• 公開日:2025.06.26
先進国が他地域に悪影響、5目標10年進捗なし――2025年版世界SDGs報告書
  • 廣末 智子
2016年から発行されてきた「サステナブル・ディベロップメント・レポート」の表紙。左上が最新の「2025年版」

世界の構造的な格差や、絶え間なく起こる紛争が、SDGsの進捗を著しく阻害している――。国連の関連組織であるSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が6月24日、世界のSDGs達成度を分析した最新の報告書を発表し、国際社会が「公約」として掲げる持続可能な世界の実現が極めて厳しい状況にあることが改めて浮かび上がった。  

167カ国による国別ランキングの1位はフィンランド。日本は19位(前年は18位)で、欧州勢が占める上位20カ国に食い込んだ。しかし、これら上位の国々でさえ、気候変動や生物多様性保全に関連するいくつかの目標で課題を抱える。全体においてSDGsの達成度の高い先進国が、貿易や消費を通して他国の環境や社会経済への負の影響を生み出している側面も依然として大きい。 

「飢餓をゼロに」など5目標が進捗なし 

「サステナブル・ディベロップメント・レポート2025」より

 SDSNは、国連の提唱のもと、世界的な科学技術の知見を結集し、2012年に設立されたネットワーク。SDGsが発効された2016年以降、毎年、世界各国のSDGsの進捗状況を『サステナブル・ディベロップメント・レポート(持続可能な開発報告書)』としてまとめ、各国のスコアをランキング形式で発表している。  

2025年版のレポートは、SDSNを構成するイニシアティブの一つであるSDGトランスフォーメーション・センターの専門家グループが執筆。それによると、世界平均で、SDGsは大きく軌道から外れ、17の目標のうち、2030年までに達成できる見込みのものは一つもない。 

 世界のSDGsへの取り組みはパンデミックとロシアのウクライナ侵攻を境に停滞し、2023年の本レポートで、2030年までに各ゴールを達成することが難しいとする予測がなされた。今回の2025年版レポートは、その流れが変わらないばかりか、むしろ2030年の目標達成が実現しないことが決定的になりつつあることを突きつけた形だ。 

レポートによると、目標2(飢餓をゼロに)と11(住み続けられるまちづくりを)、14(海の豊かさを守ろう)、15(陸の豊かさも守ろう)、16(平和と公正をすべての人に)に至っては2015年以降、ほとんど進捗がなく、17(パートナーシップで目標を達成しよう)の進捗も「極めて限定的」にとどまっているという。 

もっとも169あるターゲットのうち16.7%は、2030年に達成する見込みがある。そのうち最も達成見込みの高い5つのターゲットは、「携帯電話の利用」「電力へのアクセス」「インターネットの利用」、「5歳未満児の死亡率」、「新生児死亡率」で、逆にほとんどの国で停滞または後退しているターゲットとしては、「肥満率」と「報道の自由」、「持続可能な窒素管理指数」、「レッドリスト指数」、「腐敗認識指数」の5つが挙げられた。 

格差大きく、下位国は紛争などで進捗に遅れ

「サステナブル・ディベロップメント・レポート2025」をもとに編集局が作成

こうしたSDGsの深刻な進捗の遅れの原因を、レポートは、「さまざまな形態の紛争や、構造的な脆弱(ぜいじゃく)性、限られた財政余地といった要因によって説明できる」とする。

それらの要因を背景に、SDGsの達成状況における各国の格差は依然として大きく、2025年版の国別ランキングのスコアでは、上位国が80点を超える一方、紛争などによりSDGsの取り組みが特に困難な国では50点を下回る水準となった。ランキングの下位に位置する国々ほど、「紛争や安全保障問題、政治的または社会経済的な不安定さ」などの影響を受ける傾向があり、2025年版ではイエメン、ソマリア、チャド、中央アフリカ共和国、南スーダンが最下位だった。

こうした上位国と下位国の格差について、報告書は、「持続不可能な消費」や「有害廃棄物の輸出」「違法取引」「不公平な租税競争」などを要因に、「SDGsの達成度と生活満足度が他を上回る先進国が、CO2の排出、生物多様性への脅威、労働災害といった環境及び社会経済への負の影響を海外に生み出している」とも指摘する。 

日本と他の地域の「スピルオーバー・スコア」の比較。数値が低いほど貿易や消費によって他国に負の影響を生み出しているとされる (「サステナブル・ディベロップメント・レポート2025」より)

報告書は、一つの国や地域が他国にもたらす影響の度合いを「スピルオーバー・スコア」として数値化しており、その数字は低いほど、負の波及効果が大きい。今回、世界平均のスコアは90.3だったのに対し、OECD加盟国の平均スコアは70.1(日本は75.2)と、先進国が他国に負の影響を生み出していることが改めて示された。 

日本のジェンダー平等は国会議員数と賃金格差が最大課題

サステナブル・ディベロップメント・レポート2025」より

19位に付けた日本は、目標2、5、12、13、14、15の6つの実現に依然として障壁があり、特に2に含まれる「持続可能な窒素管理指数」や「栄養段階」などのターゲットの水準が低かった。日本政府が先般、公開した「自発的国家レビュー」の中で、長年の課題であることを明確に認めた5のジェンダー平等の遅れについては、本レポートにおいても「国会における女性の議席数」と「男女賃金格差」が「最大の課題」とされた。 

 

「米国が多国間主義で最下位」となったことへの危惧表明

また今回のレポートは、「誰一人取り残さない」ことをうたうSDGsの趣旨に立ち返り、各国や地域が国連を拠点に協調する「多国間主義へのコミットメント」の重要性を強調。これを評価する項目においては1〜3位をバルバドスとジャマイカ、トリニダード・トバゴとカリブ海周辺の国々が占める一方、米国は2年連続で最下位。トランプ政権下でパリ協定と世界保健機関(WHO)から脱退し、SDGsと2030アジェンダへの反対を正式に表明したことなどが背景で、本レポート内でも危惧がはっきりと示された。

SDSNの会長で、本レポートの筆頭著者であるジェフリー・D・サックス氏は、「地政学的緊張の高まり、世界的な不平等の拡大、深刻化する気候危機の中、今年のレポートは、世界がSDGsを平和・公平・幸福への圧倒的な道筋として認識することを強調する形とした。SDGsの達成には、何よりも平和と世界的な協力が必要だ」と各国に改めて要請し、世界金融アーキテクチャーの緊急改革の必要性を訴える。

2030年の目標達成は風前のともしびであっても、これ以上、状況を悪化させることがないために――。その成否が各国の歩調にかかっている。  

 

◉報告書の全文はこちらから  

◉2025年6月に発表されたSDGs関連のその他の統計に関する記事:

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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