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脱炭素特集

食品廃棄物はもう燃やさない――食品ロスを発酵させバイオガスや飼料、肥料に

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生ごみから1000戸分の電力を作り出す「さがみはらバイオマスパワー」

日本はごみを焼却して処理する割合が世界でも突出して高く、その処理費用は年間2兆円を超え、多くが税金で賄われている。そのごみの約4割は食品であることもあまり知られていない。そのため、食品廃棄物を燃やさずに、発酵によりバイオガスを作り出し利用しようという試みが広がりつつある。

食品廃棄物から液体状の飼料を製造する日本フードエコロジーセンター(相模原市)は、系列のバイオガスパワー(同)において、昨年11月から飼料に向かない廃棄物をメタン発酵によりバイオガスを作って発電し、残渣(ざんさ)を肥料化している。JR東日本グループも今年4月から駅ビルなどから排出される食品廃棄物を燃やさずにバイオガス化し、生み出された再生可能エネルギーや排熱をグループ内施設で利用する取り組みを始めた。

どちらもごみ処理に関わるCO2を大幅に削減し、食品廃棄物を資源として捉えてエネルギーや飼料、肥料などに活用するサーキュラーエコノミーを推進すると共に、焼却に伴う税金支出の低減、生産者の飼料、肥料の費用削減などさまざまなメリットを生んでいる。(環境ライター 箕輪弥生)

欧州では「有機廃棄物はバイオガスに」が主流に

日本の食品ロスは減少傾向にあるものの、今なお毎年500トン以上が排出され、全国にある焼却場でその約8割は燃やされている。水分の多い食品廃棄物は、焼却する際に多くのエネルギーを使い、CO2も排出する。

一方、隣国の韓国では、食品廃棄物のリサイクル率は95%まで高まり、主に肥料や飼料にリサイクルされている。欧州では有機廃棄物のバイオガスへの変換が進む。European Biogas Associationによれば、現在30億立方メートルのバイオガスが生産され、これを350億立方メートルに拡大するために、約800億ユーロの投資を行い、新規のバイオメタンプラントを5000カ所建設する計画だ。これらの原料には家畜のふん尿や農業残渣、産業排水なども含まれるが、食品廃棄物も6%を占める。

食品廃棄物を処理する際に廃棄物やCO2排出を抑制するためには、食品ロスを減らすことはもちろん、燃やさずに活用することが国内外で重要になってきている。

複数の課題を解決するビジネスモデルを構築――さがみはらバイオガスパワー

事業者から回収した食品廃棄物はバーコードによって情報を管理している(日本フードエコロジーセンター)

食品廃棄物からバイオガス化、飼料化、肥料化をワンストップで実現したのが、「さがみはらバイオガスパワー」だ。

ここではまず隣接した「日本フードエコロジーセンター」(以下J.FEC)で、毎日約40トンの食品廃棄物を受け入れ、粉砕、殺菌処理をして乳酸発酵を行い飼料化する。特徴は、リキッド状の発酵飼料としている点で、牛乳やヨーグルトなどの液状の廃棄物をそのまま利用できることによりエネルギーコストを下げ、飼料価格も一般の輸入配合飼料の半分程度の価格にできる。

「日本の場合は発酵という技術があるので、それを使ってPH4以下に下げることで保存性を高め、液状でも腐敗しにくいようにリキッド発酵飼料を開発した」とJ.FECとさがみはらバイオガスパワーの社長を務める高橋巧一氏は説明する。

J.FECは主に大手の食品企業などからの食品残渣を受け入れ、そこから生まれた飼料を契約養豚農家に販売する。円安で輸入飼料の高騰に悩む養豚農家にとって、価格が安く、品質が高い飼料はメリットが大きい。事業を行う同社にとっても、「食品関連事業者と畜産農家の双方から収入があり、エネルギーの売電収入も得られるため、継続性の高いビジネスモデルとなる」(高橋社長)。

畜産・農業を持続可能にする食品廃棄物の活用

処理の難しい消化液から肥料を作る工程を説明する高橋社長

次に道を挟んで隣接する「さがみはらバイオガスパワー」では、これまで飼料に加工しにくかった油や塩分の多い廃棄物を発酵させてメタンガスをつくり、一般家庭約1000戸分に相当する出力528キロワットのバイオガス発電を行う。電力はFITで販売するが、FIT非化石証書を通じてすべての電力は小田急電鉄の本社が購入している。

さらに、発酵後の消化液を活用するため、残った固形部分はバイオガス発電の廃熱で乾燥し、肥料の原料を製造し、食品廃棄物が全く無駄にならずにカスケード利用されている。また、ここで発電された電力および井戸水は災害時に地域住民に提供し、防災拠点とすることで相模原市と協定を結んでいる。

農水省などの委員会に参加する高橋社長は「この2つの工場をモデルとして、地域の特性に合った形で技術やノウハウを導入すれば、エネルギーや飼料、肥料コストも抑えられ、持続可能な農業が可能になるのでは」と考えている。同社では技術やノウハウに特許などは取らず、オープンイノベーションとしている。

※資源やエネルギーを1回だけの使い切りでなく、他段階に活用すること

グループ企業連携でバイオガス化を実現――JR東日本グループ

焼却処分によらない微生物の働きによってバイオガスを作る「Jバイオフードリサイクル」

JR東日本グループはこれまで駅ビルやホテルから排出される食品廃棄物の処理について、飼料、肥料化は行ってきたが、脂分や塩分が多かったり、混入物があるなど、飼料化や肥料化による再生利用には向いていない形状の食品ロスの処理が課題となっていた。

この課題を解決したのがグループ企業のJバイオフードリサイクル(横浜市)および東北バイオフードリサイクル(仙台市)だ。ここでは、これまで焼却処分されていたプラスチックや割り箸などが混入している食品廃棄物を受け入れ、機械的に有機物のみを分別し、メタン発酵によってバイオガスを生成し、発電する「電力リサイクルループ」を4月から始めている。

JR東日本グループのコーポレート・コミュニケーション部門の担当者によると、1日約20~30トンの食品廃棄物を受け入れ、Jバイオフードリサイクルは年間約1700万キロワット時、東北バイオフードリサイクルは年間約650万キロワット時の発電量を計画している。

分別・収集・運搬・バイオガス化・再生可能エネルギーの活用に至る役割をJR東日本グループが連携して担う

また、この発電量と排熱の一部をルミネ横浜、JR東日本ホテルメッツ横浜桜木町などJR東日本グループの7つの施設に供給し、施設使用電力量の2~3割を補えると見込む。

「取り組みの構想は数年前からあったが、グループ企業の連携の完成までに時間がかかった」と同社の担当者は話す。しかし「課題解決のためグループ内に既にある廃棄物の収集運搬や商社機能に着目し、食品廃棄物等の収集、運搬や電力供給までグループ関連会社 21 社が連携して役割を担うことにより、実現した」という。その上で、「JR東日本グループが連携することで“四方よし”にも“五方よし”にもなる取り組みが実現し、それがさらにサーキュラーエコノミー推進につながる」と期待する。

日本は現在、電力、飼料、肥料の多くを輸入に頼っているが、そのビジネスモデルは円安や原料のコスト高などにより厳しい状況に追い込まれている。これまでやっかいものとして廃棄されていた生ごみを有効活用する事例は、脱炭素やサーキュラーエコノミーの視点からも課題解決のひとつの解を示している。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/