていなかった」と反省する。新たな取り組みに関して「人に関して正解はない。きちんと社員ひとり一人が自分事として捉えられるよう意識して伝えている」と話した。

エンゲージメントサーベイは同社では初めての取り組みであり、社員の声を聴いて改善し続けている。喜多氏は「定年まで頑張るのではなく気が付けば定年まで働いていた、が理想。キャリアプランは全員があるものではなく、わからないも時もあり、しかも個人の中で価値観は変わる。どんな環境でも社員のキャリア形成を支援していきたい」と力を込めた。

企業に大小は関係ない、京都からロールモデルを目指す――ナンゴ―

ナンゴ―は京都・宇治市にある15人の会社で、汎用機械器具などを製造している。2018年にイノベーション賞を受賞したが、経営理念である「仕事を通じて私たちは向上する!!」に沿ってプロジェクトグループ室を設置し、自主的な勉強会の実施や生産性効率や職場環境の改善などに継続的に社員が関わっていることが評価され、今回大賞となった。

同社代表取締役の南郷真氏は、大手企業を経てナンゴ―を引き継いだ時、それまでいた大企業とでは人材スキルが違うことに愕然としたという。だがすぐに社員それぞれに学びたい気持ちはあるが、その機会がなかっただけだと気づき、最終学歴ではなく「最終学習歴」を更新し社員の人間力を高めることに注力してきた。

「自分の意志でSDGsの講習を受けた社員が勉強会でほかの社員に情報共有し、会社としてものを無駄にしない取り組みにつながった。一人の学びは確実に広がる」と自発的な社員の行動に嬉しそうだ。

そうした社員の行動が全社員のことを考えて積極的に活動する会社風土につながり、さらに大きな波及効果もあった。会社としてSDGsを意識することにより、地域や他社との連携・コラボレーションが実現しているという。南郷氏は「こうしたことは社員の人間力が高くなったからできたこと。企業に大小は関係ない。今後も学びあいを深めながら当社がロールモデルになりたい」と力を込めた。

福祉の現場から、明るい話題を発信したい――社会福祉法人平鹿悠真会

社会福祉法人平鹿悠真会は3回目の応募にして、今回初めてイノベーション賞を受賞した。秋田県横手市にある同法人は高齢者福祉事業に携わっており、職員の平均年齢は43歳、約8割が女性だ。同法人特別養護老人ホーム悠西苑の施設長、辻田誠氏は「女性職員が多く、長く働いてもらうために家庭と仕事を両立することができる制度が必要だと考えた」と話す。

職員が主体的にキャリアを積み上げることを主軸に考え、産休育休希望者に復職後の託児所利用など細かく聞き取り、不安がないように復職をサポート。また国家資格に挑戦する職員には情報提供や費用助成などで支援している。こうした取り組みにより、復職率は100%を達成し、介護職員21人全員が介護福祉士の資格を保有するまでになった。

「介護施設は離職率が高く、業務内容も過酷だと社会からネガティブな見方をされがち。小さな組織なのでこうした取り組みができたのかもしれないが、介護職でもキャリアを積み重ね長く働くことができる。私たちの受賞が明るい話題になれば」と辻田氏は期待を込めて話した。

「グッドキャリア企業アワード2022」の受賞団体は以下のとおり。

【大賞 5社】
・イデックスビジネスサービス:福岡市、その他の小売業(249人)
・えびの電子工業:宮崎県えびの市、電子部品・デバイス・電子回路製造業(690人)
・トラスコ中山:東京・港区、機械器具卸売業(2996人)
・ナンゴー:京都府宇治市、はん用機械器具製造業(15人)
・雪印メグミルク:東京・新宿区、食料品製造業(4221人)

【イノベーション賞 11社】
・NTTコミュニケーションズ:東京・千代田区、通信業(9364人)
・コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス:東京・港区、その他のサービス業(2575人)
・西部ガス絆結:福岡県春日市、その他のサービス業(25人)
・ダイムワカイ:京都市、職別工事業(90人)
・トゥモローゲート:大阪市、映像・音声・文字情報制作業(40人)
・社会福祉法人 平鹿悠真会:秋田県横手市、社会保険・社会福祉・介護事業(37人)
・富士通:東京・港区、情報サービス業(36216人)
・明治安田生命保険:東京・千代田区、保険業(47415人)
・ヤフー:東京・千代田区、インターネット附随サービス業(7905人)
・洛北義肢:京都市、業務用機械器具製造業(74人)
・LAPRAS:東京・品川区、情報サービス業(41人)

※( )内は従業員数

「グッドキャリア企業アワード2022」厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30058.html

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。